「血で書かれた」安全基準 全乗客の命を救ったJALの徹底意識、契機は40年前の惨事

JALなどの航空各社は長い年月をかけて確立した厳格な安全基準の順守を徹底している/Richard A. Brooks/AFP/Getty Images

2024.01.03 Wed posted at 16:00 JST

(CNN) 東京の羽田空港で日本航空(JAL)の旅客機と海上保安庁の航空機が衝突した事故は、映像を見る限り、無傷だった人がいたことが奇跡のようにさえ思えた。

2日に起きた事故では海上保安庁の航空機に搭乗していた乗員6人のうち5人が死亡した。JALの乗客乗員379人に死者はなかった。

事故に関する調査は続けられているが、炎に包まれた旅客機の搭乗者全員が避難できたのは、現代の旅客機の安全基準とJALの徹底した安全意識の組み合わせに尽きると専門家は指摘する。

「映像を見て、全員が脱出できたことに驚き、安堵(あんど)した」。こうした事故に詳しい英クランフィールド大学のグラハム・ブレイスウェイト教授はそう語る。

「しかし同航空について私が知っていることや、同社が安全対策と乗員の訓練にどれほど力を注いできたかを考えると、彼らがあれほど素晴らしい仕事をしたという事実は驚くにはあたらない」

ブレイスウェイト氏によると、JALをこれほど安全な航空会社へと変えさせた転機は、40年近く前に起きた惨事だった。

出発便の欠航を告げる画面が並ぶJALのサービスカウンター

1985年8月12日、東京発大阪行きのJAL123便が墜落し、搭乗者524人のうち520人が死亡した。原因はJALではなく、ボーイングの技術者による修理の不備だった。

この事故の影響はJALに深く浸透しているとブレイスウェイト氏は言う。「日本のような文化の中で、彼らはグループとして責任を負い、二度とこうした事態を引き起こしてはならないと考えた」「問題が起きた時は、何を教訓とすべきかに目を向ける。どんなことでも改善のチャンスとする」

2005年には、20年前に起きた事故のことを記憶していない従業員が増えたことを受け、JALは本社内の一画に機体の残がいを展示して、乗員と乗客のストーリーを紹介した。

「間違いが起きればどんなことになるかを知らずにこの業界に入った人たちがいる。安全のためにどれほどの努力が必要かを、誰もが認識する必要がある、という思いだった」

ブレイスウェイト氏はそう語り、「標準的な運航手順と、全てを適切にこなすことに関し、彼らには非常に厳格な文化がある。今回のケースで乗員がこれほどうまく遂行できたのはそれが1つの理由だと思う」と解説。「同航空を選ぶべき理由があるとしたら、まさにそれだと思う」と評価した。

今回のような「滑走路侵入」は大惨事を招きかねない。何百人もの生命を救うためには乗員の迅速な対応が不可欠だった。JAL機は滑走路上で停止した数秒後に脱出シュートが展開され、機内に煙が充満する中で、搭乗者が素早く脱出した。

「極限状態における教科書のような避難だったように見え、操縦士と乗員、乗客に強い感銘を受けた」。匿名で取材に応じた欧州の大手航空会社の操縦士はそう振り返り、「現代の航空機の頑丈な性質と、操縦士の異常事態に対する対応訓練が何十年もの間に進化して、我々は今、航空史上、最も安全な場所にいる」と語る。

「航空機の大型化に伴って手順が改良され、90秒で全乗客が避難できる。航空会社によっては、明らかな惨状の際には客室乗務員が避難を開始でき、機長の指示を待つ間の貴重な数秒を無駄にせずに済むようになった」

現代の航空業界の安全記録は「幸運でなかった人たちの血によって書かれている」とパイロットは話し、全乗員がより良い仕事をできるよう、事故が教訓となって業界全体で共有されていると指摘した。

JAL機の乗客は手荷物を全て残したまま避難した

乗客の行動

一方、乗客の側にも今回の事故から学ぶべき教訓がある。

JAL機の乗客は手荷物を全て残したまま避難した。

CNNの取材に応じた女性は、同機に搭乗していた夫が携帯電話だけを持って避難し、ほかの手荷物は全て機内に残してきたと証言した。

欧州航空大手のパイロットは、「これはさまざまな航空会社や文化に共通する課題だ。中には自分の手荷物や所持品を、ほかの乗客の安全よりも優先する人がいる」と打ち明ける。

別の専門家も「避難が遅れれば大惨事になっていた可能性もある。全ては1台のパソコンや手荷物のために。今回の事故では、手荷物を持たないでという指示に乗客たちが従っていなければ、はるかに悪い事態になっていたかもしれない」と語った。

ブレイスウェイト氏は、以前搭乗した旅客機で隣に座った男性は、何か間違いが起きればそれで終わりだという理由から、安全に関する説明に耳を傾けなかったと振り返り、「きょう、日本の400人近い人たちが、そうではないことを証明してくれた」と指摘。「事故があっても生き延びられることを証明するため、我々がどれほどのことをしてきたかの証だった」と評している。

本稿はCNNのジュリア・バックリー記者による分析記事です。

日本航空機、羽田空港に着陸後に炎上

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。