被害者の人生を破壊する「ディープフェイクポルノ」、韓国で深刻化
世間の冷淡な反応
キムさんがCNNに語ったところによると、自分がディープフェイクの標的になっていると知ったのは23年7月のことだった。生徒があわてて見せに来たツイッターのスクリーンショットには、教室内に立つキムさんの体に焦点を合わせた、不適切な写真が表示されていた。
「両手が震え出した」と、キムさんは振り返る。「こんな写真をいつ撮られたのか。だれがこんなものを投稿したのだろう」
CNNはキムさんのプライバシーと安全に配慮して、姓だけの表記にとどめている。
キムさんによれば、事態は2日後、さらに悪化した。キムさんの髪はボサボサに、体は振り返っているような姿勢に改変された。加工された顔写真が、ヌード写真と合成されていた。巧妙な技術のせいで、不気味なほどリアルな画像になっていた。
警察からは、投稿者を特定するにはツイッターにユーザー情報を請求するしかないと言われた。そのツイッターは「言論の自由とプライバシー保護」を掲げる米実業家イーロン・マスク氏が22年に買収し、23年に名称を「X」に変更した。
キムさんともう一人、隠し撮りの被害に遭った同僚は、公式の窓口を通してユーザーを特定するのは時間がかかりすぎるとの懸念から、独自の調査を始めた。
2人が探し当てたのは、おとなしく内向的な生徒だった。「そんなことをするとはとても思えない人物」だと、キムさんは言う。
この人物は訴追されたが、キムさんにとっては裁判がどうなろうと、人生が元に戻ることはない。
キムさんは、世の中から共感を得られないことにも失望したと話す。「ディープフェイクをめぐる多くの記事やコメントに、『自分の本当の体でもないのにどうして重大犯罪になるのか』と書いてあるのを目にした」という。
X(旧ツイッター)の現行の規約では、ユーザー情報を請求する場合、召喚状や裁判所命令などの有効な法的文書を取得したり、法執行機関名の請求状を専用サイトから提出したりする必要がある。
Xはまた、請求があったことをユーザー本人に通知する方針を示している。
一方でXは、信頼性に関するルールとして「人を欺いたり、損害につながったりする可能性のある偽装コンテンツ」の共有を禁止している。
SNSに対策を求める動きも
前出の活動家ウォン氏によれば、韓国では長年、女性の性的コンテンツを共有したり、閲覧したりすることが犯罪とはみなされていなかった。
ポルノは法律で禁止されているものの、当局は法の執行や違反者への処罰を怠ってきたと、ウォン氏は指摘する。
CNNがインタビューした被害者らは、口をそろえて加害者への厳罰化を求めた。キム氏は、犯罪防止策も重要だが「事件が起きた時、適正な裁きを下すことも必要だ」と強調した。
SNSなどのオンライン・プラットフォームも対策を求められている。
さまざまなデジタル犯罪の温床となっているテレグラムは、違法行為に対する取り締まりの一環として、今後はユーザー情報を当局に開示すると表明している。
これに先立ち、テレグラムのパベル・ドゥロフ最高経営責任者(CEO)は昨年8月、同アプリの犯罪への悪用を放置したとしてフランスで逮捕された。
韓国のメディア規制当局は昨年9月、テレグラムが違法コンテンツの一掃に向けたホットラインの設置に同意し、当局の要請に応じてデジタル性犯罪の映像148件を削除したと発表した。
ウォン氏はこの動きを歓迎しつつ、やや懐疑的な見方を示す。テレグラム側に実質的な改善がみられなければ、アプリ配信サービスから同アプリを削除させ、新たなユーザーの登録を阻止するべきだと主張している。
テレグラムはCNNへの声明で、「違法ポルノにはゼロトレランス(寛容度ゼロ)の方針をとっている」と述べ、「手作業による監視とAI、機械学習ツール、ユーザーや信頼できる組織からの報告」を組み合わせて、違法ポルノなどの乱用行為を取り締まっていると説明した。
ソウル警察によると、今年1月には韓国当局が初めて、テレグラムから犯罪関連のデータを入手することに成功した。
同警察によれば、テレグラム上での200人以上に対する性的搾取の疑いで、未成年者6人を含む14人が逮捕された。犯行グループの首謀者は20年以降、さまざまな年齢層の男女を標的にしてきたとされ、さらに70人以上がディープフェイク素材を作成、共有したとして捜査対象になっている。
その一方で被害者たちはCNNに、同じような目に遭う女性たちが、今後は警察や裁判所からもっと支援を得られるよう願っていると語った。
ルマさんは「刑罰がどんなに強化されても、被害を受ける人はまだまだたくさんいる。加害者がつかまっていないからだ。変化や裁きの真の実現からはほど遠いと感じる」「この先の道のりはまだ長い」と訴えた。