制裁下でも欧州を旅行し続けるロシア人、ビザ発給禁止に賛否の声

高まるフラストレーション

ハンガリーは昨年、ロシア人とベラルーシ人に対するビザ免除措置を拡大した。その結果、欧州旅行委員会（ＥＴＣ）の統計によると、ハンガリーを訪れるロシア人の数は３分の１増加した。

またＥＴＣの別の報告書によると、ルーマニアは観光収入の減少を受け、２４年４月に自国の裁量でロシア人旅行者への短期滞在ビザの発給を再開したという。さらに１２月初旬には、モスクワのイタリアビザセンターがビザ発給の処理時間を短縮した。

しかし、ウクライナ戦争が４年目に突入し、フラストレーションが高まっている。ラトビアのコズロフスキス内相は、ＥＵ各国に対し、ロシア国民へのシェンゲンビザの発給を禁止するよう求めている。同内相は、ベルギー首都ブリュッセルで開催されたＥＵ司法・内務理事会の会合で、（ロシア国民に対するビザ発給の停止は）ＥＵ加盟国の道義的義務だと述べた。

コズロフスキス氏は「我々は不法越境に加え、ラトビア占領博物館の放火、ドローン（無人機）の越境、世論に影響を与えようとするプロパガンダ活動といった破壊行為にも直面している」とし、「よって、すべてのＥＵ加盟国に対し、この脅威を真剣に受け止めるよう強く求める」と付け加えた。

一方、ロシアの旅行ブロガーは、そのような制裁が導入されたら「失望する」と述べた。

同ブロガーは「ロシアにはいわゆる非友好国への渡航に対する独自の制限がある。警察官、裁判官、政府職員はすでに渡航禁止となっており、国家に関係する者はどこにも行けない状況だ」とした上で、「一般のロシア人旅行者がラトビアの内相にとって何らかの脅威になるとは思わない」と付け加えた。

ビザ禁止措置は「違法」

欧州委員会（ＥＣ）の報道官は、「ＥＣは、加盟国がロシア人向けのビザの優先度を下げ、安全保障と国境管理に重点を置くよう支援するための明確な指針を採用している。ただし監視の強化は、亡命申請の権利を保護し、強制送還のリスクを防ぐ形で行われるべきだ」と述べた。

ロシア人に対するビザ禁止措置に反対する法学者のサラ・ガンティ氏は、（ロシア人に対する）このようなビザ禁止措置は決して合法的ではないとし、ポーランド、フィンランド、バルト三国が導入している事実上の国レベルの禁止措置はＥＵ法違反だと指摘した。

ガンティ氏は、シェンゲンビザを申請しているロシア人は、旅行者だけでなく、国境の外に家族がいる人や、政府に反対する人々、健康上の理由で短期滞在ビザが必要な人もいるとし、特に体制から逃れようとしている人や体制に反対する人々との対話を継続し、歓迎することが重要だと主張する。

一方で、米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのユーラシア・センターのフェローであるウクライナ系米国人マーク・テムニツキー氏は、２３年にモンテネグロを訪れた際、現地にいたロシア人の多さに驚いたという。

「２３年８月に訪れたギリシャやキプロスでも、休暇を過ごす多くのロシア人やロシア語を話す人々で非常ににぎわっていた。私は道義的観点から、これらの人々が自国の戦争を支持しながら、休暇を楽しんでいることに納得がいかなかった」とテムニツキー氏は言う。

「ウクライナに多くの家族や友人がいるが、彼らは何年も休暇を取っていない。彼らはどこに行けばいいのか分からない。多くは国外に出ることが許されておらず、身の安全を案じている。非常に奇妙な状況だ」（テムニツキー氏）

テムニツキー氏は、ＥＵが観光ビザ禁止措置をさらに強化することを望んでいる。