南極氷床から検出された「奇妙な」電波信号、物理法則に従わず? 科学者が解明に挑む
ピエール・オージェ共同研究グループは、ANITAが検出した異常信号の正体を解明するため、10年以上にわたるデータを解析した。
研究グループはまた、自らの観測所を使ってANITAと同様の信号を検出しようと試みた。オージェ観測所は、宇宙線の検出と研究に2種類の手法を用いるハイブリッド型装置だ。一つは、地表のタンク内で水と反応する高エネルギー粒子を検出する方法、もう一つは、大気圏上層における紫外線との相互作用を追跡する方法だ。
オージェ観測所は、超高エネルギー宇宙線によって大気中で生成される上から下に降り注ぐシャワーを検出するよう設計されたが、今回の解析では上昇する空気のシャワーを探索するため、データ分析手法を再設計したという。
「ANITAの異常事象が、地球を通過して上向きのシャワーを生成させる粒子によって引き起こされたものであれば、オージェ観測所はその多くを検出していたはずだ。だが、確認されなかった」(バンデンブルック氏)
これとは別に、南極の氷中深くにセンサーを埋め込んだアイスキューブ観測所でも、同様の異常信号を探索した。
アイスキューブは非常に高感度であるため、ANITAの異常事象がニュートリノによるものであれば、アイスキューブでも検出されていたはずだとバンデンブルック氏は指摘。
「現時点では、異常事象がニュートリノである可能性は極めて低い」と同氏は述べた。
一部の科学者は、この異常信号の原因が、タウニュートリノと呼ばれる別種のニュートリノだと提唱している。
タウニュートリノは再生可能で、高エネルギー状態で崩壊すると、新たなタウニュートリノとタウレプトンと呼ばれる粒子を生み出す。
だがウィッセル氏は、検出された信号の角度の鋭さに基づくと、原因がタウニュートリノだとする仮説は疑わしいと指摘する。
タウニュートリノはおそらく地平線から1~5度ほど下の角度に存在すると想定されるが、今回検出された信号は地平線の30度下に位置していた。そこは多くの物質が存在するため、タウニュートリノはエネルギーを失い、検出できないはずだと主張した。
検出の未来
結局のところ、ANITAが捉えた異常事象の正体について、科学者たちはいまだに見当がついていない。これまでのところ、どの解釈も観測された信号と一致していないが、解明が視界に入っているのかもしれない。
ウィッセル氏は現在、新たな検出器「超高エネルギー観測用ペイロード(PUEO)」の開発に取り組んでいる。今年12月から南極上空を約1カ月間飛行する計画で、ANITAよりも大型で10倍の感度を持つ。ウィッセル氏によれば、PUEOはANITAが検出した異常信号の原因について、さらに多くの情報を明らかにできる可能性があるという。

ANITAの実験飛行は2006年から16年にかけて4回飛行した/Stephanie Wissel/Penn State
「これは長年にわたる未解決の謎の一つだ」とウィッセル氏は語る。「PUEOの飛行により、より高い感度で観測できる。理論的には、これまでよりもこれらの異常事象をより深く理解できるはずで、最終的にはニュートリノを検出するための重要な一歩になるだろう」
「時には、基本に立ち返り、これらの現象が一体何なのかを真に理解する必要がある」「最も可能性が高いのは、説明可能なごくありふれた物理学的な現象だが、我々はそれが何なのかを突き止めるために、あらゆる可能性を探っている最中なのだ」