沈みゆくベネチアに都市全体を持ち上げる計画 革新的なアイデアは浸水から街を守るか

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テアティーニ氏はベネチア市を中心とする直径10キロの円内に12本の井戸を掘削することを提案している/Federico Meneghetti/REDA/Universal Images Group/Getty Images

テアティーニ氏はベネチア市を中心とする直径10キロの円内に12本の井戸を掘削することを提案している/Federico Meneghetti/REDA/Universal Images Group/Getty Images

「亀裂が生じたら大惨事」

ベネチアをウォーターベッドのようなクッションの上に持ち上げながら、周囲の土地を水平に保つというのは、大惨事につながるように聞こえる。

しかし、テアティーニ氏はこれを安全な方法だと主張、水圧破砕法ではないと強調する。水圧破砕法とは、石油やガスを得るために、高圧の液体を地中に注入し、地表の岩盤層の下に亀裂を生じさせる手法。高圧の液体を注入すると、地震が発生する可能性がある。

「最大でも20~30センチの隆起としているのは、亀裂が生じないようにするため」と同氏は言う。「ひび割れが生じ始めたら大惨事だ」

浅い帯水層に水を注入すれば問題が発生することがあるが、600~1000メートルの深部に注入することで、深層地球の3次元構造に水が浸透するという。「深部での拡張は均一ではないが、地表に移動するにつれてよりなめらかになる」と同氏は説明する。

一方でテアティーニ氏は、これを一時的な対策に過ぎないとも警告する。

不安定化を招くことなく地盤を隆起させることができるのは30センチまでだと推定されるからだ。

実際、同氏らは帯水層への過負荷を避けるため、10年間でポンプ流量を最大5分の1まで減らす考えだという。ただし、水の注入を完全に止めれば、土地は再び収縮してしまうため、目標に達したあと地下の土地を拡張させ続ける添加剤を水に混ぜることができないか検討している。

テアティーニ氏は予測を検証するため、ラグーンの別の場所で、井戸の数を減らした状態で2~3年にわたりこのアイデアをテストしたい考えだ。

テストには約3000万~4000万ユーロがかかる。ただし、プロジェクト全体を実施しても、モーゼの最終的な費用の3分の1で済むという。

コンクリート注入などの計画

1970年代、ラグーンにあるポベリア島は深さ10メートルの地中にセメントを注入することで10センチ隆起した/Marco Di Lauro/Getty Images
1970年代、ラグーンにあるポベリア島は深さ10メートルの地中にセメントを注入することで10センチ隆起した/Marco Di Lauro/Getty Images

ベネチアにとっぴとも言える解決策を提案したのはテアティーニ氏が最初ではない。

1970年代、ラグーンにあるポベリア島は、深さ10メートルの地中にセメントを注入することで10センチ隆起した。

テアティーニ氏によると、ベネチア市の場合、この程度の深さへのセメント注入は「数百」もの掘削孔が必要になることから不可能だという。

現在、議論の余地のある対策としては、ラグーンを閉じて湖に変えるという方法があるが、これはベネチアを守る一方で、2000年近く同市を支えてきた、ラグーンに息づく生態系を破壊することになる。テアティーニ氏はラグーンを「ベネチアそのものの一部」と表現している。

一方で、一部の専門家は同氏のアイデアに懸念を表明しているが、同氏によると、そうした人々は通常、浅い土壌を扱う地盤技術者だという。「深部地球の地質力学に携わる人たちと話せば、これに問題がないことは明らかだ」

ベネチアを救う

共和国時代、ベネチアは数百年にわたり運河を掘ったり、水路を変えたりしてきた/Uygar Ozel/Shutterstock
共和国時代、ベネチアは数百年にわたり運河を掘ったり、水路を変えたりしてきた/Uygar Ozel/Shutterstock

2025年3月には、ラグーンへの潜在的な介入を監督し、将来の計画を立てる国家機関が発足した。

どのような行動方針が決定されようと、費用は数十億ユーロではないにしても数百万ユーロには上る。しかしこれは政府レベルでみれば比較的小規模な投資に過ぎないとテアティーニ氏は強調する。

ベネチアの人口は急減し、現在は5万人に満たない。過去70年の間に人口の約70%が観光中心の経済に締め出されて本土に流出したのだ。気候危機が深刻化する中、地域社会の救済という点でベネチアを優先すべきではないと主張する人もいるだろう。

しかしテアティーニ氏は、「数十年は現状のままだとしても、その後少しずつ水没していくだろう」と危機感を募らせる。

「ベネチアは他に類を見ないユニークな街だ。だからこそ、このラグーンの環境で維持していく必要があると思う。丘の上にあったり、湖の真ん中にあったりしてもそれはベネチアではない。できるならラグーンや湿地帯、ゴンドラとバポレットのある環境で維持していくべきだ」(テアティーニ氏)

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