OPINION

民主主義と独裁の戦い、潮目は変わりつつあるのか

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選挙当局を弱体化させるとする法律への抗議デモで、広場を埋め尽くすメキシコの人々/Fernando Llano/AP

選挙当局を弱体化させるとする法律への抗議デモで、広場を埋め尽くすメキシコの人々/Fernando Llano/AP

(CNN) 20年近くにわたり、世界中の民主主義国は地歩を失い続けている。無数の独裁者たちが、自国の民主主義の基盤を粉々にすることに成功してきた。彼らが難解な法律の成立によって静かにむしばんでいくのは人権、報道の自由、あるいは権力の分立だ。少し例を挙げるだけでも、これだけのものが失われている。

フリーダ・ギティス氏
フリーダ・ギティス氏

超党派の非政府組織「フリーダム・ハウス」からの新たな報告で確認できるのは、数十カ国に暮らす数百万人が昨年、自分たちの自由が失われていくのを目の当たりにしたということだ。2022年に自由を失った国の数は、それを得た国の数を上回る。しかしよく目を凝らすと、そこには期待を抱かせる変化の兆しも見える。衰退のペースは落ちており、メキシコやイスラエル、ジョージアといった国々の抗議デモ参加者が見せる反撃により、形勢が逆転する可能性もある。

フリーダム・ハウスは「世界人権宣言」の原理を活用して、あらゆる国における個人の自由度を測定。数値スコアを割り出して「自由」、「部分的に自由」、「自由ではない」のカテゴリーに分類している。測定の基礎となる要素には報道の自由、法の支配、結社及び信仰の自由、自由で公正な選挙などが含まれる。

この測定によれば、自由の度合いは世界全体で17年間低下し続けている。独裁政治は依然として勢いづき、民主主義は今なお守勢に回る。それがこれ以上ないほど愚かしい形で表れているのがウクライナだ。建国してまだ歴史の浅いこの民主主義国が身を守る相手は、いわれなき攻撃を仕掛けてくる独裁体制の隣国、ロシアに他ならない。

しかし大半の国々において、独裁者たちによる政策の推進はより微妙な手法を取る。現行のルールを変更し、自分たちにより多くの権力を集めるやり方だ。フリーダム・ハウスが民主主義の衰退を確認した国はチュニジア、ニカラグア、エルサルバドル、ハンガリー、ブルキナファソをはじめとする数十カ国に上る。

とはいえ、わずかながら良いニュースもある。昨年、自由度が前の年より低下した国は35カ国だったが、これは直近で民主主義の衰退が始まった05年以降で最も少ない数だ。一方、ほぼ同じ数の国々(34カ国)で自由度の改善が見られたことは、流れが変わりつつある可能性を示唆する。

フリーダム・ハウスは「独裁主義者たちは依然として極めて危険ではあるものの、倒せないわけではない。(中略)一方で民主主義に基づく連携は、結束と力強さを見せつけた」と指摘した。

自由が増大した要因の一端は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に関する種々の規制の撤回に求めることができるものの、それが全てではない。民主主義を掲げる支持者はここへきて明確に声を上げ、重要な戦いで勝利を収めている。

ロシアによるウクライナ侵攻も、独裁か民主主義かの選択を際立たせ、結果的に世界の大半はウクライナの味方に回った。

それでも全ての国がそうした前提を受け入れ、ウクライナの苦闘を自由と民主主義を巡る争いだと認識しているわけではない。主に南半球の新興国や発展途上国を指すいわゆる「グローバルサウス」の政府の多くは、そのような構図を拒んでいる。確かにインドや南アフリカ、その他南半球の国々の政府は、国民はそうでないとしても、ウクライナへの支持に消極的だ。

