「2発の銃弾で十分だ」 ティグレ人虐殺動画を分析、エチオピア軍関与の疑い

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CNNが入手した映像には、兵士が若者数十人を崖の上に集め、武器をもっていないか確認する様子が写っている/Tigrai Media House

CNNが入手した映像には、兵士が若者数十人を崖の上に集め、武器をもっていないか確認する様子が写っている/Tigrai Media House

(CNN) ダウィットさんは戦争で荒廃したエチオピア北部ティグレ州の古都アクスムにある親戚のワンルームの部屋でテレビを見ていた。3月初旬のことで、画面に臨時ニュースが流れた。

それはダウィットさんの故郷、ティグレ州中部の山岳地帯、マヒベレ・デゴ付近で行われた大量殺人の生々しい、未検証の映像だった。ブレのある映像の中で、エチオピア人の兵士が丸腰の若い男性のグループを吹きさらしの岩棚に集め、至近距離から彼らを銃で撃った。そして、腕や脚をつかんで、まるでぬいぐるみの人形のように岩の斜面に投げ込み、また蹴り落した。

兵士が互いに、弾を無駄にするな、殺すのに最小限の量を使え、誰一人生かしておくなと声を掛け合う様子も映像から聞こえる。そして殺した行為を勇ましいとほめ、拘束された男性たちに侮辱する言葉を投げつけるような様子も見られた。

ダウィットさんは、海外にあるテレビ局「ティグレ・メディア・ハウス(TMH)」のこの映像を見て、写っている男性の一人は自分の弟アルラだと思うと語った。CNNはダウィットさんの安全のため、ダウィットさんと弟の名前を変えて伝えている。

マヒベレ・デゴ付近での大量殺害は、エチオピアで5カ月続く紛争で伝えられている複数の事例の一つだ。この紛争では数千人の市民が殺され、レイプされ、虐待を受けたとみられている。最近までジャーナリストへの独立したアクセスが厳しく制限され、電話やインターネットもたびたび遮断されていたことから、ティグレ州で起きている残虐行為の検証は困難だった。実効的な通信手段がない中、戦闘現場からの映像が出てくることはほとんどなく、出てきた場合でも信ぴょう性の確認が難しい。

だが、CNNは今回の映像を科学捜査的にフレーム単位で調べ、また家族や地元住民10人とのインタビューを行った。その結果、エチオピア陸軍の制服を着た男らがマヒベレ・デゴの近くで、少なくとも11人の丸腰の男性の集団を処刑し、その遺体を捨てたことを立証した。この調査は国際人権団体アムネスティ・インターナショナルのデジタル検証およびモデリング専門家の分析で裏付けを得ている。

ダウィットさんは23歳の弟を1月15日にマヒベレ・デゴの母親の家で最後に見た。そのとき動画に写っているのと同じ服装をしていたという。動画に日付の記録はなく、CNNはオリジナルの、未加工の映像を持っていないため、そのメタデータを調査できていない。だが動画はその日に撮影された可能性が高い。

ダウィットさんによると、自分が牛の世話で畑に出ていたときに、エチオピア人の兵士が町にやってきて家を一軒一軒回り、自分の弟を含め若い男性を家から引きずり出した。

軍はダウィットさんにも発砲。ダウィットさんはやぶに飛び込んで逃げ出したが、岩の道をはい降りる際に脚を折ったという。その後遠くの方で銃声が聞こえ、その後静かになったとダウィットさんは語る。

映像を見るまでダウィットさんは、弟に何が起きたのか何も知らなかった。何度も映像を見た後でも、アルラは生きているとの望みを捨てないと語る。

CNNはこの映像に写っているのがアルラさんか独自に確認できていない。またダウィットさんが弟だとする映像中の男性が、死亡した人々の中にいると特定できたわけでもない。

「この目で遺体を見て、我々の手で埋葬するまで、弟が死んだと信じるのは難しい。まだ生きているような気がする。死は受け入れられない」「いつでも弟のことを思っている」(ダウィットさん)

上の画像:動画はティグレ州中部の山岳地帯の町マヒベレ・デゴから近い崖の上で撮影された。下の地図:エチオピア連邦政府とティグレ州の支配勢力の戦いは昨年11月から続いている/Source:Tigrai Media House, Amnesty International, Mapcreator.io/HERE Graphic: Natalie Croker, CNN
上の画像:動画はティグレ州中部の山岳地帯の町マヒベレ・デゴから近い崖の上で撮影された。下の地図:エチオピア連邦政府とティグレ州の支配勢力の戦いは昨年11月から続いている/Source:Tigrai Media House, Amnesty International, Mapcreator.io/HERE Graphic: Natalie Croker, CNN

攻撃の後、ダウィットさんは10代のきょうだい2人とともにマヒベレ・デゴを後にし、足を引きずりながら約19キロ離れた長男が住むアクスムの家まで行った。町やその周辺地域を追われた数百人の住民は、アクスムの道路で野宿をしている。

