航空機の市場競争に負けるボーイング、荷物まとめてワシントンへ移転

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米東部バージニア州アーリントンのボーイングのオフィス/Eric Lee/Bloomberg/Getty Images

米東部バージニア州アーリントンのボーイングのオフィス/Eric Lee/Bloomberg/Getty Images

ニューヨーク(CNN Business) ボーイングが本社をシカゴから首都ワシントンDCの郊外へ移転する。だが専門家の中には、これが間違った選択だと考える者もいる。

ボーイングは1916年の創業から2001年までシアトルを拠点としていた。全盛期にはもっとも安全で最良の機体を製造するエンジニアリング主導の企業として名をはせた。だがボーイングが損益ばかり気にするようになったことで、大勢の業界関係者はそうした評判が失われたと感じた――軽率な方向転換を如実に示す兆候として挙げられているのが、シアトルからシカゴへ本社移転するという2001年の決定だ。

5日に同社がバージニア州アーリントンへの本社再移転を発表し、批判はさらに高まるばかりだ。ボーイングが国防省と連邦議会のおひざ元に移ることは、まるで自分たちが欧州航空機大手エアバスとの民間機競争に敗れ、今は主に防衛・宇宙事業の契約業者として見られたいということを示唆しているようにも見える。

事実、同じ週にはエアバスがアラバマ州モービル工場での民間機増産を発表した。こうした見方が一層説得力を持つばかりだ。

「かたや『ジェット機を増産します』という企業がある一方、別の企業は『ペンタゴンや議会とかけあって、国防予算を引き出す』と言っている。非常に対照的だ」と言うのはリチャード・アブラフィア氏。航空コンサルティング会社エアロダイナミック・アドバイザリーの運営責任者で、航空業界を代表するアナリストだ。

ボーイングは報道向け発表で、アーリントンへの本社移転は「顧客やステークホルダー(利害関係者)、世界トップクラスのエンジニアリングや技術の才能ある人材」との距離を縮めるのが目的だと述べている。

「選ばなかった道」

アブラフィア氏はボーイングの本社移転の決定に驚きこそしないものの、失望している。シアトル方面に拠点を戻していれば、ボーイングがエンジニアリングに再び力を入れている姿勢を強く打ち出すことができただろうと同氏は続けた。

「士気も大きく上がっただろう。これまでおろそかにしてきた民間機商品に注力する意志を示すことにもなったはずだ」とアブラフィア氏。「原点回帰を発言していたらどれほど力強いメッセージになっていたことか。とにかく残念だ。その道を選ばなかったのだ」

技術面や品質面の問題により、ボーイングは大きな難問に直面している。旅客機737MAXの2度の墜落で乗員乗客計346人全員が死亡したことで、同機は20か月間の飛行禁止となった。ボーイングは200億ドル(現在の為替レートで約2兆5600億円)を超える損失を被り、最も大きな損失を出す企業失態の一つになった。だが同社は他のほぼすべての旅客機でも問題や遅延、財政負担を抱えている。

MAX機が世界主要都市で旅客業務を再開する一方、おそらくもっとも深刻な問題が未解決のままとなっている。民間機、それも単通路型航空機の販売および納品で、エアバスに大きく水をあけられているのだ。

国防総省や議会に近づけば、防衛・航空宇宙事業でボーイングの助けになるかもしれない。だがこうした分野でも、ロッキードやレイセオンといった軍事企業や、スペースXなどの新興航空企業に遅れまいと苦労している。

それに加えバンク・オブ・アメリカの航空アナリスト、ロン・エプスタイン氏は、DC郊外への移転はボーイングにあまりプラスにならないと言う。ロビー活動を追跡する非営利組織「センター・フォー・レスポンシブ・ポリティクス」のサイト「オープン・シークレッツ」によれば、同社はすでに100人近いロビイストを抱えており、その費用は年間1340万ドル(約17億円)におよぶ。個別企業としては5番目に高い金額だ。

「DCでボーイングの存在感が薄いと非難する人はいないだろう」とエプスタイン氏。「発表を聞いた時はいささか首をひねった。それで彼らが何を得るというのか、疑問に思わざるを得ない」

ボーイングの企業文化に疑問を抱くのはアナリストやメディアの批評家だけではない。世界屈指の航空機リース会社で、ボーイング最大の顧客であるアボロンのドーナル・スラッタリー最高経営責任者(CEO)は5月初め、ボーイングの企業文化に――そしておそらくは上層部にも――変化が必要だとほのめかした。

「ボーイングは道を見失っていると言ってもいいと思う」と、5日にダブリンで行われたエアファイナンシャル・ジャーナル誌の会議で発言した。ロイター通信が最初に報じたこの発言では「ボーイングには語り継がれる歴史がある……素晴らしい航空機を製造している。だが、企業文化は事業戦略を朝食として平らげてしまうとの言葉がある。それがボーイングで起きてきたことだ」とも語った。

アボロンの広報担当者もスラッタリーCEOの発言を認めたが、ボーイングの本社移転を念頭に語ったわけではないと念を押した。

下院運輸インフラ委員会のピーター・デファージオ委員長(民主党、オレゴン州)も、ボーイングの決定を非難した。

「原点である北西部太平洋岸からシカゴへ本社を移転したことは、悲惨な間違いだった……かつて同社の名声を築いた製造エンジニアよりも、ウォール街の計算ばかりする人に力を与えた」と、同氏は声明の中で述べた。「ボーイングの問題は政府との接触の不足ではない。むしろ、現状抱えている生産上の問題や、経営と役員会の機能不全だ。それらが死を招いた737MAXの墜落につながった」

「ボーイングは安全な航空機の製造に力を注ぐべきだ――連邦規制官や議員を相手にロビー活動をしている場合ではない」と同氏は締めくくった。

同社が抱える問題の一部――とりわけ航空会社の財政や新規航空機需要に与えた大打撃――はボーイングがコントロールできなくなっていた。同社のデーブ・カルフーンCEOでさえも、問題の大半は同社が自ら招いたものと認めている。

「これらの原因は外部ではなく、残念ながら内部の失態だったと私も真っ先に認める」と、1月の電話会議で投資家に語った。それでもボーイングがエンジアリングにより注意を払うための対策を講じていることも強調した。

「我が社の文化が今焦点を当てているのは、最上層部からの自社の仕事への距離を可能な限り縮めることだ。技術職を通じてだ」と同氏。「以前よりもずっと改善していると思う。実際、それについて非常にうまくやっている」

だがMAXやパンデミック以外に、ボーイングは他にも問題を抱えている。品質管理の問題で、広胴型ジェット機787「ドリームライナー」は1年近くも納期が滞っている。また最新広胴型777X旅客機は、認証の問題で初回納品が予定よりも2年先延ばしされ、少なくとも2025年になる予定だ。

一方で、ボーイングのMAXや777X、ドリームライナーの問題解決の試みは長引き、エアバスの人気機種A321XLRに対抗する新型長距離単通路型ジェット機を打ち出す当初の計画が二の次となっている。

「同社のプログラムはほぼどれをとっても(財政的に)負担がかかっている。それは民間事業も防衛事業もだ」とエプスタイン氏も言う。「航空機の設計・製造は大変な作業だ。完璧にこなせる者はいない。だがボーイングの場合、どの航空機メーカーよりも多くの問題を抱えているようだ。すべてはエンジニアリングに帰着する。果たしてアーリントン移転でエンジニアリングの文化がいい方向に変わるだろうか。そうとは言いがたい」

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