西側兵器の「実験場」と化したウクライナ、防衛産業にとっては絶好の機会
現実世界の戦闘実験
一方でウクライナの戦争は、米国や同盟国が自国の兵器を集中的に使用した場合の性能について研究する希少な機会も与えている。また、激しい争いを展開する現代の戦争の中で双方がどんな武器弾薬を使っているかを研究する機会でもある。米軍関係者は、衝撃を受けると爆発するイラン製の安価なドローンをロシアが使用して、ウクライナの電力網破壊を成功させる様子を目の当たりにしてきた。
西側情報機関の関係者はウクライナについて「あらゆる意味で兵器の実験場となっている。これまで2つの先進国の間の戦争でこうした装備が実際に使われたことはなかった」と指摘、この状況を「現実世界の戦闘実験」と形容した。
米軍にとってウクライナの戦争は、自分たちのシステムの実用性に関するデータの素晴らしい情報源となっている。
戦場の状況に詳しい米軍関係者や英シンクタンクの調査によると、ウクライナに提供された兵器のうち、ドローンの「スイッチブレード300」や敵のレーダーシステムに照準を合わせるミサイルなどは注目を集めたものの、戦場では想定したほどには役に立たないことが分かった。
一方で、米国製の軽量M142高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」は、ウクライナの成功に欠かせない存在だった。ただ、そうしたシステムが集中的に利用された場合にメンテナンス修理が必要とされる頻度について、当局者は貴重な教訓を学んだ。
ウクライナが限られた供給量のHIMARSミサイルを使ってロシア軍の指揮系統を大混乱に陥れ、司令拠点や本部や補給基地を攻撃した実績には目を見張ったと国防当局者は述べ、軍の指導部はこれについて何年も研究を重ねると言い添えた。
ウクライナにとって戦場で欠かせない戦力として組み込まれた榴弾(りゅうだん)砲「M777」についても重要な知見が得られている。ただ、榴弾砲は短時間に発射する砲弾の数が多すぎると、砲撃の精度や効果が減退すると別の国防当局者は話す。
ウクライナは戦術的な革新性でも西側当局者の目を見張らせている。戦争が始まってからの数週間で、ウクライナの指揮官は、首都キーウに侵攻したロシア軍に対して少人数の下車歩兵を展開させる作戦を採用した。ウクライナ兵はロケット弾の「スティンガー」と「ジャベリン」を肩にかつぎ、歩兵が車外にいないロシアの戦車にこっそり接近することができた。
米国はまた、現代国家2カ国の間で展開される21世紀の戦争に関する教訓についても詳しく研究している。
米軍関係者はこの紛争から得た教訓のひとつとして、M777のような榴弾砲は過去のものになりつつあるかもしれないと指摘した。こうしたシステムは、素早く動いて反撃を避けることが難しく、至る所にドローンや上空からの偵察が存在する状況で「隠すことが非常に難しい」という。
これまでに得た教訓に関しては「1冊の本が書ける」と米下院情報委員会委員のジム・ハイムズ議員(民主党)は語る。