OPINION

世界は心の準備を、2024年が衝撃の選挙イヤーになる可能性

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2024年は世界の趨勢を左右しかねない重要な選挙が多くの国々で実施される/Illustration by Leah Abucayan/CNN/Getty

2024年は世界の趨勢を左右しかねない重要な選挙が多くの国々で実施される/Illustration by Leah Abucayan/CNN/Getty

(CNN) 有権者たちは過去1年の間、いくつかの重大な衝撃を世界の安定に対してもたらしてきた。しかし、2024年はこんなものでは済まない事態が想定される。

デービッド・アンデルマン氏/CNN
デービッド・アンデルマン氏/CNN

英誌エコノミストによると来年、世界の半分以上の人口を抱える国々が選挙を実施する。そこに暮らす40億人超が票を投じる計算になる。

過去2年の間に世界で行われた選挙を挙げてみたところ、時に身の毛のよだつ複数のパターンが浮かび上がった。あらゆる大陸を通じ、有権者たちは長きにわたり存在するリベラルな哲学をいともたやすく拒絶し、極端な人々の掲げる見栄えの良い約束になびいてしまう。極端な人々は往々にして、極右のポピュリストの中から現れる。

そして現状、劇的な変化への期待が高まる一方となっている。

重要な選挙イヤーは1月、バングラデシュで幕を開ける。既にここまで複数の反政府デモを繰り広げてきた主要野党バングラデシュ民族主義党(BNP)は、幹部らが投獄もしくは国外追放されている。同党は、ハシナ首相が辞任し、総選挙に先駆けて暫定政権へ権力を移譲しなければ投票をボイコットすると迫っている。ハシナ氏は15年に及ぶ冷酷な統治を継続する公算が大きい。

2月には、イスラム教国として世界で最大級の人口を抱える2カ国、パキスタンとインドネシアが1週間以内に相次いで選挙を実施する。パキスタンは、高い人気を誇る一方で分断も招いたカーン前首相が汚職で失脚してから初の総選挙となる(本人は一切の違法行為を否定)。候補者でこそないが、カーン氏は依然として自らの政党を支える原動力であり続けている。

その後間もなくインドネシアで行われる選挙は、1日のものとしては世界最大の規模となる見通し。有権者は国内に2億人超、国外に175万人いるという。とはいえ選挙の結果、裕福な財界と軍事エリートによる権力支配が緩む公算は小さい。

他では、恐らく南アフリカでの選挙がアフリカ地域で最も示唆的なものとなるだろう。マンデラ大統領以降の混乱した時期にあっては間違いなくそうなる。2年前の地方選、かつてマンデラが率いたアフリカ民族会議(ANC)の得票率は初めて50%を割り込んだ。有権者らが混乱と汚職に幻滅したことが要因だった。ANCが政権を握った30年間は、そうした無秩序が横行し過ぎていた。この時の下落傾向が24年の総選挙で継続するなら、南アの政治史にとって決定的な瞬間が訪れることになるだろう。

欧州に目を向ければ、そこでは九つの議会選が行われる。域内の次期政権にとって最大の課題の一つは、連立相手を見つけて議会での過半数を形成することになるだろう。

ポルトガルで3月に予定されている解散総選挙からは目が離せない。これに先駆けた汚職捜査で、社会党政権を率いる首相は就任から8年で退場を余儀なくされた。これは極右政党チェガ(ポルトガル語で「十分」の意)に権力が移行する先触れとなるかもしれない。同様に右派は、秋に予定されているオーストリアの選挙でも勝利を見込んでいるようだ。

英国も25年1月下旬までに総選挙を実施予定だが、これは国内の英国人有権者が24年末に投票へ足を運ぶ公算が大きいことを意味する。結果は労働党の政権返り咲きかもしれない。同党は過去14年にわたり、政権を保守党に握られていた。

中南米を振り返ると、メキシコでは史上初の女性大統領が誕生しそうだ。6月の選挙に向け、主要政党から女性候補2人が名乗りを上げている。選挙では麻薬や犯罪、米国への移民が第一の争点となる。その他、ベネズエラを率いる極めて予測不能な国家主義者のリーダー、マドゥロ大統領はリスクを取ってでも新たな支持を模索するだろう。石油を巡る隣国ガイアナとの領土争いなどはその一環だ。

