OPINION

世界にとって、パレスチナ人の命は大切か?

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ガザ地区のアル・マガジ難民キャンプを襲う破壊と混乱/Belal Khaled/Anadolu/Getty Images

ガザ地区のアル・マガジ難民キャンプを襲う破壊と混乱/Belal Khaled/Anadolu/Getty Images

(CNN) 誰かが眠りから目覚めさせてくれるのを待ち続けている。

パレスチナ自治区ガザ地区の路上で起きる、現実とは思えない圧倒的な破壊を目にする。両親が暮らすその地では、1万人を超えるパレスチナ人の命が無残に失われている。リアルタイムで繰り広げられる事態に、私の心はどこまでも沈んでいく。

希望にすがって何かが、あるいは誰かがこの悪夢を終わらせてくれると考えてみても、そんなことは決して起こらない。

それどころか気がつくと毎日、悲劇に見舞われた家族たちを悼み、深刻な不公正を嘆いている。かくも恐ろしい形で人命が喪失し続けるのを許す、その不公正を。

妻と私は毎朝バージニア州で目を覚ますが、9600キロほど離れたガザから良いニュースが届くことなどないと分かっている。更新される情報は私たちの絶望を深め、パレスチナ人たちはこうした残虐行為の重みにじっと耐える。世界が見守る中で。

ふと私たちは不安に襲われる。ちょうど手術から目覚めて、まだ鎮静剤が効いているような感覚だ。周囲の状況を理解してはいるが、意味のある行動を取るのは困難に思える。

母方のいとこのアフマドは今月6日、両親ときょうだい全員を1発の爆弾で失った。ほんの4分間、家の外に出たことが彼の生死を分けたと考えると、心底背筋が寒くなる。

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の同僚たちは現地で日々、職員の死傷者やイスラエル軍の空爆による施設の被害を報告する。食料、水、医薬品、燃料が不足しているガザの状況も知らせる。

16年に及ぶイスラエルの封鎖措置により、信じられないことだが既にガザ住民の75%がUNRWAの食糧支援を必要とする事態に陥っていた。今回の戦争行為が起きる前の時点でだ。

米国にあるUNRWAの支援団体、UNRWA USAで私たちが年末に向けて立てていた計画では、大学の奨学金のスポンサーを確保することになっていた。学力の高いガザ難民の学生への支援だったが、直近の出来事が計画に影を落としている。私が学んだアズハル大学を含む現地の高等教育機関は、今や廃虚の中にある。

ガザの大学人や学生が注力する事柄は、将来のキャリアの考察から基本的な生存へと劇的に変わってしまった。

ガザで起きている災厄は、国際人道法の妥当性について重大な疑問を投げかける。これらの法律は今なお重要なのか? 世界にとって、パレスチナ人の命は大切なのか?

ガザにいる母の言葉に、先月7日以降の出来事がもたらした衝撃が表れている。強烈な不安に襲われ、完全に通信が途絶した数日間が過ぎた後、母はこう打ち明けた。「私たちは昼も夜も天井を見つめて過ごしている。今にも爆弾が落ちてくるのではないかと想像しながら。そうなれば私たちは次の章へと進むのだろう」

絶えざる恐怖と不確実さが私の家族の頭上を覆っていることを、この言葉は裏付けている。母はリビングで寝ると決めた。孫たちも全員一緒だ。そうすればこの世であれ来世であれ、彼らのそばにいられる。母の愛情と、孫を守りたいという思いの強さが痛いほど伝わってくる。

8歳のおいのヤザンは、祖母の毛布を盾だと信じて気持ちを落ち着かせている。痛ましくも心温まる話だ。

これほど困難な時代には、このようなちょっとした愛情あふれる行動が、わずかな希望と安心感を与えてくれる。たとえ極めて危険に満ちた世界であっても。

今夏、故郷のガザを訪れ、家族と菓子店で記念撮影をする筆者のハニ・アルマドゥーン氏(左)/Hani Almadhoun
今夏、故郷のガザを訪れ、家族と菓子店で記念撮影をする筆者のハニ・アルマドゥーン氏(左)/Hani Almadhoun

ヤザンのような幼い子どもの両肩にまでこのような重荷がのしかかる状況は、常軌を逸した困難に現在のガザが直面していることを証明する。パンを手に入れるだけのために何時間も列に並ばなくてはならないが、戦争地帯にあって今やパンは貴重品だ。食料不足と水の欠乏に苦しむ現地の実情に、日々の厳しさが表れている。

おいのオマールは私にこう語った。「家を出るときはいつも、帰ってきて家族の無事を確かめられるだろうかと自分に問いかける。それとも運悪く、よくない場所によくないタイミングで居合わせてしまうのだろうかと」

このような深い苦しみと内省の瞬間にあって不可欠なのは、バイデン大統領のような指導者を含む国際社会が結束し、緊急の停戦を求めることだ。

我々は人権と国際法を確実に支持する必要がある。国籍や経歴に関係なく、どんな命も使い捨てになどされない世界を育てなくてはならない。パレスチナ人を含むあらゆる個人の価値観が尊重され、守られる未来を目指さなくてはならない。

もしガザ地区に住む民間人のための取り組みに失敗するなら、我々は彼らを一段と深い絶望の奈落へと押しやることになる。

パレスチナ人は、数十年に及ぶ暴力的な軍事占領下での暮らしにうんざりしながらも、決してあきらめはしない。国際法は、占領勢力に対してさえ被占領者たちの健康と安全を確保するよう義務づけている。集団的な懲罰も、強制的な移転も明確に禁じている。

それでも、ガザの現状並びに全住民に対する容赦ない襲撃を目の当たりにすると、イスラエルの目的はある究極の降伏というものを我々やその子どもたちに教え込むことなのではないかと考えざるを得ない。彼らがかつて我々の祖父母にそうしたように、自分たちは敗れた民なのだと思い知らせるのが狙いなのではないだろうか。

私は8月半ばにガザを後にした。ラファ検問所を出るとき、友人たちにこう言った。「祖国をよろしく頼む」。その文句に、これ以上ないほどの重みを感じる。

ハニ・アルマドゥーン氏は、UNRWAを支援する米国の非政府組織(NGO)、UNRWA USAで慈善活動を統括する。ガザ地区で育ち、家族は今もそこで暮らす。記事の内容は同氏個人の見解です。

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