ANALYSIS

上海で募る飢えと怒り、終わり見えぬロックダウンの悪夢

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防護服を着て上海の街路を見張る作業員たち/ALY SONG/REUTERS

防護服を着て上海の街路を見張る作業員たち/ALY SONG/REUTERS

傷に塩を塗るプロパガンダ

もうひとつ市民が目にしているのが、中国のプロパガンダだ。プロパガンダの担当者はオミクロン株を命に関わる脅威として描く一方、西側のウイルスが引き起こした死や混乱から中国を救うのはゼロコロナ政策だけだと強調している。

当局の発表によれば、ゼロコロナ政策は国家の偉大な指導者、習近平(シーチンピン)国家主席から個人的にお墨付きをもらっているという。だが危機が深刻化する中、かつて上海市党委員会書記も務めた習氏が同市を訪問するには至っていない。習氏は今年前人未踏の3期目を継続するとみられており、終身統治への足固めを進めている。

そうしたメッセージは上海市の外ではいまも多くの人々の共感を呼んでいるようだ。とはいえすでに論争が起き、激化している。不気味なほど静まり返った都市部では、ロックダウンとそれに伴う惨状で、地元市民や外国人居住者は我慢の限界を迎えている。

国営メディアは「これはインフルエンザではない!」と声高に叫んでいるが、政府の統計によれば、上海市内の感染者のうち重症化したケースはこれまでわずか20件前後。「問題よりも解決策の方が最悪」という明らかに不条理な状態であることに、異を唱える者はいないようだ――しかもソーシャルメディアでは、ロックダウンのせいでコロナ以外の病気は治療を受けられず、死亡したという話も浮上している。

市民の中には、なぜ当局はゼロコロナ政策批判の取り締まりにばかり熱心なのか、高齢化が進む市の60歳以上の人々――もっとも弱い立場ながら、ワクチン接種率は62%といまひとつ――にワクチン接種を呼びかけないのか、とネットでいぶかしむ者もいる。

目下の惨劇をふまえ、今後の対応に思いをはせる者もいる。

「なぜ上海はこんな風になってしまったのか?」という言葉は、筆者も最近よく耳にする。えてしてこれは言葉のあやで――実際は「とどまるべきか、それとも立ち去るべきか?」と問いかけているように思われる。

外国人居住者の多くはこれまで行動で意思を表明してきた――彼らは官僚と物流の足かせにひるむことなく、意を決して居住地を出るしかない。

地元市民の場合、自分の胸に問いかける作業が必要になる。だがネット上の感情に同調して、次第に多くの上海人が――上海生まれも後から住み着いた人も――街を出るつもりだと語っている。

遠く離れた場所で無責任な指導者が始めた計画により、誰もがたちまち二次的被害に遭うような世界では金は意味をなさない。悲惨なロックダウンでこれがはっきり示されたと、企業家や銀行家も言っている。

上海市民の大半の人々、とりわけ筆者の父のような古い世代はこの先も上海を故郷と呼ぶだろう。彼らは現在進行中の悪夢を生き延びることに注力し、運を天に任せてインターネットで買いだめを続けている。

父の近所には、最近コーヒーの共同購買を始めようとしたが、興味が失せて止めた人がいる。

「今は誰もコーヒーを飲む気分じゃなさそうだ」。父はぽつりとそう言った。

本稿はCNNのスティーブン・ジャン記者の分析記事です。

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