深さ9500メートルに及ぶ超深海帯で生態系を発見、光のない極限環境で繁栄
深海の生態系をめぐる今後の研究
科学の世界で、化学合成生態系自体は目新しい話ではない。本研究にかかわっていない米ウッズホール海洋研究所のジョアンナ・ウェストン氏は、この深さで化学合成生態系が繁栄している可能性は過去の研究でも指摘されていたと話す。同時に、今回の発見の規模には感銘を受けたという。
海溝は遠く離れた場所だが、完全に孤立しているわけではないと、ウェストン氏は言う。同氏らのチームが2020年、マリアナ海溝で発見した新種の生物は、体内にプラスチックの微粒子が含まれていたことから、「エウリセネス・プラスティクス」と名付けられた。またカリブ海の米自治領プエルトリコ付近では、大量発生した海藻「ホンダワラ」だけを食べる甲殻類が新たに見つかった。「深海は表層で起きていることと密接につながっている」と、ウェストン氏は強調する。
深海の生態系をめぐる研究の歴史はまだ20~30年にすぎず、新たな発見に向けた技術開発は今も続く。ドゥ氏は今後の見通しについて、各国、各研究分野の協力が重要だと付け加えた。ユネスコ(国連教育科学文化機関)と中国科学院が共同で主導する「グローバル・ハダル探査プログラム」はまさにそれを目的として、多くの国の深海研究者らによるネットワーク作りを進めている。
ドゥ氏は今後、極限環境に生物群がどう順応してきたかを研究することで、海溝の生態系についての理解をさらに深められるとの考えを示した。
「ハダル帯の海溝は非常に極端な、最もすみにくい環境と考えられるが、(化学合成生物群は)そこで幸せに暮らすことができる」と、ドゥ氏は話している。