ANALYSIS

タッカー・カールソン氏の突然の解雇、結局はFOXニュースの打算が理由か

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タッカー・カールソン氏の突然の解雇を巡り、理由を問う声が跡を絶たない/Seth Wenig/AP

タッカー・カールソン氏の突然の解雇を巡り、理由を問う声が跡を絶たない/Seth Wenig/AP

ニューヨーク(CNN) 一体なぜ?

FOXニュースが高視聴率番組の司会者タッカー・カールソン氏を解雇したという驚天動地のニュース以来、こうした質問が跡を絶たない。おそらくこの先も続くだろう。メディアと政界を揺るがした今回のニュースで、「なぜ?」という根本的な問いへの答えが求められている。

だが、この問いに答えるのは決して簡単ではない。カールソン氏が右派TV局から突然解雇されて数時間も経たないうちに、数々の臆測が浮上した――どれも説得力のあるものばかりだ。言うまでもなく、解雇のわずか数日前にFOXが投票集計機メーカーのドミニオン・ボーティング・システムズと未曽有の額で和解したことは偶然ではない。だが、和解がカールソン氏解任に具体的にどう作用したのかについては依然はっきりしない。

ひょっとすると、元プロデューサーのアビー・グロスバーグ氏が同局を訴えたことと関係があったのではないか? 原告によると、カールソン氏の番組の制作現場では性差別や反ユダヤ的な言動が横行していたという。あるいは、カールソン氏が仲間内で同僚やFOX上層部を口汚く罵っていたからでは(ドミニオン裁判の資料では伏せ字になっていた)? あるいは何カ月も社内の恥辱が公共の電波にさらされた末、ルパート・マードック氏(FOXニュースを傘下に置くFOXコーポレーションの会長)と息子のラクラン・マードック氏(同社CEO=最高経営責任者)が、最終的に誰が会社を仕切っているのか分からせようとしたのではないか?

それぞれの問題が複雑に絡み合っているため、これらすべてが原因の可能性もある。爆弾発表後にFOXが出した短い声明文には、カールソン氏更迭についての説明はない。「当初はゲストコメンテーターとして、その後は司会者として、当局に尽力してくれた同氏に感謝する」とFOXニュースは声明で述べた。筆者は再三にわたって電話や携帯メッセージで情報提供を求めたが、24日時点でカールソン氏からの発言はなかった。

こうした中、世間はもやもやした状況に置かれている。決定が下されるまでのおおよその経緯は分かっている(21日夜にラクラン・マードック氏とFOXニュースCEOのスザンヌ・スコット氏がカールソン氏の番組打ち切りを決定し、24日の発表直前に本人に通知した)。だが現段階では、現代米国のメディアおよび政界でもっとも影響力のあった人物を解雇した理由を断定することはできない。

業界歴の長いTVニュース番組の幹部は、突き詰めれば今回の決定はマードック家の単純な打算、つまり「リスク対メリット」によるものだと考えている。「騒動やすったもんだも多々あるが、結局はリスク管理と見返りの対決になる」とその人物は語った。

「面白みには欠けるが、上層部がこの手の決断を下す場合によくあることだ」とその幹部は続けた。「マイナス要因――および業務上のリスク――とプラス要因やメリットを天秤(てんびん)にかけるのだ」

マードック家にとっても、カールソン氏に固執すれば見返りよりもリスクの方がはるかに大きいのは一目瞭然だ。カールソン氏はチームプレーヤーではないし、実際のところ手に負えない。同氏自身、裁判の重荷を抱えている。マードック家はマードック家で、自分たちが抱える訴訟に終止符を打とうとしている。カールソン氏はつねにネガティブな話題を振りまいて会社の評判に泥を塗っているが、FOXニュースは自分たちに向けられたネガティブな報道をなんとしても払拭(ふっしょく)したがっている。一方で大手広告主は、カールソン氏の番組と関わるのは危険極まりないとして、距離を置いて久しい。

またマードック家は、FOXニュースの影響力が一個人よりも大きいことを裏付ける証拠に事欠かない。グレン・ベック氏、ビル・オライリー氏、メーガン・ケリー氏など、同局を退社した面々を見ればいい。誰一人としてFOXニュース在籍時代のような活躍の場は与えられていない。マードック家に雇われていた時と比べると、発言の影響力も劣る。

かたや同局自体は長続きしている。右派メディアの世界では、マードック家がゴールデンタイムに据えた人物は必ず高視聴率を取ることが自然の摂理のごとく確立している。場合によっては、後釜のキャスターが前任者よりも高い数字を取ったケースもある。ベック氏の後にスタートした高視聴率番組「The Five」がその例だ。

とはいえカールソン氏は、「FOXニュースというブランドが一個人をしのぐ」という仮説に挑んでくるだろう。カールソン氏は右派メディアや政治勢力で唯一無二の影響力を持つ。忠実な視聴者を抱えていることに関しては、同氏の右に出る者はいない。同氏が他局に移籍するようなことになれば、少なからぬ数の視聴者が追従するのはほぼ間違いない――当然のごとく、マードック家の崩壊と右派メディアの混乱扇動をもくろむドナルド・トランプ前大統領も。

これらを踏まえた上で、マードック家は自分たちに分があるとの打算的賭けに出たのかもしれないが、しょせん賭けは賭け。果たして状況がどう転ぶかは、サイコロの目が出るまで分からない。

本稿はCNNのオリバー・ダーシー記者による分析記事です。

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