米空母初の女性艦長が振り返るキャリア、艦長就任が可能だとは知らず

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米空母「エイブラハム・リンカーン」を指揮するエイミー・バウアーンシュミット艦長/US Navy

米空母「エイブラハム・リンカーン」を指揮するエイミー・バウアーンシュミット艦長/US Navy

東京(CNN) エイミー・バウアーンシュミット氏(51)は希少中の希少な存在だ。

同氏は米海軍が保有する空母11隻の艦長という、米海軍の将校の中でも指折りのエリートグループに属する。

その中で女性はバウアーンシュミット大佐のみ。実のところ、現役艦で最大かつ最強クラスの軍艦である米空母を指揮する女性は歴史上、同氏のみだ。

同氏はCNNの取材に「(米空母の艦長が)世界で最も素晴らしい仕事の一つなのは間違いない」と語った。

大半の人はこれでも控え目な表現だと思うだろう。

バウアーンシュミット氏は排水量9万7000トン、全長約330メートルのニミッツ級空母「エイブラハム・リンカーン」を指揮する。約5000人が乗る同艦は海上の小都市に相当する規模を持つ。

米国の軍事力の中核の一つでもあり、海軍航空隊で最も先進的な機種であるF35Cステルス戦闘機など60機あまりを艦載する。

日米の合同軍事演習に参加する米空母「エイブラハム・リンカーン」(手前)/AP
日米の合同軍事演習に参加する米空母「エイブラハム・リンカーン」(手前)/AP

米海軍の概要書では、米国の空母について「海を支配し、攻撃を実施し、電磁スペクトラムとサイバースペースを自在に動く準備ができている。範囲と深さにおいてこれに匹敵する戦闘能力を配備する海軍はほかに存在しない」と説明。「危機の際、指導者が真っ先に尋ねるのが、『空母はどこだ』という質問だ」と指摘している。

バウアーンシュミット氏は、その問いに答えるのは光栄なことだと語る。

「国を守る選択をした男女を率いる役目に私が選ばれたのだと思うと、これほど身の引き締まる重責はない」。同氏は日本沖で演習中の同艦を最近訪問した記者団にそう語った。

米ミルウォーキーで育ったバウアーンシュミット氏は、海との相性が良いことは分かっていた。「ずっと海が好きで、競泳やボート競技をやっていた」(同氏)。だが、海軍に入隊したのは野心というよりも現実的な理由からだった。

米加州サンディエゴに向けて出港する前、メディアに対して発言するバウアーンシュミット艦長=2022年1月3日撮影/US Navy
米加州サンディエゴに向けて出港する前、メディアに対して発言するバウアーンシュミット艦長=2022年1月3日撮影/US Navy

「私は遠回りして軍務に就いた」「大学の学費を支払うことを考え、単に興味があるだけでなく、学生ローンを返済できる仕事が見つかる専攻を学びたかった」と振り返る。

数学や科学に強い関心を抱いていたことに加え、水が好きだったこともあり、海洋工学に専攻を決めた。

海洋工学を学べる大学は一握りに過ぎず、そのうちの一つがメリーランド州の海軍兵学校だった。バウアーンシュミット氏は学費が支給される海軍兵学校を選んだ。

ただ、同州アナポリスのキャンパスに到着した時点では、自分が空母を指揮する初の女性になるとは夢にも思わなかった。 

「全く頭になかった。この冒険を始めた当初は、そういう選択肢があることすら理解していなかった」と振り返る。

実際、同氏が海軍兵学校に入学した時点では、女性が空母の艦長になる選択肢はなかった。

米連邦議会が海軍戦闘艦艇での女性の勤務を認める法案を可決したのはバウアーンシュミット氏の卒業の半年前、1993年11月のことだ。

これにより「海軍における女性の職務のあり方がほぼ全て変わった」と、バウアーンシュミット氏は話す。

海軍兵学校の生徒は卒業の数カ月前、最初の配属先について希望を出すことができる。バウアーンシュミット氏が選んだのは航空部門で、そこから現在に至る道を歩み始めた。

同氏はヘリコプターの操縦を覚え、飛行教官になり、駆逐艦や空母に配置され、ついにはヘリコプター攻撃飛行隊の指揮官を務めた。

続けて海軍大学校に入学し、戦略学の修士号を取得。米国務省のグローバル女性問題局で勤務したこともある。

フィリピン海海上での飛行任務のためフライトデッキに立つ/Blake Essig/CNN
フィリピン海海上での飛行任務のためフライトデッキに立つ/Blake Essig/CNN

その後は海軍原子力学校に入学し、海軍海洋システムコマンドが「米軍で最も過酷な学術プログラム」と呼ぶ課程で、海軍の原子炉の背後にある科学や工学を学んだ。

2016年、原子炉2基で駆動するエイブラハム・リンカーンの副艦長に就任した際には、この時の知識が必要になった。

その5年近く後、ドック型輸送揚陸艦「サンディエゴ」の艦長を経て、同氏はエイブラハム・リンカーンの艦長に就任した。

「新しい仕事、新しい機会を経験するたびに私のリーダーシップは鍛えられ、最高の自分になろうと奮い立たせられた」と、バウアーンシュミット氏は語る。

「素晴らしいキャリアを歩み、その中で信じられないような機会をもらってきた」

本心では希望していなかった仕事も良い機会になった。

「時には自分が望まない状況や仕事で最も多くを学び、成長することもある」

「海軍での仕事のすべてが自分の希望する仕事だったわけではないが、できる限りあらゆる仕事から学び、成長の糧にした」とバウアーンシュミット氏は語る。

強力な地位に上り詰めたバウアーンシュミット氏だが、海軍の女性がいまだ多くの困難に直面していることは認める。

海軍の人口動態データによると、12月31日の時点で、海軍の現役要員34万2000人のうち女性は2割に過ぎない。

約5000人が乗艦するエイブラハム・リンカーンは海上の小都市に相当する規模を持つ/Mike Blake/Reuters
約5000人が乗艦するエイブラハム・リンカーンは海上の小都市に相当する規模を持つ/Mike Blake/Reuters

バウアーンシュミット氏の階級である大佐やそれ以上となると、海軍のジェンダーギャップはさらに浮き彫りとなる。海軍のデータによると、こうした将校の3075人のうち女性の割合は13%にとどまる。

バウアーンシュミット氏は空母を指揮する初めての女性として一層の責任を感じているが、これ自体は革命的なことではなく、変化の積み重ねの一部だと考えているようだ。

「女性は多くのことを成し遂げてきたが、私は『女性初』を祝わなくても良い日が来るのを望んでいる」(同氏)

世界最大級の軍艦の艦橋にたどり着く過程では、海軍全体から受けた支援が不可欠だった。自分は今も学びの途上だと、同氏は話す。

サンディエゴを発つエイブラハム・リンカーンに手を振る乗員の家族ら/K.C. Alfred/AP
サンディエゴを発つエイブラハム・リンカーンに手を振る乗員の家族ら/K.C. Alfred/AP

部下に当たる数千人の海軍要員が同氏に刺激を与え、今でも成長させ続けてくれているという。

自身の指揮下にいる要員、そして熱意を持つ全ての人へのアドバイスとしては、「日々やり切ること」を挙げた。

「私はタスクを完遂するだけなく、自分の仕事の結果に全責任を負うようにしている」

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