プーチン大統領が思い描く結末は「帝国の復興」

ロシアのプーチン大統領/Yury Kochetkov/Pool/AP

2022.06.13 Mon posted at 16:10 JST

(CNN) ウラジーミル・プーチン大統領の胸の内を読むのは一筋縄ではいかない。だが時に、ロシアの指導者はわかりやすくしてくれる。

9日、プーチン氏がロシアの若い起業家らと会談した時がそうだった。ウクライナに対してプーチン氏が思い描く結末のヒントを探しているなら、会談の書き起こし原稿を読めばいい。ご丁寧にも英語で公表されている。

プーチン氏の言葉がすべてを物語っている。プーチン氏がウクライナで目指していること、それはロシア帝国の復興だ。

挑発的な文章の中でもすぐに大勢の目を引いたのが、自らをピョートル大帝になぞらえた1文だった。ピョートル大帝は17世紀後半に即位し、ロシアの近代化やサンクトペテルベルクの建設を行ったツァーリ(皇帝)だ。サンクトペテルブルクはプーチン氏の生まれ故郷でもある。

リラックスして満足気なプーチン氏は「ピョートル大帝は21年間にわたって大北方戦争を展開した。表向きは、ロシアから領土を奪ったスウェーデンとの戦争だった……彼は奪ったのではない、取り返したのだ。そういうことだったのだ」と述べた。

欧州諸国はピョートル大帝が力ずくで占領した土地を承認しなかったが、それは重要ではないとプーチン氏は続けた。

「大帝が新都を築いた時、この領土をロシアの一部として承認する欧州諸国はひとつもなかった。誰もがスウェーデンの領土だとみなした」とプーチン氏。「だが、この地でははるか昔からスラブ系民族とフィン・ウゴル語派の人々が共存しており、ロシアの支配下にあった。その西にあるナルバや、ピョートル大帝が最初に行った戦いも同じだ。なぜ大帝はその地に向かったのか。領土の奪還と強化、それが大帝のしたことだ」

プーチン氏は自らが仕掛けたウクライナ侵攻に直接言及してこう付け加えた。「明らかに、我々には奪還と強化の責任がある」

こうした発言はすぐにウクライナ側から厳しく批判された。ウクライナ側はこの発言を、プーチン氏の帝国主義的な野望をはっきり物語っているととらえた。

ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領府長官顧問はツイッターへの投稿で、「プーチン氏が領土占領を認め、自らをピョートル大帝に例えたことからも明らかだ。『対立』はなく、ジェノサイド(集団殺害)というでっちあげた口実によるロシアの血なまぐさい侵略行為でしかない。(ロシアの)『面目を保つ』などと言っている場合ではない。即時非帝国化を話し合うべきだ」と述べた。

ここには歴史と現況、両方で多くの意味が込められている。ポドリャク氏が暗にほのめかしたのは、プーチン氏の面目を保ちながらウクライナでの戦闘の鎮静化または停戦を図るという各国政府の提案だ。こうした動きを先導しているのがフランスのエマニュエル・マクロン大統領で、先ごろも、外交的解決を模索する上で「ロシアを辱めてはならない」と発言した。

こうした主張は2月24日以前であれば理にかなっていたかもしれない。プーチン氏は侵攻に先立って、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大からウクライナに対する西側諸国の軍事支援にいたるまで、一連の怒りをぶちまけて戦争の正当性を主張した。

1700年ごろのピョートル大帝の肖像画

だが9日のプーチン氏の発言をじっくり読んでみると、合理的な地政学的交渉というめっきははがれ落ちる。

「ある種の指導力を主張するためには、私が言おうとするのは国際的指導力ではなく、どの分野にも共通して言える指導力だが、どんな国も、どんな国民も、どんな民族も主権を確立しなければならない」とプーチン氏。「間を取るとか、中間状態などはありえないからだ。主権をもつ国か、植民地のいずれかだ。植民地を何と呼ぼうと構わないが」

言い換えれば、国家には主権国家と属国の2つのカテゴリーが存在するということだ。プーチン氏の帝国主義的な観点からは、ウクライナは後者に収まることになる。

プーチン氏はずいぶん前から、ウクライナには正当な国家としての主体性がなく、実質的には欧米諸国の傀儡(かいらい)政権だと主張してきた。すなわちプーチン氏はウクライナ人は権限を持たない被支配民族と考えているのだ。

ピョートル大帝の記憶を呼び起こしたことで、プーチン氏の計画がある種の歴史的運命感に突き動かされていることも明らかになった。プーチン氏の帝国復興構想は、理論的には、かつてロシア帝国またはソビエト連邦に属していた領地にまで及びかねない。ソ連崩壊後に独立した国々で警戒が高まるのも当然だ。

親政府派の統一ロシア党の代表は先週、ロシア下院議会に法案を提出した。リトアニアの独立を承認したソ連時代の決議を廃止しようという内容だ。リトアニアは現在NATOの加盟国で欧州連合(EU)の一員だとしても、プーチン氏のロシアでは、こうしたネオ植民地主義的な姿勢が大統領への忠誠を確実に示す手段なのだ。

これはロシアの未来にとって良い兆しとは言えない。ロシアの帝政の過去を、ソ連だろうと、ツァーリの支配だろうと、清算しないかぎり、たとえプーチン氏がいなくなっても、ロシアが近隣国に繰り返し行ってきた侵攻を止める、あるいはより民主的な国家になるといった可能性は低い。

米国のズビグネフ・ブレジンスキー元国家安全保障問題担当大統領補佐官は、ロシアがウクライナの主権を自ら進んで手放さないかぎり、帝国時代の慣習を捨て去ることはできないだろうと断言したことで有名だ。

ブレジンスキー氏は1994年に、「ウクライナがなければロシアは帝国でなくなるが、ウクライナを不法な手段で手に入れて従属させれば、ロシアは自動的に帝国になる。このことはいくら強調してもし足りない」と書いている。

だがプーチン氏のよりどころはまるで正反対だ。プーチン氏の主張によれば、ロシアが存続するためには帝国であり続けなければならない。たとえ人的代償を払うことになろうとも。

プーチン氏、自身をピョートル大帝になぞらえる

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