OPINION

2049年までの野心的な経済目標掲げる中国、達成に向けて何をすべきか

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2049年を見据えた野心的な経済目標を果たすため中国がなすべきこととは/CNN/Shutterstock/Getty Images

2049年を見据えた野心的な経済目標を果たすため中国がなすべきこととは/CNN/Shutterstock/Getty Images

2012年、中国政府は1つの長期目標を設定した。それは49年までに中国を完全に発展かつ繁栄した国へ育て上げるというものだ。この年は中華人民共和国の建国から100年目に当たる。

1978年に経済改革を開始して以降の中国の成功を踏まえれば、この種の変化を遂げるのは確かに可能だ。しかしそこには困難が伴い、実現が保証されているわけではない。中国は厳しい国内の課題に直面している。具体的には人口の高齢化、都市と農村の分断、未発達の金融システム、不十分なイノベーション(技術革新)、そして二酸化炭素排出量の多いエネルギー源への依存などだ。さらに対外的な経済関係は多くの主要な相手国との間で論争を生んでおり、結果として貿易・投資の障壁を双方向的に増やす事態となっている。

我々が著書「CHINA 2049」で検証する各政策は、中国がこうした野心的な目標を達成する一助になり得るものだ。

人口の高齢化

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が思い起こさせたように、現在と2049年の間には予期せぬ出来事がいくつも起こるだろう。しかし1つ確かなのは、中国の人口が今後急速に高齢化していくということだ。1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を示す合計特殊出生率は、現在1.7にまで低下した。これは人口が均衡した状態となる人口置換水準の値2.1を大きく下回る。

寄稿者のデービッド・ダラー氏、黄益平氏、姚洋氏
寄稿者のデービッド・ダラー氏、黄益平氏、姚洋氏

この出生率の低下は一人っ子政策によって促されたのだろうが、同政策が緩和されても生まれる子どもの数は増えなかった。中国は人口密度の大きい他のアジア諸国と同様、住宅や教育に高額のコストがかかる。そうした状況では多くの夫婦が一人っ子もしくは子どもを持たないことを選択する。

多少出生率が上がったところで、向こう20年間の労働力に影響は及ぼさないだろう。中国の人口はすでにピークを過ぎたかもしれない。より重要なことに、生産年齢人口もすでに減少し始めている。人口に占める高齢者の数は今後の数十年で劇的に増えると予想される。65歳以上の人口は49年までに、倍以上の4億人に達するだろう。特に衝撃的なのは、85歳以上の高齢者が現在の3倍以上の1億5000万人に膨れ上がり、米国と欧州の同年代の合計をも上回るということだ。生産年齢人口で増加が予測されているのは、55~64歳の層のみである。

こうした人口の高齢化は社会と経済の両方にとって問題だ。高齢者の世話をするには、より多くの資源を医療や長期ケア、介護に投入する必要がある。伝統的に高齢者の面倒はその子どもたちが見るものとされるが、家族の人数の減少に伴い、多くの高齢者が頼るべき相手のいない状態に陥る可能性がある。それなら、以前は個人で負担していた種々のコストを公的に賄うのが人道的にも経済的にも理にかなうということになる。

新型コロナのパンデミックは中国の医療システムの強みも弱みも浮かび上がらせた。感染の封じ込めは大規模で臨時的な動員によって、少ない資源を最も必要な場所へ振り向けることで実現した。しかし多くの中国国民は現在、医療システムを強化してそこへ資源を適切に投入する必要があると感じている。とりわけ高齢者の多くが暮らす農村部においてはそうだ。

難しい問題ではあるが、生産年齢人口の減少は必ずしも労働力の劇的な低下につながらない。それは労働参加面で何が起きるかにかかっている。具体的には定年年齢を見直して徐々に引き上げる必要がある。男性公務員の定年年齢は60歳、女性公務員は55歳と定められているが、多くの人は65歳を超えても健康であれば働き続けることを選ぶ。家庭にやさしい政策を打ち出せば、女性の労働参加も維持、拡大できる。

