OPINION

中国の宇宙開発、NASAを抜くのも夢ではない理由

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中国が開発したロケット「長征5号」/STR/AFP/AFP via Getty Images

中国が開発したロケット「長征5号」/STR/AFP/AFP via Getty Images

(CNN) 中国には宇宙開発の分野で21世紀の覇権を握るチャンスが大いにあるが、それは単に米航空宇宙局(NASA)をまねることで頂点に上り詰めるという意味ではない。むしろ同国は、スペースXのような革新的な米国企業の動向にも細心の注意を払っている。宇宙開発で先んじるため、共産主義が資本主義から学んでいる格好だ。

エリック・バーガー氏/Amy Carson Photography
エリック・バーガー氏/Amy Carson Photography

2019年夏、中国の小型ロケットが同国南部の内陸にある宇宙基地から打ち上げられた。打ち上げ後、中国のソーシャルメディア上に投稿された近接写真で、小さな「グリッド・フィン」と呼ばれる部品が「長征2号C」ロケットの上部に取り付けられているのが初めて確認された。これらの部品はスペースXが自社のロケット「ファルコン9」に導入したグリッド・フィンと文字通り瓜(うり)二つのデザインで、ロケットが大気圏に再突入し、海上に浮かべたパッドに帰還するまでの姿勢制御を担う。

上記の打ち上げ試験から1年後、中国の主要な宇宙開発請負業者が「長征8号」ロケットについて、再利用を可能にするための開発計画を発表した。同ロケットの推進剤にはケロシン燃料を使用するが、これはスペースXのロケットとも共通している。中国の当局者は、25年までに長征8号がファルコン9と同様、海上のドローン船に着陸できるようになるとの見通しを示した。

しかも政府の請負業者だけがスペースXをまねているのではない。ますます多くの半官半民の中国企業もまた、再利用ロケットの開発計画を明らかにしている。リンクスペースやギャラクティックエナジーといった中国企業は、スペースXの技術を模倣したように見える概略図をすでに公開した。

こうしたことは特に驚くに値しない。ロシアでも欧州でも、政府が立ち上げた企業体が最近になってやはり再利用ロケットの開発計画を発表した。それらは見た目も機能もファルコン9に類似している。ただ中国によるスペースXの模倣の取り組みが特に目を引くのは、同国の宇宙に対する壮大な野心と、長期目標の達成を後押しする莫大(ばくだい)な資源のためだ。

先月、中国政府はロシアと協力して月に研究拠点を建設する計画で合意したと発表。このほかにも中国は火星有人探査や、商業規模の巨大な太陽光発電所を50年までに宇宙空間に建設する計画をすでに始動させている。彼らが戦っているのは長期戦であり、あくまでも勝つつもりでいるのだ。

中国の宇宙における最近の実績に基づけば、こうした壮大な野心は真剣に受け止めるのが賢明というものだろう。昨年12月、中国は月の岩石を地球に持ち帰った3番目の国となった。また今春には米国に次ぐ2番目の国として、火星の地表に探査車を着陸させ、観測を行う見通しだ。

これまでの間ずっと、中国は宇宙にまつわる数多くの領域で競争を繰り広げている。軌道周回宇宙ステーションの建設から宇宙における対衛星攻撃能力の拡充、月面基地建設までその取り組みは幅広い。

中国が宇宙に進出する中、NASAは200億ドル(約2兆2000億円)以上を投じて巨大ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」を製造したが、これはすぐに時代遅れになるかもしれない。この使い捨てのロケットを打ち上げるコストは極めて巨額で、男女の宇宙飛行士を24年までに月に送り込む「アルテミス計画」と合わせると、NASAは議会が承認した予算を43%以上超過する可能性がある。

NASAはまた、国際宇宙ステーション(ISS)も向こう数年で廃棄するかもしれない。一方で中国は欧州の宇宙飛行士らに訓練を施し、中国語を教えている。独自に建設する巨大なモジュール式の宇宙ステーションを彼らが訪れるのを想定した取り組みだ。こうした欧州の宇宙飛行士の一部は、その後中ロが行う月面探査に参加する可能性もある。

