「汚い爆弾」とは何か、なぜロシアが言及するのか
(CNN) ロシアは、ウクライナがいわゆる「汚い爆弾」の使用を計画していると非難している。ウクライナ政府と西側諸国はこうした主張を「偽旗作戦」だとして一蹴し、これに乗じてロシア政府がウクライナでの戦争をエスカレートさせる可能性があると述べた。
汚い爆弾とは、ダイナマイトをはじめとする従来の爆薬とウランなどの放射性物質を組み合わせた武器をいう。軍事目標を排除するというよりは恐怖や混乱を広めるのが目的のため、国ではなくテロリストが使う武器として言及されることが多い。
ウクライナ政府関係者は再三にわたってロシア側の主張を否定してきた。ウクライナ外相は「隠し事がない」ことを証明するべく、査察官のウクライナ訪問を要請した。
以下、知っておくべき点を見ていこう。
ロシアの主張は
ロシア政府は証拠もなく、ウクライナの科学研究機関が汚い爆弾の製造に必要な技術を備えていると主張。ウクライナ政府が使用を検討していると非難した。
ロシア国防省は10月24日の会見で、ウクライナ政府が汚い爆弾の起爆による挑発行為を計画しているとの情報を得たと述べた。
ロシア軍の放射線・化学・生物防衛部隊のトップ、イーゴリ・キリロフ氏は「こうした挑発行為の目的は、ロシアがウクライナ戦域で大量破壊兵器を使用しているとして糾弾し、ロシア政府の信頼失墜を目的とする大規模な反ロシア運動を起こすことにある」と主張した。
23日にはロシアのセルゲイ・ショイグ国防相が、米国のロイド・オースティン国防長官との電話会談でこうした主張を展開した。会談に詳しい米情報筋が明らかにした。
ショイグ国防相はフランスと英国の国防トップにも同様の発言をした。
世界の反応は
ロシアの主張に対し、ウクライナ、米国、英国、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)は強く反発し、ロシア政府が偽旗作戦を展開しようとしているとして次々非難した。
ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は23日の夜の会見で、「誰もが十分理解している。この戦争で考えうる汚い噂(うわさ)はすべて誰から発信されているのか、みな分かっている」と語った。
米政府は24日、ウクライナで汚い爆弾が使用される可能性に備えて「可能な限り監視している」が、こうした武器がすぐに使われる予兆は見られないと述べた。
ウクライナ政府当局の要請を受けて24日には国際原子力機関(IAEA)がウクライナの2カ所の核施設に査察官を派遣。
IAEAはウェブサイトの報道声明の中で、「ウクライナの2カ所の核施設で行われているとされる動きについてロシア連邦が23日に発表した声明を認識している」と述べた。
IAEAは2カ所の施設の所在地について明らかにしなかった。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は24日のツィートでこう述べた。「ロシアとは違い、ウクライナにはこれまでずっと透明性があった。それは今も変わらない。我々に隠し事は何もない」
汚い爆弾は核兵器なのか
答えは「いいえ」だ。
汚い爆弾の爆発は従来の爆薬によるものだ。核兵器の場合、第2次世界大戦で米国が日本に落とした原爆のように、核反応によって爆発する。
米国土安全保障省(DHS)のファクトシートによると、「核兵器が引き起こす爆発の威力は、汚い爆弾で使われるような従来の爆薬と比べると数千倍から数百万倍にもおよぶ」。
核兵器の爆発は複数の街全体を壊滅させうる。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)によれば、1945年に長崎市に原爆が落とされたときは市の2.6平方マイル(6.2平方キロメートル)が完全に破壊された。汚い爆弾で使われる従来の爆薬は、いくつかの建物を倒壊あるいは破壊する程度に過ぎないという。
一方で、核兵器によって引き起こされるきのこ雲は数十~数百平方キロメートルにまで広がり、核物質の微粒子、いわゆる死の灰が拡散しかねないとDHSは言う。
DHSによれば、汚い爆弾が放出する放射能物質の大半は、拡散してもせいぜい数区画か数平方キロメートルだという。
これまで汚い爆弾が使用されたことはあるか
使用されたことはない。
米シンクタンクの外交問題評議会によると、95年にチェチェンの武装勢力がモスクワの公園に汚い爆弾を仕掛けたが、爆発することはなかった。
国際テロ組織アルカイダや過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」をはじめとするテロリスト集団が汚い爆弾を製造した、あるいは製造を試みたという報告もあるが、いずれも起爆には至っていない。
汚い爆弾に使用される核物質は死をもたらすか
DHSによれば、「大勢の人々に直接的な健康被害や死をもたらす」ほど高い放射線量を放出する汚い爆弾が出てくることはまずないという。
テキサス州保健局がその理由を説明している。
死に至らしめる放射線量を放出するような汚い爆弾を製造する場合、製造中に作業員が放射能物質で死なないよう、鉛や鉄を使った遮蔽(しゃへい)物が大量に必要になるという。
だがこうした遮蔽物を使えば爆弾のかさも増え、移動や配置が困難になり、重機や遠隔操作装置が必要になってくるだろう。また同局によれば、放射線の拡散範囲も限定されるとみられる。
被曝したらどうなるか
テキサス州保健局によれば、汚い爆弾が放出する放射線レベルは歯科医でレントゲンを撮るときに浴びる程度だという。
「石を細かく砕いたのと同じだ。大きな石を投げられれば、おそらく痛い思いをして、身体にけがを負うこともあるだろう。同じ石を粉々に砕いて、砂状になったものを投げられたら、深刻なけがを負う可能性はずっと少なくなる」と同局は説明する。
DHSによれば、放射線障害の度合いはどのぐらいの時間被曝(ひばく)したかによって変わる。簡単な予防措置は、その場から立ち去ることだ。
「放射線量は発生源からの距離に応じて急激に減少するので、(爆発の)現場からほんの少し離れるだけでもかなり身を守ることができる」(DHS)
鼻や口を覆って放射物を吸い込まないようにすること、砂ぼこりを避けて屋内に退避すること、着用していた服はビニールの袋に入れて廃棄し、水で体を優しく洗って汚染物質を取り除くことなどの措置をDHSは挙げている。