幸せの国ブータン、住民に聞いた実際の住み心地とは
ティンプー(CNN) 世界で最も人口の多い二つの国、中国とインドに挟まれ、ヒマラヤの高地に位置するブータンは、仏教を国教とする人口約70万人の君主国だ。
ブータンという名前を聞いたことがある大半の外国人は、同国について次の二つのことを知っている。一つは、海外からの旅行者は、1日100ドルの「持続可能な開発料(SDF)」、つまり観光税を徴収されること、もう一つは国民の幸福と環境への配慮を目的とした制度「国民総幸福量(GNH)」の発祥の地であることだ。
ブータンには、歴史のある寺院や、混雑していないハイキング・トレッキングコース、さらにヒマラヤの素晴らしい風景など、多くの魅力があるが、上記の二つだけでも旅先として十分魅力的だ。
しかし、それは本当に幸せなことなのか。ブータンに住む人々にとってそれはどのような意味を持つのか。
英オックスフォード大学と国連が毎年発行している世界幸福度報告書の世界幸福度ランキングでは、フィンランド、スウェーデン、デンマークの北欧の三国が上位を占めている。このランキングは、143の国と地域をランク付けしているが、その中にブータンは含まれていない。
環境保護団体グリーンブータンの創設者KJテンペル氏は、「個人的には、ブータンでの暮らしは非常に平和で、ここにいられてとても幸せだ」と語る。
一方、クリエーターのタンディン・プブズ氏は、「たしかにかつてはみんな幸せだったが、最近さまざまなハイテク製品が入ってきたせいで、我々はさらに分断され、その結果、落ち込んだり、悲しくなったりすることが多くなった」と嘆く。
プブズ氏は、首都ティンプーの人々の日常を写真とプロフィルで紹介するフェイスブックページ「Humans of Thimpu(ティンプーの人々)」を運営している。
ブータンは仏教国で、精神性と宗教が人々に非常に強い影響を与えているが、最近の人々はデジタル端末やテレビに夢中で、朝夕の祈りも忘れがちだ、とプブズ氏は指摘する。
首都でも国際ブランドを見かけない理由
地元の人々は、ティンプーは交通信号がない世界で唯一の首都であり、店やレストランは各地域が所有・運営していると誇らしげに教えてくれるだろう。
ブータンは、国際ブランドであふれていない世界でも珍しい旅行先だ。高級ホテルチェーンのル・メリディアンやアマンなど、いくつかの国際ブランドはあるが、首都でさえ、企業のロゴを目にすることはほとんどない。
起業家のチョキー・ワンモ氏は、マクドナルドやスターバックスのような企業がブータンに進出する可能性は低いと考えている。現地の政策や慣習が進出を阻んでいるのではなく、ブータンに出店してももうからないからだ。
「(ブータンの)人口が少なすぎるので、向こう10年でフランチャイズの加盟金を回収するのは不可能だろう」とワンモ氏は言う。ワンモ氏自身も南部の町ゲレフで、コーヒーショップなど、いくつかの事業を営んでいる。
一方、ジグミ・ケサル・ナムギャル・ワンチュク第5代国王のいないブータンは想像し難いように思える。国王と王室(国王とジェツン・ペマ王妃の間には3人の子どもがいる)の写真は、ブータンのほぼ全ての家庭や会社に飾られている。
国王が国民から愛されている理由について、テンペル氏は「ブータンの民間企業のオフィスや裕福な人々の住居は巨大で、見事な装飾が施されている」とし、さらに次のように続けた。
「一方、王室の住居を見ると、非常に小さく、地味で質素な生活を送っている。そこが国王の素晴らしいところで、その生活ぶりに彼らが国や国民についてどう考えているかが表れている。彼らは自分たちよりも国民を第一に考えている」
海外渡航も容易ではない
最近、ブータンを離れ、海外で学び、働く若者が増えており、テンペル氏は、将来ブータンも、日本や韓国など、アジアの他の国々と同様に、高齢者が若者よりも多くなる人口バランスの大規模な不均衡に直面するのではないかと危惧している。
しかしブータンの人々は、広い世界を探検したいと思っても、ただスーツケースを持って出発すればいいわけではない。首都ティンプーにはわずか3カ国の大使館しかないため、海外との関わりの大半はインドを通じて行う必要がある。そのため、ブータンの通貨であるニュルタムは、インドルピーとの間でレートが固定されており、ブータン国内の店や企業ではどちらの通貨も使用可能だ。