豪州のボゴンモス、1000キロの移動に星を利用 新研究

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夜行性のボゴンモスはオーストラリア・アルプスの冷涼な洞窟へ1000キロの旅をする/Ajay Narendra

夜行性のボゴンモスはオーストラリア・アルプスの冷涼な洞窟へ1000キロの旅をする/Ajay Narendra

(CNN) オーストラリアに生息する小さなガの仲間、ボゴンモスは、毎年過酷な1000キロの旅をすることで知られる。科学者らはこの驚くべき旅の状況を実験室で再現し、ボゴンモスが夜空の星の輝きを利用して行き先を見極めていることを突き止めた。従来、星を頼りに移動する方法を身に着けているのは、人間と渡り鳥に限られると考えられていた。

ボゴンモスは夜行性で、成虫の翼幅は5センチ程度。暑さを避けるため、春になるとオーストラリア南東部全域からオーストラリア・アルプスの冷涼な洞窟に移動する。秋になると同じ経路を引き返し、交尾して一生を終える。

18日付の科学誌ネイチャーに掲載された論文の共著者で、スウェーデン・ルンド大学の感覚生物学研究を統括するエリック・ワラント氏は、ボゴンモスについて、「この活動こそ本物の航行だ」「星をコンパスとして使い、特定の地理方位を見つけて飛行できる。無脊椎(せきつい)動物でこのような行動が確認されるのは初めてだ」と述べた。

ワラント氏らは5年ほど前の研究で、ボゴンモスが地球の磁場を検知できることを突き止めていた。今回、視覚で得られる手掛かりもまた長距離飛行を支える要素になっているかもしれないとの考えから、新たな実験を試みた。

星を利用した航行の実験

ワラント氏は同僚らと自宅に実験室を設置。自宅はボゴンモスの最終目的地であるオーストラリア・アルプスの約150キロ北に位置する。

実験は光でおびき寄せて捕まえたボゴンモスを円筒形の「モス・アリーナ」に閉じ込めて行った。アリーナの屋根部分には、実験時に外で見えているのと同じ南半球の夜空の画像を投影。アリーナ内でボゴンモスが飛行する方向を観察した。

するとどのボゴンモスも、春の実験ではオーストラリア・アルプスの洞窟がある南の方向に飛行し、秋の実験では洞窟から離れる北の方向を目指すことが分かった。

夏の間、コジオスコ山近くの洞窟の壁にびっしりと張り付いた大量のボゴンモス/Eric Warrant
夏の間、コジオスコ山近くの洞窟の壁にびっしりと張り付いた大量のボゴンモス/Eric Warrant

今回の実験では、ヘルムホルツコイルと呼ばれる機器を使ってアリーナから地球の磁場の影響を取り除いたことが重要だった。「磁気の真空状態」を作り出すことで、ボゴンモスに使える手掛かりは視覚で得られる情報のみとなっていた。

「彼らは星を頼りにしなければならず、実際にそうした」(ワラント氏)

驚異的な旅

この行動実験を行うに当たり、研究チームはおよそ400匹のボゴンモスを捕獲。実験後は安全に逃がした。研究者らはまた、50匹ほどのより小規模なサンプルを集め、航行に使われる神経メカニズムを把握しようと試みた。その際、脳に電極を差し込んだためサンプルは死ぬことになった。

ワラント氏によれば、小さなボゴンモスの瞳孔は人間の約10分の1の大きさしかないため、視認できる星の数自体は多くない。それでも夜の暗さの中では、人間のおよそ15倍の明るさで物が見えることが明らかになった。天の川も格段に鮮やかに見えていると考えられるという。

この明るく見える能力をコンパスとして活用することにより、正しい方向へ飛び続けられると、ワラント氏はみている。

鳥類と人間を別にすれば、同様のやり方で航行する生き物は2種類のみだが、ワラント氏によるといずれもボゴンモスとは重要な違いがある。オオカバマダラも長距離を移動するものの、コンパスとして使う星は太陽だけで、昼間しか飛ぶことはない。一部のフンコロガシは夜間、天の川を頼りに目的地に到達するが、ここで求められているのはずっと単純な行動で、短い距離を直線的に進むだけだ。高度に特定された目的地に向けて長旅をするボゴンモスとはあまり比較にならない。

ボゴンモスの技術を一段と特別なものにしているのは、彼らが一生涯で一度しかこの旅をしないということだ。従ってこの航行能力は先天的に身に着けていると考えられる。

「彼らの親は3カ月で死んでしまうから、誰も彼らにどこへ行くべきか教えてはくれない」「春に土から生まれたときには、オーストラリア南東部のどこか遠い地域にいる。それでも向かうべき場所をちゃんと分かっている。本当に驚異的なことだ」(ワラント氏)

「依然として多くの疑問」

ただボゴンモスがどのようにして星のコンパスから情報を検知し、それを活用しているのかについては、まだ多くの疑問が残る。英エクセター大学環境保護センターに籍を置くジェーソン・チャップマン准教授はそう指摘する。

今回の研究に関与していないチャップマン氏は電子メールの取材に答え、「依然として多くの疑問が残っている」との認識を表明。「たとえばボゴンモスがどうやって情報を検知し、それを使って正しい方角を決めているのか。夜間、季節間の飛行をする上で、どうやって星と磁力のコンパスを組み合わせているのか。このようなメカニズムは他の移住性のガや夜行性の昆虫の間で、どの程度広がっている可能性があるのか(もしくはないのか)といったことだ」と述べた。

ボゴンモスは通常、数十億匹単位で移動するが、近年個体数は激減。現在は絶滅の危機にあり、国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種レッドリストに指定されている。

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