ショパンは同性愛者だった? LGBTQに風当たりの強いポーランドで物議
ロンドン(CNN) 欧州の中でも特にLGBTQ(性的少数者)に対して風当たりの強いポーランドで、国民が敬愛するロマン派の作曲家ショパンが同性愛者だったという説が大々的に報じられ、論議を巻き起こしている。
210年前、首都ワルシャワ西部の小さな村に生まれたショパンの名は、全土の至る所に刻まれている。
毎月100万人以上が利用する首都ワルシャワの空港はショパン空港。生家には記念碑が飾られ、主要都市に胸像や銅像があり、ショパンの名が付いた公園や通り、ベンチや建物が各地に存在する。1849年に39歳で死去した後、心臓はアルコール保存されてワルシャワの聖十字架教会の壁に収められた。
ところがショパンの私生活に関して、保守性の強いポーランドの伝統や右派の指導部とは相いれない説が脚光を浴び、国民が幼い頃から聞かされてきたショパンの物語が真実だったのかどうかという疑問が浮上した。
ショパンの心臓はワルシャワの聖十字架教会に収められている/Jaap Arriens/NurPhoto/Getty Images
スイスのラジオ局のドキュメンタリー番組によると、ショパンは複数の男性と関係を持っていたとされる。しかしそうした関係は、歴史家や伝記作家によって歴史から追いやられてきた。
スイスの放送局SRFの番組に出演した音楽ジャーナリスト、モリッツ・ウェバー氏は、ショパンが男性の友人宛てに出した手紙を調べたところ、性的に露骨な内容やロマンチックな内容が書き記されていたことが分かったと語った。
さらに、後に伝えられた伝記や再現された手紙では、男性名詞が女性名詞に入れ替えられ、意図的かどうかを問わず、ショパンの男性との関係が取り上げられていなかったことも分かったという。
ウェバー氏はCNNの取材に対し、「ショパンは男性との愛情について非常に直接的に語っていた」「学者や有名伝記作家はなぜ、そのことに疑問を投げかけなかったのか」と問いかけた。
ショパンについては伝統的に、女性との恋愛関係が語り継がれてきた。中でも作家のジョルジュ・サンド(本名アマンティーヌ・リュシル・オーロール・デュパン)との関係は最も有名だった。
しかしウェバー氏が調べた手紙は違う内容を物語っていた。ショパンは女性には全く手紙を出していなかったといい、女性と恋愛関係にあったと断定できるような内容も書き残していなかったという。
「明らかなのは、男性の友人に向けてラブレターを書き送っていたことだった。最も情熱的なのは、ティトゥス・ボイチェホフスキに宛てた手紙だった」。ボイチェホフスキはポーランドの活動家でショパンの長年の友人だった。ショパンはほかにも多数の男性に宛てて同じような手紙を送っていたという。
ワルシャワの公園に設置されているショパンの像/Karol Kozlowski/imageBROKER/Shutterstock
ショパンが男性を愛したという説は新説ではない。しかしここ数日の間にポーランドの複数の新聞が「ショパンはゲイだった?」と問いかける記事を掲載し、「ショパンが友人にキスをしたからといって、ゲイだったことになるのか?」と疑問をぶつける新聞もあった。
ポーランドは欧州の中でもLGBTQにとって最悪の国といわれる。政府は極端な同性愛嫌悪の表現を頻繁に使い、首相は「同性愛計略」が祖国を脅かすと言い放つ。
カトリック教徒が多く、教会が強い影響力を持つことから、LGBTQの権利拡大には宗教指導者が抵抗する。
LGBTQを非難するアンジェイ・ドゥダ大統領は今年、この問題を公約の中心に掲げて再選された。
同国の活動家は、ショパンの恋愛関係が改めて脚光を浴びたことで、そうした姿勢に変化が起きることを期待する。「公言しよう。ショパンは少なくともバイセクシュアルだった」。同国でLGBTQ運動の前線に立つ活動家はそう記している。