ドローン使ってロシア領に地雷ばらまく ウクライナの特殊部隊「コード9.2」

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CNNの取材班がウクライナ軍のドローン(無人機)部隊とともに前線に入った/CNN via CNN Newsource

CNNの取材班がウクライナ軍のドローン(無人機)部隊とともに前線に入った/CNN via CNN Newsource

ウクライナ・ハルキウ州ロシア国境付近(CNN) 夕暮れが訪れ、暗くなる前に慌てて身を隠す。

ウクライナ軍第92強襲旅団のドローン(無人機)部隊「コード9.2」は新たなドローン発射地点へと移動し、まれに見る効果的な作戦を実行しようとしている。ロシア方面へドローンを飛ばし、敵地の幹線道路に地雷を落とそうというのだ。

たそがれ時は束の間のチャンスだ。暗くなって込み入った任務が不可能になる前に、機材を新たにセットして「ハンビー(高機動多用途装輪車両)」から降ろす。少しずつ日の落ちる薄闇の時間帯が、攻撃対象を探して絶え間なく頭上を飛ぶロシアのドローンの群れから身を隠してくれるだろうと期待するしかない。

スターリンク用のパラボラアンテナ、広帯域ドローンアンテナ、数十個のバッテリーと大型の対無人航空機システム「バンパイア」2基が塹壕(ざんごう)と掩蔽壕(えんぺいごう)に運び込まれ、30分も経たないうちに準備が整った。あとは暗闇が訪れれば任務開始だ。

すぐに危険が形となって現れた。操縦士のアンドレイとアルテムが掩蔽壕を出て仕事にとりかかろうとした途端ノイズが聞こえ、2人は身を隠すために駆け戻った。

「シーッ」とアンドレイがささやく。「オルランだ」。偵察ドローン「オルラン」は、暗闇でも確認できるサーモグラフィーカメラを搭載している場合がある。唯一の方法は隠れること。そして聞き耳を立てて、通り過ぎるのをじっと待つ。「あれは一晩中飛び続ける」とアンドレイが言う。

地平線のあちらこちらで閃光(せんこう)があがる。遠くで爆撃があったのだ。中央にきらめくのは、現在ウクライナから再三攻撃を受けているロシアの都市、ベルゴロドの街の明かりだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は1週間前から続くウクライナのハルキウ州への攻撃について、国境沿いに緩衝地域を設けて市民を守るのが目的のひとつだと主張しているが、2022年2月に侵攻を開始した際には市民の安全は疑いようもなかった。

塹壕はたちまち作戦拠点と化した。数カ月におよぶバフムート周辺の激しい戦闘の後、兵士たちは新しい拠点となった静かな野原になじむのに苦労していた。

周囲が暗闇に包まれるとドローン(無人機)部隊「コード9.2」の仕事が始まる/Brice Lainé/CNN via CNN Newsource
周囲が暗闇に包まれるとドローン(無人機)部隊「コード9.2」の仕事が始まる/Brice Lainé/CNN via CNN Newsource

沈黙の中アルテムが口を開き、「当たるか当たらないかは分からない」と言った。失敗に終わった東部ドネツク州バフムートの防衛と、国境から約4マイル(約6.4キロ)離れた今夜の任務の違いだ。ここでは木々が生い茂り、前線もはっきり定まっていない。またロシアに近いため、「偵察部隊は国境を越えて、どこにでも入って来られる」。兵士たちは冗談気味に、目を覚ましたらロシア兵に見下ろされているかもしれないと言った。

だがアルテムにとって、今回の戦闘は思い入れが強い。両親はここから車でそう遠くない、戦争で一部被害を受けた村で今も暮らしている。アルテムは18カ月間前線で戦っていたが、両親には平穏な検問所に配置されたとうそをついていた。今は両親も息子が近くで戦っていることを知っている。故郷のために戦っているという気持ちが、アルテムを落ち着かなくさせた。