しかし、以下に挙げるとりわけ劇的な五つの選挙こそ、スポットライトを浴びるにふさわしい。

1月13日、台湾:米中対立の渦中に誕生する新総統

台北で演説する与党・民進党の総統選候補者、頼清徳氏(中央)/Annabelle Chih/Getty Images
台北で演説する与党・民進党の総統選候補者、頼清徳氏(中央)/Annabelle Chih/Getty Images

中台両政府の緊張が高まる現状にあって、選挙結果が持つ意味は特に重い。米国は引き続き、台湾の民主主義を保障すると約束している。

総統選の立候補者は3人。わずかな差で支持率トップに立つ与党・民進党の頼清徳(ライチントー)氏は中国にとって忌むべき存在で、今後も台湾の主権を断固として守り続けると約束している。現職の蔡英文(ツァイインウェン)総統が定めた公約を踏襲する立場だ。2番手にぴたりと付ける野党・国民党の侯友宜(ホウユーイー)氏は、中国政府との交渉開始を望んでいる。やや引き離されて3位に沈む台湾民衆党の柯文哲(コーウェンチョー)前台北市長は妥協点を提示しつつ、和解により近づく方針を掲げる。

仮に有権者が現状維持を選ぶなら、中国政府は圧力を強めることが予想される。「戦争か平和かの選択」というのが中国による公式見解だ。このコメントは、野党候補一本化の協議が11月に決裂したことに対する反応として出された。

3月17日、ロシア:プーチン氏に抜かりはなし

モスクワ市内で女性たちが歩く背後の電光掲示板に、プーチン大統領の会見の様子が映る/Maxim Shemetov/Reuters
モスクワ市内で女性たちが歩く背後の電光掲示板に、プーチン大統領の会見の様子が映る/Maxim Shemetov/Reuters

プーチン大統領が、終身大統領の地位を手にするつもりで表向きの再選キャンペーンに臨んでいるのはほぼ疑いの余地がないところだ。再選を果たせば、任期終わりの年齢は78歳。ソ連時代の指導者、スターリンを抜き、ロシアではエカテリーナ2世以降で最も長期間にわたり君臨した統治者となる。

プーチン氏に抜かりはほぼない。これまでのところ、正式に認められた対立候補は1人しかいないようだ。それは化粧品メーカーを率いる実業家、アレクセイ・ネチャーエフ氏で、偶然にもプーチン氏を支援する社会団体、全ロシア人民戦線に所属している。

こうした状況に反発して、大規模な混乱が起きることも十分あり得る。18年の大統領選では、ロシア中がそうした事態に陥った。ただ現在、反プーチンの声を上げた可能性のある数十万人は、ウクライナへの侵攻の間に既に国外へ逃亡してしまった。

本人の年齢から、今回がプーチン氏にとって最後の選挙にもなり得るとの見方は非常に現実味を帯びている。意気盛んなプーチン氏は、選挙後に自らの目標を設定し、より広範で一段の不安定化をもたらす取り組みを進めるかもしれない。目指すのはソビエト帝国の再構築だ。加えて北大西洋条約機構(NATO)との直接的な対立のリスクも排除するべきではない。

4月及び5月、インド:人口世界一の国が岐路に

印議会予算委員会の冒頭で発言するモディ首相/Sajjad Hussain/AFP/Getty Images
印議会予算委員会の冒頭で発言するモディ首相/Sajjad Hussain/AFP/Getty Images

果たして人口世界一の国は、活気ある民主主義国からヒンドゥー教に根差した民族主義の国へと姿を変え、神権政治に近づくのか。インドの命運をかけた選挙は4月と5月、それぞれ複数の週にわたって実施される予定だ。

モディ首相が1期目に専念したのは、揺るぎないヒンドゥー・ナショナリズムの強化だった。割を食ったのは国内に約2億人いるイスラム教徒と、2800万人のキリスト教徒だ。懸念されるのは、予想通りモディ氏が勝利した場合、自らの任務の中心的要素と見なす施策を完遂できるようになるという点だ。

来月、モディ氏は広大なヒンドゥー教寺院の落成式を執り行う。その寺院は、かつて歴史あるモスク(イスラム教礼拝所)が破壊された跡地に立つ。モディ氏とインドの全ヒンドゥー教徒にとっては、支配的立場を約束する象徴的な建造物となる。

米国はこのような人物にどう対処するのか。新興国世界の中心を占めると同時に重要な貿易相手であり、パキスタンへの対抗勢力でもある人物。ロシアと中国に近い存在ながら、戦略的な防塁となって後者の太平洋への拡張に歯止めをかけてもいる。米国の対応の仕方が問われる。

6月6~9日、欧州議会:右翼思想への大転換?

