「エアコン大好き」のシンガポールが示す気候変動のジレンマ

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エアコンの室外機が点在する集合住宅の外壁/Edgar Su/Reuters

エアコンの室外機が点在する集合住宅の外壁/Edgar Su/Reuters

(CNN) 気温がおよそ37度まで上昇した今年5月、シンガポールに住む大学生のチー・クアン・チューさん(20)は、すべての予定をキャンセルして、エアコンが効いた室内で快適に過ごす以外の選択肢はないと考えた。

「シンガポールではエアコンがないと生きていけない。この暑さでは無理です」(チーさん)

チーさんは、アンモキオにある4ベッドルームの集合住宅に家族とともに住んでいる。ここは、最近の猛暑によって気温が40年ぶりの高さを記録し、大きな話題となった地域だ。幸いなことに、チーさんの家には各ベッドルームに1台、リビングに1台、計5台のエアコンがあるという。

「水をたくさん飲み、冷たいシャワーを浴び、週末はずっとエアコンをつけていました。これが私の暑さ対策です」とチーさん。

シンガポールにおいてエアコンで暑さをしのぐことは、決して不合理な行動ではない。赤道から北におよそ137キロ離れたこの島国は、年間を通して27度を超える高温多湿な気候で知られている。この気候ゆえ、シンガポールは世界で最もエアコンが効いた国の一つとなり、国民1人当たりが所有するエアコン台数はどの近隣諸国よりも多い。

実際シンガポールでは、エアコンはほぼ生活の一部になっている。オフィスやショッピングモールにエアコンがないことは考えられないし、民間コンドミニアムの99%、公営住宅の大部分にもエアコンが設置されている。

シンガポール「建国の父」であるリー・クアンユー元首相は、かつてエアコンを「20世紀最大の発明」だと述べ、エアコンによって英国の植民地だった辺地のシンガポールが世界有数の金融センター(現在1人当たりの賃金が世界最高水準)に変貌(へんぼう)したと評価していた。

だが、こうしたエアコンへの熱狂は、シンガポールに莫大(ばくだい)なコストをもたらすこととなった。

シンガポールはすでに暑いが、専門家が「危険で悪循環」と表現するように、エアコンによってさらに暑くなっているという事態に陥っている。これは、気候変動における「身動きが取れない」矛盾した状況であり、エアコンに依存するすべての国が直面している問題だ。

簡単に言えば、世界の気温が上昇すればするほど、エアコンを使用する人々が増える。そして、人々がエアコンを使えば使うほど、世界の気温は上昇する。

地球温暖化のパラドックス

ガソリンを大量に消費する自動車やメタンを排出する牛に比べ、エアコンが地球温暖化の原因としてメディアに取り上げられることはほとんどない。だがエアコンは、気候変動を加速させる強力な力を持っているという。

世界経済フォーラム(WEF)は、エアコンが排出する温室効果ガスが抑制されなければ、今世紀末までに地球の気温が最大0.5度上昇する可能性があると試算している。

エアコンがもたらす地球温暖化への影響は二つある。一つは、冷蔵庫と同様、現在のエアコンの多くは、有害な温室効果ガスであるハイドロフルオロカーボン(HFC)という冷媒を使用していること。もう一つは、エアコンが化石燃料の燃焼によって生成される電力を大量に使用する傾向があるということだ。

国際エネルギー機関(IEA)によると、エアコンと扇風機は世界の電力消費量の約10%を占めている。

人口およそ540万人、国土面積はニューヨーク市よりもわずかに小さいシンガポールは、比較的コンパクトな国であるため、地球温暖化の原因となるHFCや電力の消費量は全体の一部に過ぎない。

WEFによれば、1人当たりの使用量が多いとはいえ、その総排出量は、約90%の家庭でエアコンを使用している日本や米国の排出量に比べれば、はるかに少ないという。

それでも、シンガポールが地球温暖化の影響をそれほど受けないという意味ではない。シンガポールはすでに暑く、急速に気温が上昇しているため、暑さに耐えられなくなるまでの時間的余裕は、他国に比べて少ない。

2019年に発表された政府データによると、シンガポールは過去60年間、地球上の他の地域の2倍の速さで温暖化が進んでいるという。1日の最高気温も2100年までに最高37度に達する可能性があると、当局は警告している。

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