金価格高騰、最も恩恵を受けたのは南アジアの女性たちか

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南アジアの家庭にとって、金は単なる投資対象以上のものだ/Illustration by Ian Berry/CNN

南アジアの家庭にとって、金は単なる投資対象以上のものだ/Illustration by Ian Berry/CNN

ニューヨーク(CNN) 米フロリダ州マイアミに住むファルザナ・ガニさん(56)が所有する金の一つひとつにはそれぞれの思い出が詰まっている。

パキスタンでの結婚式で義母からもらった精巧な宝石のセット、サウジアラビア・メッカへの大巡礼(ハッジ)を終えた母親から贈られた金の鎖、娘の誕生を祝ってもらった金貨などだ。

金が記録的な高値を付けている今、ガニさんは金への投資を続けるつもりだ。

「債券や現金を保有するのと比べると、金貨を購入するほうがいい」(ガニさん)

南アジアの花嫁は、ネックレスやイヤリング、鼻輪、ヘアピース、お守りなど、贈られたり受け継がれたりする貴金属で身を飾るのが一般的だ。そうしたコレクションは花嫁が生まれる前から始まることが多く、受け継いだものや、誕生日や人生の節目、宗教的な祝日を記念する贈り物などで構成される。

金は数千年にわたって最も信頼できる安全資産として知られてきたが、南アジアの家庭にとって金は単なる投資以上の意味を持つ。娘が母親の金を相続するという伝統は、社会経済の階層を問わず、インドの都市部から農村部まで幅広く受け継がれている。

新婚のカップル=2019年、インド・ニューデリー/ Altaf Qadri/AP
新婚のカップル=2019年、インド・ニューデリー/ Altaf Qadri/AP

金はこの地域の文化に、文字通り深く織り込まれている。多くの女性が金糸で精巧に刺繍(ししゅう)されたサリーを受け継いでいる。女性たちは金をすぐに現金化できるものというよりも貴重な家宝として大切にしている。金は女性にとって自分だけの数少ない財産の一つと言えるだろう。

金の価格は2024年に27%上昇した後、今年に入っても20%以上急騰している。トランプ米大統領による混乱を招いた関税政策と連邦準備制度理事会(FRB)議長への攻撃を受けて、金価格は4月に1トロイオンス当たり3500ドル(約51万円)を突破して史上最高値を記録した。そして、長年にわたって資産の大半を金に投資してきた南アジアの女性たちが、この上昇局面から恩恵を受けている。

結婚式を挙げる花嫁=1月、パキスタン・カラチ/ Xinhua/Getty Images
結婚式を挙げる花嫁=1月、パキスタン・カラチ/ Xinhua/Getty Images

「私が持っているものはすべて金です」。ある南アジア出身の母親がTikTok(ティックトック)で語り掛け、28年前にもらった24金のネックレスを披露した。「このネックレスを買った当時は金はとても安かった。1グラム12ドルだったのに、今では100ドルです」

業界団体ワールドゴールドカウンシル(WGC)によれば、インドは23年に世界第2位の金宝飾市場となり、中国に次ぐ規模となった。21年にはインドは611トンの金の宝飾品を購入した。次に大きな市場の中東は241トンを購入していた。

インドでは宝飾品が需要をけん引している。インドでは年間1100万~1300万件の結婚式が予定されており、ブライダルジュエリーが金市場の50%以上を占める。英国の金の供給業者ソロモン・グローバルの顧客基盤のうち南アジアが約10%を占めている。同社によれば、昨年は南アジア出身女性による金の購入が増加した。

WGCの米大陸担当上級市場ストラテジスト、ジョセフ・カバトーニ氏はCNNの取材に対し、「宝飾品は人々の生活の中で縁起の良い場所を占めており、非常に消費者志向的であると同時に、世代から世代へと受け継ぐための非常に優れた手段でもある」と述べた。

インド・アムリトサルの宝石店=4月/Narinder Nanu/AFP/Getty Images
インド・アムリトサルの宝石店=4月/Narinder Nanu/AFP/Getty Images

WGCのインドの最高経営責任者(CEO)サチン・ジャイン氏によれば、インドの人々は金をぜいたく品とは考えていない。むしろ、価値が上がる一方の家族の財産だと考えている。

特に女性など何百万人もの人々が銀行口座やその他の組織的な投資手段を利用できない地域では、金の宝飾品は物理的な経済上の保護手段として機能する。調査会社ユーガブの3月の調査によれば、インドでは、独立して家計を管理している女性は50%に満たない。

しかし、今年は、金の投資に頼るのは南アジアの花嫁だけではない。トランプ大統領による貿易戦争は世界の貿易を混乱に陥れ、投資家は変動の激しい通貨から資産を移そうとしている。金は25年1~3月期に1986年以降で最高の四半期のリターンを記録し、安全資産としての需要は銀やプラチナなど他の金属にも波及した。

インドと中国の中央銀行は金の保有を増やしている。ソロモン・グローバルによれば、インド準備銀行は過去5年間で金保有量を35%増やした。

南アジアの人々は長年にわたり、自宅に金を保管してきた。WGCのジャイン氏によれば、控えめな推計でもインドの家庭には2万5000トン以上の金が眠っているという。

しかし、南アジアの人々はまだ、金を売却することに興味はなさそうだ。ジェイン氏によれば、歴史的にみて比較的価格が高いときに金の売却が増加する傾向があるにもかかわらず、インドの人々は価格が高くても金を保有し続けている。

ジェイン氏は、インドの消費者が昨年、実店舗を訪問し、古い宝石類を現代的なデザインに買い替えていると指摘した。若年層は依然として金を保有することに価値を見いだしているものの、銀行の貸金庫に眠っているような巨大なブライダルジュエリーではなく、日々身につけられるジュエリーを求めているという。

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