ロシアによるプロパガンダは長年、西側諸国の帝国主義的な過去や最近の外交を通じた介入に対する激しい反発を利用してきた。現在はウクライナが西側の傀儡(かいらい)だとする見解を広めている。その言説はとりわけ中南米で威力を発揮する。そうした国々ではロシア政府が管轄するRTのようなメディアが膨大な数の視聴者を獲得しているからだ。

しかしロシア軍の戦車がウクライナめがけて突進した時、他国の多くが見たのはあからさまで一方的なウクライナの主権に対する蹂躙(じゅうりん)だった。そこで行われている戦闘は、まさに自由と抑圧との対決と映った。特にロシアの近隣諸国にとって、クレムリン(ロシア大統領府)は今や自分たちの自由に対するリスクを体現する存在だ。

だからこそジョージアの首都トビリシでは、抗議デモの参加者が街路に繰り出し、「ロシア法」の異名をとる法案への非難の声を上げた。これが成立すれば、資金のごく一部を外国から受け取っているだけの組織が「外国のエージェント」としての登録を強制される。政府からの監視は強まり、ジョージアの欧州連合(EU)加盟も一段と困難になる。ロシアにある同様の法律は、市民社会を解体する上で重要な役割を果たした。

それでも9日、首都での2晩の抗議デモを受け、ジョージアの与党は物議を醸す法案を撤回する方針を発表した。これは市民社会にとってのひとつの勝利であると同時に、同国の政府の能力に対する警告にもなった。

他国でも、民主主義を守ろうとする人々が細心の注意を払い、独裁的性格の指導者によるルールを書き換える試みに目を光らせている。以前であれば同様の法案は一般の関心の対象外だったかもしれないが、実際には多くの国の市民が危機的状況をより強く認識しているように見える。民主主義の浸食が世界規模で起きているからだ。

9週間続けて、イスラエルでは同国の歴史上最大の部類に入る抗議デモが繰り広げられた。現行の政権が計画する司法制度改革を食い止めるのがその目的だ。改革が実現すれば司法の独立や法の支配、権力の分立が弱まるとみられる。他の問題ある変更に加えて、法案は議会で単純過半数を取れば最高裁の決定も覆すことが可能だとしている。

法案に対する国内での逆風は、これまでで類を見ないものだった。名高いイスラエル空軍や特殊部隊、軍の情報部に所属する優秀な予備兵士たちでさえ、最高裁を弱体化する計画が実行に移される場合は軍役に就くのを拒否すると明言した。エフード・バラック元首相は当該の計画を、現在のイスラエル国家が建設されて以降「最悪の危機」と形容した。

メキシコでは、首都の中央広場が2月下旬にデモ参加者で埋め尽くされた。同国の独立した選挙当局を弱体化させる法律に対して、反発する力がいかに強大かを見せつける出来事だった。主催者の推計によると、参加者の数は50万人に達した。

法律は既に成立したものの、現在は裁判で争われている。その中身は国家選挙機関(INE)の予算を削減し、主要メンバーの選出方法を変更するというものだ。これにはメキシコの民主主義的機構の基盤を破壊することになるとの批判の声が上がる。

民主主義強化の取り組みは、多くの支持を集めている。抗議デモはトビリシやテルアビブ、メキシコ市に加え、テヘランやカブールといった抗議自体が命の危険につながりかねない場所でも行われている。自由と民主主義に対する欲求がいかに切実なものであるかが分かる。

フリーダム・ハウスの報告のおかげで改めて気づかされたように、従来徹底した抑圧に遭ってきた一部の国々が、今や強力な民主主義国へと成長しつつある。また深刻な課題に直面していた民主主義国は、最終的にその強靭(きょうじん)さを証明するに至った。非常に多くの人々が、自由のために戦い続けると心に決めている。この現状から確実に言えるのは、いかなる独裁政治も永遠には続かないということだ。

フリーダ・ギティス氏は世界情勢を扱うコラムニストでCNNのほか、米紙ワシントン・ポストやワールド・ポリティクス・レビューにも寄稿している。記事の内容は同氏個人の見解です。

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