ANALYSIS

大統領が誰であれ米国は「当てにならない」 欧州で懐疑的な見方も

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経済政策について言及するバイデン大統領=4月19日、米メリーランド州/Patrick Semansky/AP

経済政策について言及するバイデン大統領=4月19日、米メリーランド州/Patrick Semansky/AP

(CNN) バイデン大統領が先週、2024年大統領選への再選出馬を表明した時、それが大西洋両岸の関係性に今後どんな意味を持つのか、欧州の同盟国にははっきりしていた。

言うまでもなく、20年にバイデン氏当選のニュースが届くと対岸の各国首脳は胸をなでおろした。トランプ大統領(当時)よりも典型的な民主主義指導者がホワイトハウスの住人になると思ったからだ。

だがトランプ政権の4年間にもたらされた被害を、バイデン氏がすべて元通りにできないことも承知していた。

何かと事を荒立てる指導者だったトランプ氏は、再三にわたって欧州の同盟国を批判した。チーズから飛行機にいたるまで、あらゆる分野で貿易戦争をしかけると威嚇した。北大西洋条約機構(NATO)の原則を疑問視し、欧州連合(EU)を中傷した。英国がEU離脱で法律上EUに支払わなければならない500億ポンド(現在のレートで約8兆6000億円)について、自分が英国の首相だったら単に支払わないと発言したこともあった。

欧州各国がトランプ政権の日々を完全に払拭(ふっしょく)できない理由は二つある。一つ目は、トランプ氏が一度なれたのなら、本人またはトランプ氏の同類が再び出てこないとも限らないからだ。もうひとつは、バイデン氏が貿易に関する保護主義や中国への最大限の圧力というトランプ政権時の外交政策をおおむね引き継いでいると欧州が考えているためだ。

少なくとも今後10年は、この二つの現実が欧州の対米姿勢や世界秩序での立ち位置に影響を及ぼすだろう。

欧州の外交官や政府関係者と話をすると、「信頼」という言葉が頻繁に出てくる。同盟国としての米国の意向はもちろん、米国の民主主義に対する信頼だ。

「1月6日の議事堂襲撃事件をふまえると、再び似たようなこと、あるいはもっと悪い事態が起きて政治体制が崩壊することがないと信頼できるだろうか。米国内の分断を目の当たりにして、保護貿易主義的な『米国第一』政策が繰り返されないと信用できるだろうか」と欧州の上級外交官はCNNに語った。「この先も安泰だと言い切れない同盟国に過度に依存する余裕はない」

こうした信頼の欠如と米国への全般的な猜疑心(さいぎしん)もあり、欧州では「戦略的自律」と呼ばれる政策に拍車がかかった。基本的には、欧州は外交政策で独自路線を取り、米国への依存を減らそうとしている。この政策の主な狙いは欧州と中国の緊密な経済連携の維持だが、このことは米国の2大政党どちらにとっても受け入れがたいだろう。

フランスのマクロン大統領は先日、戦略的自律についての考えをやや歯切れの悪い言葉で語った。マクロン氏は米政治専門サイト「ポリティコ」の取材に対し、欧州は中国問題で「単に米国の追従者」であってはならないと発言し、波紋を呼んだ。中国が台湾を侵略した際に、欧州がどう対応するかという質問を受けての発言だったからだ。だがEU全体で見ると、中国に対する強硬的な姿勢に程度の差はあるものの、加盟する27カ国はいずれも戦略的自律を支持している。

昨今の米国に対する欧州の懸念から、EUでもとくに中国に懐疑的な一部の国ですら、中国問題で米国とは異なるアプローチを取るべきだとの意見を受け入れているのが現実だ。

だからといって、EUの全加盟国が新たな現実を歓迎しているわけではない。とりわけ東欧諸国からは、中国市場や安い労働力の魅力に目がくらみ、中国に経済的に依存しすぎる危険を懸念する声もある。

「対中関係からリスクを除外しなければならない。ロシアの時はそれができなかった。中国のリスクを過小評価しているのではないかと心配だ」と東欧の外交筋は言う。「親ロシア派はかつて、経済協力が自分たちを守ってくれると言ったが、結局ロシアがガス供給を止めるのを防げなかった」

だが最大の強硬派でさえ、今は対中関係の完全解消よりもリスクの排除に言及し、EU各国の政府当局者はトランプ政権下でなされた欧米関係の変化を引き合いに出す。そうした変化の一部は、もう取り返しがつかないというのが欧州当局者の見方だ。

一方で米当局者は楽観的だ。いつか欧州が我に返り、貿易や技術開発で中国と対立を深め、中国の人権問題や南シナ海での活動を強く非難する米国の姿勢に近づくだろうと考えている。

「えてして米国は警告を知らせる存在だ。我々は中国問題で警鐘を鳴らしているが、欧州の耳に届くまでにはもう少し時間がかりそうだ」と米政権当局者はCNNに語った。「欧州は中国との連携を強めているが、最近では友好国があっというまに敵国になりうることも学んだ。中国による台湾侵攻の圧力が強まれば、欧州がどこまで脱中国にふみきるかが試されることになるだろう」

別の米当局者はCNNに対し、トランプ政権時に同盟国が学んだ教訓は、大統領が誰であれ米国との「恒久的な」関係の維持が重要だということであり、今は「現状に満足」して「欧州の大国として米国が不可欠な存在」であることを失念すべきときではないと語った。

再び欧州に目を移すと、不可欠な存在という問いはやや違った風にとらえられている。「問題はあるものの、米国は避けることのできない友好国だ」と、先の上級外交官はCNNに語った。

米国内の政治的分断もあり、欧州は米政府の発言を額面通りに受け止めることができなくなったという意見がある一方、バイデン氏、あるいは同氏の後継者は関係改善にもっとやれることがあるはずだという声もある。

「形だけでも構わないから、経済やサイバーセキュリティーなどでより緊密な協力関係を構築する努力をしてくれればいいのだが」と欧州当局者は言う。「例えば、EUと米国の貿易技術評議会は良い話し合いの場だが、今のところテクノロジーに重きを置き過ぎている。米国はインフレ抑制法についてもっと事前に通知し、EU経済にどんなマイナス影響があるか意見を求めることもできただろう」

内々で語られる本音はより明瞭だ。フロリダ州のデサンティス知事やトランプ氏が次期大統領に就任するよりも、バイデン氏続投のほうが欧州にとってはずっとありがたい。

だがここまでのところ、バイデン政権は欧米関係の大幅修復にむけて道を開くまでには至っていない。欧州は国際社会で我が道をゆくことにほぼ専念している。

いくつかの点で、こうした事態は避けられなかったし、必須だった。だがトランプ政権が落とした影やバイデン政権が継続する内向的政策により、他国への追従ではなく独自路線を見つけようとする欧州の決意がかつてないほど固まっているのは否めない。そして今、このことが意味するのは、ウクライナ情勢を除けば過去10年で最大の外交課題となっている対中問題で、欧州が引き続き米国から距離を置くということだ。

本稿はCNNのルーク・マクギー記者の分析記事です。

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