以前にもまして、米国の中国に対する主な強みは発展しつつある民間宇宙産業に依拠している。スペースXはその筆頭だ。米国が競争を望むなら、同社をはじめとする民間宇宙企業の潜在力を最大限に引き出すべきだ。これらの企業は宇宙開発の一段の推進をより迅速かつ低コストで実現しようとしている。この種の官民連携は、低周回軌道においてすでに行われていた。NASAはスペースXやノースロップ・グラマン、ボーイングといった企業から提供を受け、物資や宇宙飛行士をISSに輸送している。

このことを一つの理由として、5年ほど前から中国は数十社を対象にロケットや人工衛星の商業化の支援に着手した。したがって、21世紀の宇宙開発競争は中国対NASAというよりも、むしろ中国と米民間宇宙企業の間の戦いだと言える。

10年近く前、スペースXはファルコン9の着陸に成功するようになって国際的な称賛を浴びた。それは以前なら多くの人々が不可能もしくは非現実的とみなしていた工学上の偉業の達成にほかならなかった。過去のロケットブースターは軌道に入る際に燃料を使い果たすと海洋へ廃棄されていたが、スペースXは自社のブースターを垂直にして海上や地上のプラットフォームに着陸させる方法を開発した。これによりロケットを回収、改装してコストを節約することができるようになった。

この後、同社はファルコン9のコア3基を合わせたより大型ではるかに強力なロケット「ファルコン・ヘビー」を開発。さらに現在は一段と大きな再利用ロケット「スターシップ」の試験を行っている。このロケットは火星への人の往来に使用することを念頭に置いている。

2月下旬、中国は驚くほど酷似した宇宙開発計画を発表した。同国の宇宙機関はコア3基からなるロケットを開発することを明らかにしたが、その外観はスペースXのファルコン・ヘビーと似通っている。また巨大ロケット「長征9号」の計画も推進することを確認。同ロケットは低周回軌道に最大140トンを打ち上げる能力を有するが、これは米国のサターンV型ロケットに匹敵する。サターンVは、これまで打ち上げに成功した最も強力なロケットとして知られる。

ただ長征9号はNASAがこれまで製造してきたロケットとは全くの別物になりそうだ。中国の当局者は、スペースXの先例に倣い、同ロケットを再利用型にする意向を示した。さらに、いつか長征9号を打ち上げて中国の宇宙飛行士を火星に送ることを目指していると付け加えた。

スペースXが宇宙開発に転機をもたらす企業となった一方で、米国と中国は依然として激しさを増す争いで膠着(こうちゃく)状態に陥り、地球における影響力と経済力で互いを上回ろうとしのぎを削っている。すでに低周回軌道にまで達した両国の争いは、今後月へ、ゆくゆくは火星へと、向こう数十年のうちに拡張していくだろう。地政学的な影響力と経済的な豊かさを競い合う中で、宇宙空間を抑えることはこれ以上ない優位性をもたらすはずだ。

中国は、間違いなくそこに向かっている。

今のところ、米国とNASAにはよりゆるぎない宇宙プログラムとより強力な民間宇宙産業という強みがある。しかし過去10年間、そうした産業の発展に米議会は寄与するどころか、むしろ足を引っ張る存在だった。議会とNASAがより緊密に民間宇宙企業と連携し、大胆な探査計画を進めない限り、中国はその変わらぬ決意と西側の強みをまねる手法で、スタートの遅れを取り戻してしまうだろう。

エリック・バーガー氏は米テキサス州ヒューストンを拠点とする記者、編集者でスペースXと同社を率いるイーロン・マスク氏に関する著作がある。ヒューストンの地元紙に長く勤めた後、2015年に科学技術系のニュースサイト、アーズ・テクニカに宇宙分野担当のシニアエディターとして加わり、スペースXやNASAをはじめとする宇宙関連全般の報道に携わる。記事の内容はバーガー氏個人の見解です。

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