中国で急成長する「レッドツーリズム」、その背景とは

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延安の歴史的な建物の前で共産党の歴史に関する授業を受ける生徒ら/Steven Jiang/CNN

延安の歴史的な建物の前で共産党の歴史に関する授業を受ける生徒ら/Steven Jiang/CNN

延安市の取り組みはパンデミック(世界的大流行)の発生前から奏功していたもようだ。19年には7300万人以上が人口200万あまりの延安を訪れ、わずか3年前からほぼ倍増した。

中国国内で新型コロナがおおむね抑え込まれる中、延安の観光業はメーデー休暇の1週間で回復を遂げ、地元当局によると、観光客の支出は既にパンデミック前の前年同期をしのぐ規模に達している。

変化する人口動態

香港の大学教授リー氏によると、「レッドツーリズム」が最初に始まったとき、その重点は主に教育にあり、政府当局者や学生が義務的に行うものだった。だが、市場は変化した。

「要請されたからではなく、自ら希望してこうした場所を訪れる観光客が増えている」とリー氏は語る。

そして、「赤い観光客」の年齢層は若くなりつつある。

旅行プラットホーム「トンチョン・イロン」のデータによると、先日のメーデー休暇では、「レッドツーリズム」に関連した予約や検索のうち40%を21~30歳の観光客が占めた。

冒頭の旅行ガイド、チャン氏にはこれらの数字は驚きではないだろう。チャン氏は、鄧小平の経歴や歴史的位置づけに関心を持つ若者の増加に気付いていたと話す。

チャン氏が最初に鄧小平の生家でガイドを始めたとき、若い観光客の多くは展示を一瞥(いちべつ)するだけだった。しかし今では、「大半の若者はガイドを雇い、鄧氏に関する私たちの個人的なエピソードを注意深く聞いている」という。

施設やサービスの改善、創意工夫をこらした土産品、ITの活用のおかげで、若い世代にとっての「赤い史跡」の魅力が増している可能性はある。しかし一部では、成長の主因は国家の誇りやアイデンティティーを重視する姿勢の強化だとの声も上がる。

チャン氏は「最近の若者は我が国に対する誇りや自信を深め、より強く国に自己同一化している」「彼らは中国が貧困国から今の姿になった過程を学びたがっている」と話す。

北京近くの「赤い史跡」で中国共産党の入党の誓いを口にする党員/Steven Jiang/CNN
北京近くの「赤い史跡」で中国共産党の入党の誓いを口にする党員/Steven Jiang/CNN

「レッドツーリズム」の暗い側面

自国の歴史を学ぶ機会は世界のどの地域の観光客にとっても大きな魅力だが、この場合にひとつ異なるのは、「赤い史跡」が一方的な説明にほぼ終始している点だ。

批判的な向きからは、こうした史跡が共産党指導者の忍耐や輝かしい勝利を重視するあまり、時に壊滅的な規模となった数々の失敗を見落とし、史実の歪曲(わいきょく)まで行っているとの指摘が上がる。

「中国政府が商業面と思想面の両方の目的でレッドツーリズムを宣伝したがっているのは確実だ」。香港の大物政治コメンテーターで、国際関係を扱う企業グローバル・ラーニング・オフィスを創業したサイモン・シェン氏はそう語る。

「レッドツーリズムは愛国教育の核となる分野だとみられている。それがどれだけ効果的なのかは別問題だが」

ただ、香港の研究者リー氏は、市民の「教育」の手段として史跡や観光名所を利用するのは中国に限った話ではないと指摘。中国に足りないのは洗練されたマーケティングだと語る。

たとえば、北京にある「中国人民抗日戦争記念館」では、1930~40年代の日中戦争で共産党が払った犠牲に重点が置かれ、創建間もなかった党がいかにして国を勝利に導く「主役」になったかが語られている。

同記念館は公式サイトの歴史解説ページで、28年から49年まで中国を統治した国民党について、日本の侵略に立ち向かう意思が欠けていたと主張。国民党の「消極抗日」の姿勢を批判している。

これは中国本土外の多くの研究者が否定する主張だ。

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