一番強い感情は「不安だ」とアルテムは言う。「両親がすぐそこにいる。何らかの形で失敗しても、もし突破口があったとしても……。責任は重い」

辺りが闇に包まれる。唯一の光源は砲弾の閃光と満月に近い月だけだ。兵士たちは手際よく作業を進める。アルテムとアンドレイは赤色灯火をたよりに、急いで地雷をドローンに装着する。突然、かすかな電磁ノイズが耳に入った。

「走れ」とアンドレイが言うと、兵士たちは近くの掩蔽壕に身を隠した。一度ドローンに見つかると、塹壕は一晩中空爆や砲撃に攻撃されかねない。撤退するチャンスはほぼゼロだ。車両はないし、開けた土地を徒歩で駆け抜けるのも危険を伴う。

数分が経過。近くで炎の火が上がる。別の場所でも戦闘が繰り広げられているのだ。兵士は作業を続けた。拘束バンドで導管をつなぐ。マスキングテープで爆発物を止める。すると別のドローンが付近を通過し、兵士は再び避難場所に駆け込んだ。

薄明りのなか、ハンビー(高機動多用途装輪車両)から機材を降ろし、準備が進められる/Brice Lainé/CNN via CNN Newsource
薄明りのなか、ハンビー(高機動多用途装輪車両)から機材を降ろし、準備が進められる/Brice Lainé/CNN via CNN Newsource

2度邪魔が入り、急いで避難したためにやや息を切らしたが、ようやく発射の準備が整った。

塹壕に戻ると、操縦士のサーシャがバンパイアの暗視カメラで、流れる地上の映像を確認した。サーシャが国境を指さし、「もうロシアに入った」と続けた。

「パスポートは持ってきたか?」とアルテムが茶々を入れる。「俺はビザなしで行けるんだ」とサーシャが答える。

かつて道化役はアンドレイの本業だった。戦争で様々な職歴のウクライナ人が戦場に送られる以前、アンドレイはコメディアンだった。ボロディミル・ゼレンスキー氏の番組に共演したこともある。ゼレンスキー氏が政界入りして大統領になる前、まだTV番組のプロデューサー兼俳優だったころの話だ。「正直、今まで会った中でも最高に雰囲気のいいひとだった」とアンドレイは言う。

「ものすごいエネルギーだ。あの人といるのはいつも楽しい。しょっちゅう2人で一緒に過ごした」

敵国とは違う、ウクライナ軍ならではの特徴だ。プーチン氏率いる部隊の中で、戦前にステージで政府のトップと冗談を飛ばした人間は誰もいないだろう。

ドローンがロシア領域をさらに進む。すると塹壕で警告メッセージがけたたましく、何度も立て続けに鳴り、GPS電波妨害が作動していることを知らせた。サーシャは一瞬ドローンの通信が途絶えるのではないかと懸念した。ライブ映像が消えた。サーシャが動揺しながらコントロラーを操る。

すると数分後、通信が復活した。ドローンは電波妨害を通過し、進路を維持していた。このまま目標物へと向かっていける。ほどなく二つのパッケージがドローンの腹部から落とされ、地雷は道路に着地した。部隊の話では、翌日に装甲車両1台と非装甲車両1台が爆破されたという。

ドローンが近づくと、二つの問題が兵士たちを待っていた。一つ目はGPSシステムが損傷を受けたらしく、前触れもなく逆さまに墜落した。二つ目は、ロシア軍のオルランの姿が目に入ったことだ。ドローンの後を追ってウクライナ側に入り、おそらく発射地点を探しているのだろう。兵士は数分間身を潜め、脅威が去るのを待った。頭上で砲弾の音が聞こえ、近くに着弾した。兵士はドローンを回収したが、夜明けまでは予備のドローンでしのぐしかない。日の出になれば、損傷具合を確かめることができる。

バンパイアの出動はその後も続いた。兵士たちによると、1晩で24回出動させたのが最多記録だという。だが目下、標的はロシアそのものだ。ロシア政府に戦闘で返礼するというウクライナ政府の意思と、3年目を迎えた戦争が危険で新たな局面へと向かっていることを、ありありと象徴している。

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