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体操選手を守れなかった米FBI、それが示唆するものは

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上院公聴会に出席した(左から)シモーン・バイルスさん、マッケイラ・マロニーさん、アリー・レイズマンさん、マギー・ニコルズさん/Saul Loeb/Pool/Getty Images

上院公聴会に出席した(左から)シモーン・バイルスさん、マッケイラ・マロニーさん、アリー・レイズマンさん、マギー・ニコルズさん/Saul Loeb/Pool/Getty Images

(CNN) シモーン・バイルスさん、アリー・レイズマンさん、マッケイラ・マロニーさんは女子体操で米国に金メダルをもたらしたが、その司法制度からはあまりに長い間無視され、見捨てられてきた。米体操連盟(USAG)の医師を務め、ミシガン州立大学で働いてきたラリー・ナサール受刑者が逮捕されるまでの間だ。

世界選手権の優勝メンバーだったマギー・ニコルズさんも含めた4人が15日の上院公聴会で、ナサール受刑者から受けた虐待や、連邦捜査局(FBI)が2015年のマロニーさんによる最初の訴えに対応を誤った後も続いた虐待について詳しく語った。

FBIが事件を追及しなかったため、ナサール受刑者による体操選手への性的虐待はさらに多くの訴えが届いてからも続いた。マロニーさんは当時既に金メダリストだった。彼女からの訴えがあったのに、どうしてFBIの中でもっと警鐘が鳴らされなかったのか。

そして、五輪メダリストではない犠牲者にとってそれが意味することは何だろうか。

インディアナ州インディアナポリスのFBI捜査官が最終的にマロニーさんの訴えに関する報告書を提出したとき、彼らは再び対応を誤った。報告書は自分たちのメモや記憶に頼ったものだったが、マロニーさんは捜査官が「私の言ったことについて完全に誤った主張をした」と指摘した。

今年出た監察官による報告書は、インディアナポリスの捜査官が適切に訴えを捜査せず、マロニーさんが詳述した虐待の事情聴取の報告書を1年以上も書かず、そうした失敗を隠すためにうそをついていたことを認め、批判した。

マロニーさんは「15年夏にFBIに虐待の全ての話をした後、FBIは私の虐待について報告しなかっただけではない。17カ月後にようやく報告書が書かれた際、私の言ったことについて、彼らは完全に誤った主張をした」と語った。

当時インディアナポリス事務所の責任者だったジェイ・アボット氏はその後退職している。同氏はナサール受刑者のスキャンダル発覚後にUSAGでの就職を希望していた。マロニーさんの訴えを受けて事件を追及しなかったマイケル・ラングマン氏は議会公聴会の前週に解雇された。ラングマン氏は14日時点で米紙ワシントン・ポストへのコメントを控えている。

だが、議会も体操選手も望んでいるのは刑事訴追だ。司法省はバイデン政権下、トランプ政権下とも、この刑事訴追を進める姿勢を示していない。

FBIのレイ長官は15日、同局の対応の失敗を深く謝罪した。

レイ氏は「15年にこの残忍な人物を元の場所に返さない機会があったものの、それに失敗したFBI職員がいたことをきわめて申し訳なく思う。弁解の余地はない。絶対に起きるべきではなかったし、我々は全力で再発防止に取り組む」と述べた。

4人全員が自分自身または知人が、FBIが動かなかった17カ月の間に性的虐待を受けたと証言した。

FBI監察官室の報告書には対応の失敗の詳細が時系列で記されていて、方針の変更があったことも示唆されている。

バイルスさんは「我々は見捨てられてきた。我々は答えを得る権利がある」と語った。

レイズマンさんは機能不全の制度を巡って自身の感じた罪悪感を語った。

レイズマンさんは自分にあこがれ、自分たちと同じようにナサール受刑者に見てもらったと語る少女たちに会うのが恐ろしかったと発言。ナサール受刑者が事務所できっと自分たちの写真を持っていたのだろうと推測した上で次のように述べた。

「多くの虐待の経験者が罪悪感と恥にさいなまれている。私はその責めを負わないようにするので精一杯だった。100人以上の経験者がその虐待を逃れられたはずと知るのが怖かったからだ。我々が必要としていたのは正しいことをする1人の大人だった」(レイズマンさん)

ナサール受刑者を最初に告発した虐待の経験者で、現在は弁護士の仕事に就くレイチェル・デンホランダーさんは17日にCNNに対し、FBIの説明責任が果たされる必要があると語った。

デンホランダーさんは「もし市民がFBI捜査官が行ったのと同じように、司法省や捜査官にうそをつく振る舞いをしたら、間違いなく刑事訴追の根拠になるだろう」と語る。

だが、ここでの大きな問題はFBIやUSAG、ミシガン州といった組織を守るように作られている制度だ。

「我々全員にとって声を上げ続け、虐待者だけでなく、その人物を守る制度とも闘い続けることには大きな疲労感を覚え、また再びトラウマを呼び起こすものとなる。これは信頼の置けない虐待者だけでなく、あなたの周囲全員が相手なのだということを思い起こさせるものだ」(デンホランダーさん)

デラホランダーさんの発言を支える証拠はたくさんある。医師の故リチャード・ストラウス氏が関与したオハイオ州立大学での虐待スキャンダルでは、被害者は体操選手ではなくレスリング選手だった。

ペンシルベニア州立大学ではアメリカンフットボールの副コーチだったジェリー・サンダスキー受刑者が少なくとも15年間少年たちを虐待してきた。

ミシガン州ではアメリカンフットボールのコーチの息子、マット・シェンベヒラー氏が1969年にチームの医師から被害に遭っていたことを今夏に打ち明けた。医師の故ロバート・アンダーソン氏の被害者は数百人に上る可能性がある。

より規模の小さい話も多数ある。

米連邦議会のハスタート元下院議長を覚えているだろか。2015年の申し立てによれば、ハスタート氏はイリノイ州で高校教師やコーチをしていたころに少なくとも4人の少年に性的ないたずらをした。

告発者の1人はハスタート氏に口止め料を要求し、多額の現金を引き出そうとしたことでFBIの注意を引いた。

ハスタート氏は連邦捜査官に協力し、この人物をわなにはめようとした。恐喝をされたと非難し、電話の会話内容の録音までした。だがそれも、その人物がハスタート氏の虐待の過去について捜査官に話すまでのことだった。

ハスタート氏は最終的に13カ月間刑務所で服役した。ただ、性的虐待での訴追は時効によって免れ、金銭の支払い先の報告が必要な際にそれを怠った銀行取引を仕組んだ件で有罪答弁をした。

だが、この件もバイルスさんらが議会証言を行った16日に終えんを迎えた。同日、ハスタート氏と虐待を告発した人物との間では暫定的な裁判外の和解が成立した。

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