台湾総統選、若い有権者にとって最大の争点は?

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民進党支持を呼び掛ける選挙ポスター=23年12月27日、台北/An Rong Xu/Bloomberg/Getty Images

民進党支持を呼び掛ける選挙ポスター=23年12月27日、台北/An Rong Xu/Bloomberg/Getty Images

台北(CNN) 台湾海軍の退役将官としてウーさんは昔を振り返り、ミサイルフリゲート艦に乗って数十年にわたり世界中を航海したしたことについて、これ以上ないほど誇りに思っている。

ウーさんはかつて、何百人もの海軍将校を率い、故郷から何千キロも離れた場所で任務を遂行し、祖国を代表していることに栄誉を感じていた。

ウーさんはCNNの取材に対し、「私は自分が中国文明の一員であると信じている」と語った。ウーさんは自身の考え方が標的にされることを懸念してフルネームを使用しないよう求めた。

アイデンティティーの問題、そして、台湾と中国との関係は、台湾で最も重要な政治的分断のひとつであり、調査によれば、このことは以前の選挙での投票パターンと密接に関連していた。

人口2350万人の民主主義の島である台湾では13日に総統選を行う準備が進められており、専門家によれば、アイデンティティーが選挙結果に与える影響は、より小さい可能性がある。

ウーさんのような中国の伝統に対する忠誠心は、台湾の権威主義時代に育った高齢の退役軍人や、1949年の国共内戦終結時に家族が台湾に亡命した多くの高齢者世代に典型的なものだ。しかし、調査によれば、若い世代は現在、圧倒的に自身を台湾人とだけ認識している。

伝統的に政治的な調査では、中国人ではなく台湾人とだけ自認する人々は、独立志向のある与党・民進党を支持する傾向が強い。

現職の蔡英文(ツァイインウェン)総統は8年前の政権発足以来、中国当局による怒りの警告にたびたび直面してきた。

多くの若い有権者は過去の総統選で蔡氏を支持してきたものの、最近の世論調査では、若い有権者の多くは第3勢力・台湾民衆党の柯文哲(コーウェンチョー)前台北市長を支持している。

柯氏は自身を「実利的」な選択肢と位置づけており、民進党の頼清徳(ライチントー)副総統や野党・国民党の侯友宜(ホウユーイー)新北市長と比べて、イデオロギー色は薄いかもしれない。

頼氏は蔡氏の政策を引き継ぐとの姿勢示しており、台湾は中国政府に従属するものではないと強調している。侯氏は今回の選挙について「戦争か平和か」の選択と位置づけ、中国との戦争の危険性を抑制できるのは国民党だけだとしている。中国共産党は台湾を支配したことがないにもかかわらず、台湾を自国の領土だと主張し、必要があれば武力を行使して台湾を「統一」するとの考えを明らかにしている。

柯氏は、中国政府と定期的に対話を行いながら抑止力を強化すると述べているが、それをどのようにして達成するのかについては明らかにしていない。

台湾民衆党の候補、柯文哲氏の集会で歓声を上げる支持者/I-Hwa Cheng/AFP/Getty Images
台湾民衆党の候補、柯文哲氏の集会で歓声を上げる支持者/I-Hwa Cheng/AFP/Getty Images

CNNは、投票の優先順位について理解しようと、さまざまな政治的志向の20代から30代の台湾人10人あまりを取材した。

ほぼ全員が自身について中国人ではなく台湾人として認識しているが、大多数が今回の選挙について、中国が最も重要な要素とはみていないと語った。理由としては、現状が短期的に変わるとは考えていないからだという。

新北市の公務員チャールズ・シェンさん(34)は「(民進党も国民党も)どちらもイデオロギーを争っているだけで、私にとっては独立も統一も現実的ではない。どちらの側が与党でも我々の生活は実際には改善されてない」と語る。

台南市のスポーツ指導者モニカ・チェンさん(28)は、政治的な言説をめぐる論争にはうんざりだと述べた。

国民党候補、侯友宜氏の発言に耳を傾ける支持者=8日、台中/Man Hei Leung/Anadolu/Getty Images
国民党候補、侯友宜氏の発言に耳を傾ける支持者=8日、台中/Man Hei Leung/Anadolu/Getty Images

台湾の若い有権者の一部はCNNの取材に対し、台湾の将来についての現在の議論はイデオロギーに基づくものだと指摘。唯一の実現可能な選択肢は現状維持であり、つまり台湾が最終的な地位を決定せずに自治を続ける協定を維持することだとの見方を示した。

中国政府は2016年に蔡政権が誕生して以降、公式の対話を停止し、台湾に対する経済的、外交的、軍事的圧力を着実に強めている。

米ネバダ大学で台湾政治を専攻するオースティン・ワン氏は、今回の選挙でより中心的な争点となるのは生活に関連した問題だとの見方を示す。理由としては、多くの台湾人は、今回の選挙が、短期的に台湾と中国との関係を根本的に変えるとは考えていないためだという。

「多くの台湾人の目には、現状がすぐに変わるとは考えていないため、どちらかを選ぶ必要はないと映っている。もし、現状が続くのであれば、社会正義や住宅価格の上昇などの他の問題を考えることができる可能性があるとみている」(ワン氏)

CNNの取材に答えた若い有権者の大半は、経済的な幸福、特に上がらない賃金や公共住宅の不足を懸念していた。

当局によれば、輸出に依存している台湾経済の成長率は昨年、1.61%増と8年ぶりの低水準となった。台湾産のテクノロジー製品に対する世界的な需要の減退が影響した。

台湾にとって、最先端の半導体を供給する世界の主要国としての役割に揺るぎはないが、それ以外の労働者の所得水準は過去20年間、ほとんど停滞したままだ。

当局の最新の統計によれば、台湾の22年の月給の中央値は1386ドルだった。これは韓国(同1919ドル)や香港(同2444ドル)、シンガポール(同3776ドル)を大きく下回っている。

さらに台湾では公営住宅の利用は難しくなっている。経済協力開発機構(OECD)の統計によれば、23年11月時点で、台湾の住宅戸数全体に占める公営住宅の割合は0.2%に過ぎず、これは他の多くの先進国と比較して著しく少ない。

若い有権者にとっては生活費や住宅費が重要な争点になっている/Lam Yik Fei/Bloomberg/Getty Images
若い有権者にとっては生活費や住宅費が重要な争点になっている/Lam Yik Fei/Bloomberg/Getty Images

しかし、今回の選挙で国内の生活関連の問題が重要視されているからといって、台湾の若い世代が中国政府の脅威について無知なわけではない。

ネバダ大のワン氏によれば、台湾社会には中国本土との統一は受け入れがたい選択肢だという明確な意見の一致が存在する。

行政部門「大陸委員会」による昨年10月の世論調査では、回答者の60%以上が無期限の現状維持を支持しており、中国本土との即時あるいは最終的な統一を支持したのは6.8%にとどまった。

若い有権者のなかには、台湾が苦労して勝ち取った民主主義を守り、国際社会に台湾の自由を守る決意を見せ、台湾支持に価値があることを示すことの重要性を強調する人もいた。

中国政府が香港の政治的な自由を取り締まったことで、台湾独自の活気に満ちた民主的な文化は中国共産党の指導者の下では長く続くことはないだろうとの懸念が多くの人々の間で深まった。

台北の学生キャリー・ワンさん(26)は「投票の決定は主に、人々がどの問題に最も関心を寄せているかによって決まると思う。私にとっては、国際社会で台湾を最も前進させることができる総統を選ぶことが最も重要だと考えている」と語った。

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