ダウィットさんは、町に残ったのは母親を含め旅をするには高齢な人々だけだと語る。母はインターネットも衛星テレビも利用できないため、この恐ろしい映像を見ていないという。町の電話は断続的につながることから母親と電話で話はしているが、映像のことは触れていない。今はその方が無難だという。

エチオピアはティグレ州での戦争犯罪に当たる可能性のある人権侵害に対し、厳しい目を向けられている。昨年11月、アビー首相は同州を支配する少数民族勢力、ティグレ人民解放戦線(TPLF)に対する大規模な軍事作戦を始め、国軍や隣接するアムハラ州の民兵を送り込んだ。それ以降数千人の市民が殺害されたと考えられている。

CNNは先ごろ、ティグレ州北部で国境を接する隣国エリトリアから兵士が国境を越えて侵入し、虐殺や超法規的殺人、性暴力などの虐待行為を行っているという広範な目撃証言をまとめた。

国が指名した「エチオピア人権委員会」は先週、調査の結果、アクスムで100人以上が11月にエリトリアの兵士によって殺された初期段階の証拠が見つかったと発表した。これはアムネスティや国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが先に報告していた内容を確認するものとなった。

3月下旬には国際医療支援団体の国境なき医師団が、エチオピアの兵士が数人の男性を公共バスから引きずり出し、州都メケレの近くで処刑したのをスタッフが目撃したと発表した。

アビー首相は先週、政府はティグレ州で残虐行為にかかわったと判明したすべての兵士に責任をとらせると表明。この際、エリトリア軍がエチオピア軍とともに戦ったと初めて認め、エリトリア軍は国境地域から撤退すると述べた。エリトリア軍がすでにティグレ州から引いたのかは不明。

在英および在アイルランドのエリトリア大使館に対しCNNが3月22日、繰り返しコメントを求めたところ、エリトリアの兵士による不法行為の主張について否定し、エリトリア軍がエチオピアにいるという点も否定した。

エチオピア、エリトリア両国は、何カ月にもわたり、エリトリア軍がこの戦争で荒廃した州には存在せず、紛争で殺された市民はいないと主張してきた。これらは住民や避難民、支援団体、外交官、そしてエチオピアの文民当局者からの説明と食い違うものだった。

もし今回のマヒベレ・デゴの映像に写る兵士が本当にエチオピア国防軍ならば、エチオピアが戦争犯罪に関与していたことを示す初の映像証拠となる可能性がある。

CNNはエチオピア政府とティグレ州の暫定政権に対し、この映像と、軍隊がマヒベレ・デゴから数十人の男性を拉致したという訴えについてコメントを求めたがすぐには返事がない。

CNNが調査結果を公表した後、アビー首相のオフィスは「ソーシャルメディアの投稿と主張は証拠として扱うことはできない。西側メディアがそれを報じているか否かにかかわらずだ」との声明を発表。さらに、政府は「独立した調査がティグレ州で実施されることに前向きな考えを示している」とも述べた。

今回の映像は最初、米国に拠点を置く衛星テレビ局で動画投稿サイト「ユーチューブ」のチャンネルを持つTMHが3月初旬に放映した。ティグレ人支持の同局が流した映像は、その後数週間、ソーシャルメディアで拡散した。

米ワシントンを拠点とするTMHのジャーナリストでプレゼンターでもあるスターリン・ガブレセラッシー氏は、この恐ろしい映像がティグレの情報筋を経由して自分に送られてきたと語る。その情報筋は、動画はこの虐殺にかかわったエチオピア軍兵士で内部告発者となった人物が携帯電話で撮影したものだとガブレセラッシー氏に伝えた。

同氏によると、TMHは映像の対価を告発者に直接支払った。告発者の男性がエチオピアを出国し身を隠せるようにするためだったという。合意の一環として、TMHは告発者が安全に出国したとの連絡を受けてからこの動画を放映した。

ガブレセラッシー氏は告発者との電話について「彼と3分間だけ何とか話すことができた。彼が私に語った言葉は『兄弟、私が悪かった。ティグレで私がしたことについて本当に悪かった。ティグレ人はこんな扱いを受けるべきでない』というものだった」と語った。同氏は告発者が殺人に関与したことを後悔している様子で、エチオピア政府が自国民にしたことへの癒やしと暴露のためにTMHに動画を共有すると語ったと述べた。

CNNはこの兵士に直接連絡をとろうとしたができなかった。また兵士の残虐行為への関与の程度もわからない。

ガブレセラッシー氏は、動画はメッセージアプリ「ワッツアップ」で5つの圧縮動画クリップで送られてきたが、それはティグレで続くインターネット帯域幅の問題が原因だと説明。すべてその兵士によって1つの端末で撮影されたものだと語った。

未加工の動画と関連するメタデータがないため、CNNは5つの動画が撮影された元のデバイス、撮影者、撮影日、選択的な編集の実施の有無について確認できていない。

それでも、CNNは地形、森林限界、植生、山の地形をデジタル地球儀「グーグルアース」で特定し、動画の場所がマヒベレ・デゴの南3マイル(約4.8キロ)にある起伏のある崖の上だと突き止めることができた。