都市と農村の格差

中国の40年にわたる改革と成長は、着実な都市化の流れと軌を一にしてきた。都市の人口は年1%のペースで増加し、改革開始時に20%だった全人口に占める割合は現在60%となった。一方、そこに含まれる2億人以上の出稼ぎ労働者は、戸籍の制度上いまだ農村の住民として登録されている。

こうした出稼ぎを重要な活力源とし、経済は生産性を高めてきた。しかし出稼ぎ労働者たちは様々な制約に直面している。不況時に解雇されれば、彼らは出身地の農村に帰るとみられている。また子どもや両親を都市へ一緒に連れてくるのは難しい。都市では出稼ぎ労働者が社会的便益(教育、医療、年金)を完全に享受することができないからだ。この結果、家族は分断される。子どもを持つ出稼ぎ労働者が都市で働く間、その両親は一家の農場を運営しながら残された子どもたちを育てる。

都市戸籍の登録に対する制約は徐々に撤廃されつつある。特に小規模の都市ではそうだ。江西省は最近、これらの制約を廃止した。ただ最大規模の人口と生産性を誇る広州や上海といった都市では、規制が依然として強い。

中国は、国内の出稼ぎ労働者向けの制約を完全に撤廃することで利益を得られるだろう。社会的側面についていえば、農村の人口構成は子どもと高齢者に偏っている。学校の質は都市の方が格段に高く、将来の労働力がよりよい教育を受けられる。農村にとどまるのを望む高齢者もいるが、そうした人々以外はおそらく都市部へ移って成人の子どもたちの近くで暮らしたいと考えるだろう。その方が質の高い医療にもアクセスしやすい。経済的観点からは、農村部での労働者の供給過多がなおも続いていることから、出稼ぎ政策の緩和が都市の労働力維持に寄与するだろう。

イノベーションに注力

中国の成功に関する興味深い逆説は、金融システムが未発達にもかかわらず急速な成長を実現している点だ。銀行の所有、金利の規制、信用配分への介入、国境を越える資本移動の統制などに基づいた「金融的抑圧」の指標からは、中国が主要な経済国の中でインドと同様に最も抑圧的な国の一つであることが分かる。ロシアや南アフリカと比較しても金融への抑圧はかなり強いレベルで、自由度は先進経済国よりも相当に低い。

1980年代までほぼ完全に統制されていた中国の金融システムは、2000年前後にかけて自由化への道を順調に歩んだものの、それ以降失速した。

01年の世界貿易機関(WTO)加盟から08年の世界金融危機までは、中国の成長の黄金期だった。急速な信用拡大が起きるなかでも国内総生産(GDP)は十分に伸びており、GDPに対する非金融企業の負債の割合といった指標は安定を維持した。すべてが変わったのが08年だ。世界経済が打撃を被った後の需要を確保するべく、中国は巨額のインフラ投資に踏み切った。それは地方政府並びに鉄鋼など上流部門への貸し付けを通じて行われたが、こうした分野に対しては国家が強い影響力を及ぼしがちだ。

同時に、中央政府は一段と多くの資源を主要な国有企業に投入することを決めた。それによって当該の企業が世界を席巻するようになるのを期待したのだ。地方政府と国有企業への貸し付けは跳ね上がり、その結果、経済における債務の総額は驚異的な水準にまで拡大。金融システムが新たな環境でうまく機能していない実態を露呈した。もし資金調達に基づいた投資が強力な成長効果を生み出していたら、GDPに対する債務の比率は一定か、上がったとしてもそのペースはより緩やかだっただろう。

00年代の初めには、大掛かりな直接投資のおかげで国内に民間の製造業部門が確立したのに続き、全要素生産性(TFP)は年2.6%増加。この10年の後半での伸びは同3.9%にまで加速した。世界金融危機の混乱以降、数値は回復しておらず、15~19年は同0.2%の増加にとどまっている。

