パキスタンが世界でもまれに見る速さでソーラー革命を成し遂げた理由とは

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太陽光パネルを運ぶ作業員=2024年6月12日、パキスタン・ラホール/Arif Ali/AFP/Getty Images

太陽光パネルを運ぶ作業員=2024年6月12日、パキスタン・ラホール/Arif Ali/AFP/Getty Images

(CNN) パキスタンの大都市では太陽光パネルが屋根を覆い、全国各地の村では住居の周囲に点在している。

人口2億4000万人超のパキスタンは、貧困と経済不安に見舞われながらも、世界有数の急速な太陽光革命のさなかにいる。

超安価な中国製太陽光パネルが押し寄せたことで、パキスタンは太陽光発電の巨大な新市場となっている。気候シンクタンク、エンバーによると、パキスタンは2024年に17ギガワット相当の太陽光パネルを輸入。これは前年の倍以上で、同国は世界第3位の輸入大国となった。

首都イスラマバードに拠点を置くエネルギーシンクタンク、リニューアブルズ・ファーストのプログラムディレクター、ムスタファ・アムジャド氏は、パキスタンを特異だと語る。ベトナムや南アフリカなどの国でも太陽光発電の大規模な導入が進められているが、「パキスタンほどのスピードと規模は他に例を見ない」というのだ。

専門家の関心を呼ぶ点は、同国の太陽光ブームが草の根革命として起こり、大規模な太陽光発電所の形態はほぼとっていないところにある。政策面での推進はなく、本質的には国民や市場が主導しているという。

パキスタンの太陽光発電をめぐる状況は、いいことばかりではない。エネルギー情勢が急激かつ根本的に変化する中で、複雑で厄介な問題も待ち受けている。しかし多くのアナリストは、同国の状況について、クリーンエネルギーへの見方を覆すものだと指摘する。クリーンエネルギーをめぐっては高価で望ましくないものであり、政府の巨額の補助金によってのみ成功するものだという考えが広まりつつある。

気候活動家でサタット・サンパダ気候財団の創設ディレクター、ハルジート・シン氏はパキスタン人が太陽光発電を選択するのは経済合理性があるからだと語る。

パキスタンは4月に気温が50度に迫るなど、深刻な熱波に見舞われており、冷房への依存度は増している。人々は太陽光発電を利用することで、冷房費用を賄いやすくなるのではとの希望も抱く。

「ボトムアップ」革命

パキスタン太陽光協会会長のワカス・ムーサ氏は、同国の太陽光ブームについて、複数の要因による「最悪の事態」から起きたものだと述べた。

その主な要因とは、中国製太陽光パネルの価格暴落と電気代の高騰だ。

バース大学開発研究センターの研究員アシャ・アミラリ氏によると、パキスタンの電力問題は1990年代にまでさかのぼる。当時、パキスタンは米ドル建ての高額な電力契約を締結し、発電量にかかわらず生産者に対価を支払っていた。

太陽光発電の増加もあり、電力需要が減少したことに加え、パキスタン・ルピーの急落も相まって電気代は上昇している。ロシアのウクライナ紛争によるガス価格の上昇もこれに拍車をかけている。

リニューアブルズ・ファーストのアムジャド氏によると、電気料金は過去3年間で155%も急騰。さらに、送電網の電力供給は不安定で、国内の一部地域では長時間の停電も珍しくない。

そこで余裕のある企業や家庭は、安価な太陽光発電に目を向けている。

正確なデータは乏しいものの、アナリストの推計では昨年導入された太陽光発電は約15ギガワットに相当する。同国のピーク時電力需要が約30ギガワットであることを考えれば、その規模は「まさに驚異的」といえる。

ブルームバーグNEFの太陽光アナリスト、ジェニー・チェイス氏は、イスラマバードやカラチ、ラホールといった大都市を「グーグルアース」で検索すると、太陽光発電の圧倒的な設置数がわかると述べた。屋根を覆う太陽光パネルの数は世界のほとんどの地域を上回るという。

パキスタン電力当局者は、このブームの要因について政府の太陽光パネルへの非課税政策などを挙げる。しかし、多くのアナリストはこれに異論を唱え、アムジャド氏は、ブームが「まさにボトムアップの形で起きた」と指摘する。「基本的に、国民が市場に太陽光パネルの輸入増を強く求めたのだ」

しかし、この革命は良い面ばかりではない。

高額な電気料金が人々を電力網から太陽光発電へと駆り立て、電力会社の収益を減少させる「デススパイラル」に陥るのではないかとの懸念がある。依然として電力網を頼っている人々は価格上昇に直面することになり、結果として太陽光発電へと移行する人が増えることになる。

アミラリ氏は、太陽光ブームはパキスタンの富裕層と貧困層の溝をさらに深めていると指摘。太陽光発電は十分な資金を持つ人だけが利用できるもので、「それ以外の人々は依然として、非常に高額で、信頼性が極めて低下することの多い、汚染物質である化石燃料ベースの電力網に縛られている」という。

建物の屋上に設置された太陽光パネル。パキスタンのギルギット・バルチスタン地域のスカルドゥでは長時間の停電も珍しくない/Manzoor Balti/AFP/Getty Images
建物の屋上に設置された太陽光パネル。パキスタンのギルギット・バルチスタン地域のスカルドゥでは長時間の停電も珍しくない/Manzoor Balti/AFP/Getty Images

パキスタンの太陽光発電ブームは完璧ではないかもしれない。しかし一部のアナリストは、特に送電網の電力が高価であったり、不安定であったり、あるいはその両方を抱える国々にとって、より広範な教訓をもたらすと指摘する。

気候対策に携わるシン氏は、パキスタンのブームから得られる教訓として重要なポイントを二つ挙げた。コストを下げられれば再生可能エネルギーは「化石燃料からの脱却における最も合理的な経済的手法」になることが多いという点、そして送電網の対応を確実にするために「積極的な計画と時宜にかなった投資が不可欠」だという点だ。

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