これとは別に、アムネスティも3Dモデリングソフトウェアを使って映像をその場所の衛星画像の上に重ね合わせると、5つの動画クリップすべてがその場所だと確認できたと発表している。

「初期段階の現場の位置の特定では、追加の空間検証を必要とした。集められた映像と場所のつながりは、空間分析と再構築を経て証明された」と、アムネスティの3Dモデルを作り上げた画像調査担当のマルティナ・マルシニアク氏は語る。

1日のどの時間に動画が撮影されたのかを裏付けるため、CNNは影の分析を「サンカルク」というツールを使って実施。長い影が見えることから、午後遅い時間に虐殺が行われたと示唆される。

動画を一時停止したフレームに写る兵士は、肩の部分にエチオピア国旗が、下襟の部分に黒い糸で「ETHIOPIAN ARMY」(エチオピア軍)の文字がそれぞれ刺しゅうされた制服を着ている。この制服はAFP通信がティグレで撮影した写真や動画に登場するエチオピア国防軍の制服と一致しているように見える。

また兵士が若者に前に出てくるように呼び出し、武器をもっていないか確認する際、アムハラ語を話している様子が聞こえる。これはエチオピア連邦軍で主要な公用語となっている。

「この犯罪は言語道断で、内容を適切に調査するに値する。これがどこで起き、そして実際に起きたことを知っていると言える100%の証明ができるようにするためだ。そのために大変な努力をした」。アムネスティの危機証拠研究所の幹部、サム・ダバリー氏はそう語る。

「この映像を撮影したのが加害者の一人だという事実は、彼らが罰せられることはない、許されると考えていたことを示している。こうした犯罪の加害者に対しては、エチオピア政府が、超法規的殺人とみられる行為に関する責任を取らせることが非常に重要だと考える」(ダバリー氏)

虐殺動画の兵士は、肩の部分にエチオピア国旗が、下襟の部分に黒い糸で「ETHIOPIAN ARMY」(エチオピア軍)の文字が刺しゅうされている制服を着ている。通信社がティグレ州で撮影したエチオピア軍の制服と一致しているように見える/Photos:Eduardo Soteras/Getty Images (Nov.2020), Minasse Wondimu Hailu/Anadolu Agency/Getty Images (March 2021)  Graphic: Natalie Croker, CNN
虐殺動画の兵士は、肩の部分にエチオピア国旗が、下襟の部分に黒い糸で「ETHIOPIAN ARMY」(エチオピア軍)の文字が刺しゅうされている制服を着ている。通信社がティグレ州で撮影したエチオピア軍の制服と一致しているように見える/Photos:Eduardo Soteras/Getty Images (Nov.2020), Minasse Wondimu Hailu/Anadolu Agency/Getty Images (March 2021) Graphic: Natalie Croker, CNN

CNNはマヒベレ・デゴで愛する人を失ったと話す人、また兵士に連れ去られ町の近郊で殺害されたと考えられる若者たちの一部を知っている人10人をインタビューした。住民の何人かは、何が起きたのかを説明しようと、行方不明となっている人のリストを作成した。その数は39人に上り、全員男性だった。その名前のリストは、そのうち18人の写真とともにCNNに直接共有された。CNNは18人の何人かの身元を確認できたが、それが崖で撮影された動画の中にいる人物と同じかどうかは立証できなかった。

3つの異なる情報筋はCNNに対し、39人の男性はまだマヒベレ・デゴから行方不明のままだと語った。動画の1つでは、兵士らは男性数十人を集め、もう一つの動画では少なくとも11人の男性の遺体が崖の斜面に折り重なっている様子が写っている。CNNは行方不明者とこれらの人々が同一人物なのか確認できていない。

ダウィットさんや他の住民は、エチオピア軍はマヒベレ・デゴに来る前、別の町で戦ってきたと語る。住民の何人かは、兵士は若者がTPLFの部隊や連携する地元民兵のメンバーだと思い、復讐をしようと若者をターゲットにしたのではないかと推測する。

だが、家族や住民はこの町には最近も、過去も民兵はいないと主張する。ダウィットさんはアルラさんも近所の人も戦闘員ではないと語る。近所からは8人が自宅から連れていかれ、殺されたと考えられている。

ダウィットさんも他の住民も、動画に写る地形や植生から、その場所がわかると語る。「何度もその動画を見て、ここは知っている場所で、我々の小さな町や村から遠くないところだとわかった。ここは『エラ』と呼ばれる場所だ」とダウィットさんは話す。

マヒベレ・デゴはまだエチオピア軍が厳重に警備している。ダウィットさんや他の住民によると、軍は地元の高校に仮設の軍基地を設置している。地域が封鎖されているため、親戚や住民は現地を訪れて集団墓地を確認することができない。

3カ月近くたつが、ダウィットさんきょうだいはまだマヒベレ・デゴに帰れない。ダウィットさんは母にアルラさんに何があったのかを直接伝えて弔いをしたいが、町に兵士がいる限り危険が大きすぎると語る。

「この悲痛な気持ちを言葉に表すのはとても難しい」。ダウィットさんは弟がとても愛されていたとも語った。

「こういう形で弟を失い、気持ちをうまく表現できない」

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