生産性の不振は、中国がより多くのイノベーションを必要としている兆候だ。多角的な金融システムでそれを支援することが欠かせない。中国にはイノベーションに寄与する要素がいくつもある。巨大な国内市場、高い研究開発費比率(GDPの2.4%を占める)、人材には事欠かず、膨大な数の科学者やエンジニア、ソフトウェア開発者が毎年学校を卒業する。知的財産保護も徐々に改善されている。だが、イノベーションの結果はそれらと矛盾している。フィンテックや人工知能など技術の進展に目を見張る領域もいくつかあるが、経済にとっての生産性の伸びは全体的に弱いのが実情だ。

国家は依然として多くの資源を国有企業に投じているが、特許の大半は民間企業から生み出されている。

中国は次の5カ年計画を微調整するにあたり、特定の企業や技術を支援するのではなく、資金調達を含めたイノベーションのエコシステム(生態系)の強化に注力した方がいい。イノベーションは中国が環境に関する目標を達成するうえでのかぎになるだろう。二酸化炭素排出量を60年までにゼロにするのを目指すのであればなおさらである。

貿易と投資の拡大を

中国が先進経済国の1人当たりGDPに追いつけるかどうかは、世界の貿易や投資への統合を継続することにかかっている。中国は事実上の自給自足体制から、世界最大のモノの貿易国家となった。また昨年受けた外国直接投資の額は他のどの国よりも多かった。

しかし、現在の国際的な環境は厳しい。悪い流れが生まれる中、中国が特定の技術で主導的な立場の構築を図ると、提携する国々は不安を覚える。そして中国のハイテク企業に対し、貿易や投資での規制をかけるようになる。危険なのは中国が内向きになることだ。同国は先に「双循環」と称するプログラムを立ち上げ、国内需要と国家単位のイノベーションにも重点を置く方針を示している。

こうした事態は中国のみならず、世界全体の生産性向上にとっても損失となるだろう。これに対抗する流れとしては、中国が最近、重要な経済協定に参加する動きを見せていることが挙げられる。アジア・太平洋地域の国々と地域的な包括的経済連携(RCEP)協定を結ぶ一方、欧州連合(EU)とは包括的投資協定で合意した。また環太平洋経済連携協定(TPP)の加盟国とも、将来の加盟に関する協議を開始している。これを実現するには国有企業や補助金に対する規制、新たな産業分野への外国投資の受け入れといった重要な改革が求められるだろう。中国はこのほか、バイデン政権に対しても、米中の貿易と投資の障壁縮小に関する提案を行った。

中国は外国との経済関係において1つの転換点に立っている。そうした状況で自国の経済を引き続き開放し、貿易と投資の合意について全方位的に交渉するのは理にかなう。しかしそれが成功するか失敗するかは、何よりもまず国内の課題とどう向き合うかにかかってくるだろう。

人口の高齢化と、都市と農村の分断とは相互に関連した問題だ。都市と農村との統合が進めば、それは高齢者人口の増加に伴うニーズを満たす助けになり得る。都市の労働力をいたずらに激減させる事態も防げる。金融システムの改革とイノベーション政策もまた相互に関連している。対象を絞った産業政策から脱却し、イノベーションへのより広範な支援へと転換するには、多角的で競争力のある金融システムが必要だ。それはもはや国有企業を優遇するための仕組みではない。生産性や生活水準を犠牲にすることなく二酸化炭素の排出量をゼロにするには、イノベーションこそがかぎになるだろう。

本稿はオリジナル版を編集したものです。オリジナル版は国際通貨基金(IMF)の季刊誌「ファイナンス&ディベロップメント」の2021年夏号に全文が掲載されている。デービッド・ダラー氏はブルックリン研究所のジョン・L・ソーントン中国センターのシニアフェロー。黄益平氏は北京大学国家発展研究院の経済学・金融学主任教授並びに同大デジタル金融研究所所長。姚洋氏は北京大学中国経済研究センターと同大国家発展研究院の主任教授。記事の内容は3氏の個人的な見解です。

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