欧州議会で一般教書演説を行うフォンデアライエン欧州委員長(中央)/Frederick Florin/AFP/Getty Images
欧州議会で一般教書演説を行うフォンデアライエン欧州委員長(中央)/Frederick Florin/AFP/Getty Images

6月は欧州の将来にとって極めて重要な局面となるだろう。欧州議会は同月、英国の離脱以降で初の選挙を実施するが、大変な混乱を引き起こすことが予想される。

大規模な右傾化を可能にするための基礎固めがこの数年間で進行しており、間違いなく23年を通じてその動きは強化された。右翼思想を掲げる欧州保守改革グループ(ECR)は、新たな欧州議会で第3勢力の地位に就く可能性さえある。

このような確固たる右派及び欧州連合(EU)懐疑派の一団によって、EUの掲げる数多くの穏健な施策が妨害されるかもしれない。彼らの後押しで、ドイツやフランスといった主導的役割を果たす国々での右傾化も進む恐れがある。

それによって左右されるのは以下の事柄だ。ウクライナへの追加支援、対ロシア制裁(既にハンガリーとスロバキアが拒否権を行使している)、移民の制限、気候変動に対する抑制の後退、EU圏全域における正義と法の支配、そして欧州の対中政策の転換。

11月5日、米国:トランプ・ファクターとその先

米ワシントンでの選挙関連の集会で発言するトランプ前大統領/Anna Moneymaker/Getty Images
米ワシントンでの選挙関連の集会で発言するトランプ前大統領/Anna Moneymaker/Getty Images

たとえドナルド・トランプ氏が大統領に選出されなくても、投票と11月5日に向けた選挙運動は米国の民主主義をずたずたにする恐れがある。そしてもし、同氏が選出されるなら、世界の広範囲に波及効果をもたらしかねない。トランプ氏の下で米国が離脱した場合、NATOはどのような状態に陥るか? 組織全体の解体を望む勢力がどれほど喜ぶかを想像してほしい。

しかもあらゆる独裁者、独裁者予備軍に向かって、トランプ氏はこれまで温かい言葉を伝え述べている。16日のニューハンプシャー州での選挙遊説ではプーチン氏の発言を引用し、バイデン大統領を「民主主義にとっての脅威」と呼んだ。同じ集会で、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記とハンガリーのオルバン首相も称賛した。後者は強硬な民族主義者として知られる。

こうした言葉はトランプ氏が大統領に就任した場合、どのような形で行動に変換され得るだろうか? 何にせよ同氏は既に、大言壮語してはばからないアルゼンチンの急進右派の新大統領、ハビエル・ミレイ氏を訪ねると約束している。ミレイ氏は経済立て直しのためにペソを廃止してドルに切り替える案を打ち出す一方、チェーンソーを振り回すパフォーマンスで官僚主義の打破と政府支出の削減を訴えていた。

今から1年後の世界がどのような地平にいるのかは、これから数十億人の有権者が投票に訪れる、あるいは投票を回避する中で決まるのだろう。有権者らに与えられた自由と透明性の度合いはまちまちだが、政治家たちを見ていれば、彼らが国民の下した選択をどの程度尊重しているかが分かるはずだ。

くれぐれも該当する人々には、慎重に考えを巡らせた上で、賢明なる投票を行ってもらいたい。

デービッド・A・アンデルマン氏はCNNへの寄稿者で、優れたジャーナリストを表彰する「デッドライン・クラブ・アワード」を2度受賞した。外交戦略を扱った書籍「A Red Line in the Sand」の著者で、ニューヨーク・タイムズとCBSニュースの特派員として欧州とアジアで活動した経歴を持つ。記事の内容は同氏個人の見解です。

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