OPINION

ドナルド・トランプ大統領は敗者として去る

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トランプ米大統領の生き方は、父親から受け継いだ信念を基礎としているように思われる/BRENDAN SMIALOWSKI/AFP/AFP via Getty Images

トランプ米大統領の生き方は、父親から受け継いだ信念を基礎としているように思われる/BRENDAN SMIALOWSKI/AFP/AFP via Getty Images

(CNN) 伝記作家はこう述べている。かつて、ある冷酷非情なニューヨークの不動産開発業者が悪意のこもった教訓を息子に授けた。やがて米国の大統領となる息子に。

この世には2種類の人間がいる。フレッド・トランプは事業家見習いの我が子にそう説いた。それは相手の息の根を止める者と、敗れ去る者だ。

伝えたいことは明白だった。戦いには必ず勝て。どんな手段を使ってでも。ルール? 基準? それは敗者のためのものだ。フレッド・トランプは敗者など眼中にない。

この教訓を、ドナルド・トランプは嫌というほど叩き込まれた。

生涯を通じて、トランプ大統領はそうした信念に基づき行動してきたように思える。世界は弱肉強食のジャングルで、強い者が勝者となり、望むものを手に入れる。どんなことをしてでも必ず手に入れる。弱い者だけがルールに従って戦い、敗者となる。

トランプ氏の世界では、うそをついて相手の優位に立つ行為はほとんど問題にならず、むしろそうしないことが問題とみなされてしまうらしい。他の連中を出し抜かなくては、間違いなく自分が出し抜かれてしまうからだ。

それこそがトランプ氏の事業経営の考え方だったように思える。行く先々で後に引けない状況を作り出し、仲たがいしたビジネスパートナーからの訴訟沙汰は数知れず。債権者や規制当局、納税の義務を巧妙に逃れているとの疑いをかけられ、業者への未払いや顧客を欺いたといった非難にもさらされている(本人は商取引であれ納税申告であれ不正は一切行っていないと主張する)。

そうした哲学を、同氏は大統領の職務にも持ち込んだ。ルールや基準に著しく違反し、民主主義の機能を守る制度を弱体化させているのだ。

さかのぼればあの時、2015年6月にトランプ・タワーのエスカレーターを下り、扇情的で人種差別的なたわごとを浴びせかけながら政治の世界に足を踏み入れたあの瞬間から、トランプ氏はことあるごとに品位を欠いたうそをつき、利己的な物の見方と陰謀論とを振りまいてきた。同氏は故意に、皮肉をこめて国を分断した。自分を大統領に選んだまさにその国を炎上させることで、自身の目的を果たしたのだ。

権力の座に就いたトランプ氏のサクセスストーリーは、誇張されたリアリティー番組でのイメージの上に築かれたものだ(番組内で同氏はビジネスの巨人として出演していた)。つまり、自分の功績を大きく見せる習慣がすでに身についていたのである。史上最大! 史上最高! これまで誰も目にしたことのないものを見せる! 彼は我々にそう約束した。

なるほど。今回ばかりはトランプ氏の言うとおりだ。

我が共和国の長い歴史の中で、2度にわたって弾劾(だんがい)訴追を受けた大統領は1人もいない。これは記録に残る屈辱であり、今後もその衝撃が色あせることはないだろう。そしてそれが象徴するのは、歴代で最も腐敗し、混乱し、破壊的だったこの大統領の任期そのものにほかならない。

おそらく、何が何でも父親から与えられた命令を遂行しなくてはならないとの思いに駆られてのことだろう。フレッド・トランプの息子は我が国の民主主義に対する大変な罪を犯し、権力の座を保持しようとした。

2度にわたり、同氏は2020年大統領選への介入を試みたといわれる。1度目は19年、外国の指導者(ウクライナの大統領)に汚職の捜査を不当に開始、公表するように圧力をかけるという考えられない行動に出た。捜査の対象は対立候補と目される人物の中でトランプ氏が最も恐れた相手、ジョー・バイデン氏その人だ。

トランプ氏は皮肉をこめつつも効果的に、この最初の弾劾を党派対立によるものとして描き出し、大統領職にとどまった。当時共和党でトランプ氏への有罪票を投じたのは、ミット・ロムニー上院議員ただ1人だった。

これに懲りるなどということは全くなく、トランプ氏はさらに勢いづき、立法と司法の決定によって20年の大統領選の結果を覆せると信じ込んだ。自由かつ公正な投票で自身が完全敗北したにもかかわらずだ。

かくして、米国大統領がたきつけたクーデターの試みにより5人が死亡し、我々の民主主義が傷つく事態となった。大統領は最後の、なりふり構わぬ行動として連邦議会を止めにかかった。議会は憲法上の義務を遂行し、バイデン氏の選挙人投票に基づく勝利を承認しようとしていた。

議事堂が包囲される様子を目の当たりにし、トランプ氏の一派の中にさえ、もうたくさんだと考える人々が現れた。下院で行われた大統領の弾劾訴追決議案の採決では、共和党の議員10人が賛成票を投じ、トランプ氏が今後連邦政府の役職に就くことができなくなる状況に一歩近づいた。

もっと多くの共和党議員が政党の垣根を越えて行動するべきだったが、トランプ氏は依然として根強い信奉者の集団を支持基盤に抱え、彼らからの忠誠を確保している。そのため、あまりにも多数の共和党議員が将来の予備選でのトランプ氏と忠実な支持者の存在を恐れて屈服してしまった。そうしなかった議員らは称賛に値する。

今回のようなクーデターの試みが起こるに至った経緯については、さらにたくさんのことを学ばなくてはならない。なぜこれほど多くの米国民がトランプ氏の敗北は明白なのに詐欺的な言説を受け入れてしまったのかという問題についても同様だ。

ただ、上院がトランプ氏の歴史的な2度目の弾劾に対していつ、どのように行動しようとも、これだけは分かる。同氏はあと1週間で大統領職を退く。誇りある前大統領としてではない。扇動的な反乱を仕組んだ不名誉で利己的な人物として退くのだ。連邦議会議事堂と我々の民主主義に対する暴力的な反乱。それが彼の墓碑銘になるだろう。

訴訟と公職の資格剥奪(はくだつ)の脅威が目前に迫っている。しかし大統領はすでに、あらゆるものの中で最も手痛い罰を受けている。フレッド・トランプの息子でありながら、敗者として去るのだから。

デービッド・アクセルロッド氏はCNNの政治担当シニアコメンテーターで、「The Axe Files」の番組司会者。オバマ政権時代の大統領顧問であり、2008年と12年の大統領選ではチーフストラテジストを務めた。記事の内容は同氏個人の見解です。

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