中国が国境再開 中国人旅行者がまず向かう先は?

渡航先として中国人に特に人気が高いのはシンガポールをはじめ、韓国や香港、日本、タイなどだ/Noppasinw/Adobe Stock

2023.02.12 Sun posted at 13:35 JST

(CNN) 中国・蘇州に住むフリーランスのソフトウェアエンジニア、ダイ・シオンジエさん(32)は、「セロコロナ」政策解除後の最初の長期旅行を楽しみにしている。

ダイさんは行き先の有力候補として、韓国、欧州、日本、ニュージーランド、オーストラリアなどを挙げるが、最も注目しているのが米国だ。

米国はコンピューターサイエンスとIT産業の両方で世界をリードしているので、シリコンバレーや、マサチューセッツ工科大学(MIT)、スタンフォード大学などの有名大学を訪問したいとダイさんは言う。

中国政府が海外からの渡航者に対する隔離義務を撤廃し、新規パスポートの発給を再開した今、ダイさんのように海外旅行を希望する中国市民は多い。

最初の渡航先

大手オンライン旅行会社トリップドットコムの予約状況を見ると、渡航先として中国人に特に人気が高いのはシンガポール、韓国、香港、日本、タイで、さらに遠方の渡航先では米国、英国、オーストラリアが人気だ。

中国出境游研究所(COTRI)の最高経営責任者(CEO)、ウォルフガング・ゲオルク・アルト博士は、手軽で安い近場への旅行が最初に回復するのは当然と語る。

しかし、2023年の第1四半期は、出張、家族の再会、学生の旅行、医療目的といった観光目的以外の緊急の旅行にほぼ限定されるだろう、とアルト氏は付け加えた。

レジャー旅行の第1波

アルト氏は、レジャー旅行が増え始めるのは、パスポートの発給やビザの承認プロセスなどが円滑化し、フライトも全面的に再開される23年の第2四半期と見ている。

第1四半期を通じて消費意欲が高まり、4月ごろに、幸福や気晴らし、自然を優先した、近隣諸国への旅行に出かける中国人旅行者が増えるとアルト氏は予想する。

「(新型コロナウイルスの影響で)ストレスや問題を抱えた多くの中国人が、そこから逃れるために長い週末休暇を取ったり、ベトナム、タイ、カンボジアのビーチリゾートで過ごそうとしたりすることを考えても不思議ではない」とアルト氏は言う。

デジタルマーケティング会社ドラゴン・トレイル・インターナショナルのマーケティング・コミュニケーション担当ディレクター、シエナ・パルリスクック氏は、今年、裕福な旅行者に最適なビーチが売りの旅行先としてモルディブを挙げる。

モルディブは、特に高級志向の旅行者や美しいビーチで休暇を過ごしたい人々にとって魅力的な観光地で、世界の他の観光地と比べ、コロナの影響からの回復も早そうだ、とパルリスクック氏は言う。

最も魅力的な渡航先

新型コロナのパンデミック(世界的大流行)以前は、中国は出国者数と旅行者の支出額で、世界最大級の海外旅行市場だった。

国連世界観光機関(UNWTO)によると、中国人旅行者は19年に海外旅行に計1億5460万回行き、旅先での総支出額は約2550億ドルに上った。

COTRIのデータ予測によると、中国人旅行者による海外旅行(中国領の香港やマカオへの旅行を含む)は23年末までに1億1500万件(19年の4分の3)まで回復する可能性があるという。

そして海外旅行が回復すれば、コロナ前に人気だった渡航先が再び人気ランキングの上位を占めるとパルリスクック氏は予想する。

19年に中国人旅行者が最も多かったのはタイで、その数はおよそ1100万人に上り、海外からの旅行者全体の4分の1以上を占めた。

インド洋の島国モルディブは、高級志向の旅行者や美しいビーチで休暇を楽しみたい人々に魅力的な旅先だ

僅差(きんさ)の2位は日本で、日本政府観光局(JNTO)の観光統計データによると、19年に訪日した中国人旅行者は950万人だった。そして以下、ベトナムが580万人、韓国が約550万人、シンガポールが360万人と続いた。

パンデミック前に人気があった渡航先は、中国人が海外旅行を再開すれば再び人気になる可能性は高く、中国の旅行業界とドラゴントレイルは、香港やマカオ、東南アジア、東アジアの渡航先が間違いなく最初に回復すると見ている、とパルリスクック氏は言う。

「これらの渡航先は中国に最も近い上に、今のところ航空便の回復も最も早く、コロナ後の最初の海外旅行先として最も手頃で安全と見られる可能性が高い」(パルリスクック氏)

新たなホットスポットや体験

アルト氏によると、最近、中国人旅行者の間で、珍しい渡航先の発見に対する関心が高まっているという。

トリップドットコムのメディア・エグゼクティブコミュニケーション部門の責任者、ウェンディ・ミン氏はその好例だ。

コロナ前は毎年5カ国ずつ旅行先の新規開拓をしていたというミン氏。23年はキプロス、オマーン、イラク、ルワンダ、マダガスカル、ナミビアを探索する予定だという。

最近、ミン氏のようにあまり旅行者が訪れたことのない場所を探索したいと考える熟練旅行者は増えている。

例えばアルト氏は、アルバニアやジョージアのような国々に興味があるという。

アルバニアは、パンデミック前は、中国人旅行者が注目し始めたばかりだった。数世紀前に作られた村々や本物の田舎の環境があるアルバニアは、経験豊かな旅行者の興味を引くとアルト氏は指摘する。

一方、ジョージアの魅力は、首都トビリシでの都会の冒険、山でのスキー、黒海に面したビーチ、古代建築など、多種多用な体験が可能な点だ。

アルト氏は「この2カ国はまだあまり知られていない」とした上で、次のように続けた。「パリはもはや魅力が薄れている。もし友人らにアルバニアに行ったと伝えたら、彼らは、あなたは旅行の趣味が良く、冒険心がある非常に特別な存在だと考えるだろう」

旅行スタイルの変化

トリップドットコム・グループによると、中国人旅行者は最近、大規模なツアーよりも少人数のグループ旅行や個人旅行に引かれ、また持続可能性にも関心を持っているという。

東欧ジョージアでは、都会での冒険や山でのスキー、ビーチなどさまざまな体験が楽しめるという

アルト氏もその傾向に気付いている。

アルト氏は「中国人海外旅行者たちの需要や期待に大きな変化が見られる」とした上で、「中国も気候変動の影響に苦慮しているため、中国の若者は持続可能性や環境問題に対する関心が高い」と付け加えた。

ドラゴントレイルが22年に実施した調査では、今後旅行を予定している人の48.3%が環境に配慮している宿泊施設を選ぶと回答した。また全体の45.5%が野生動物を見る際にクルエルティーフリー(動物虐待を伴わない)の手段を選択すると回答し、さらに37.9%がごみ拾いや車の代わりに自転車に乗るなどして、現地の環境保全に個人的に貢献すると答えた。

また、海外旅行に行く理由としては「現地の食べ物を味わう」(60.8%)、「現地の生活を体験する」(56%)、「ビーチや海を訪れる」(51.8%)が上位を占めた。

しかし、中国人旅行者が旅先でしたいことに関して、全てが変わったわけではない。

「中国人の旅行に関してパンデミック前に高まっていた傾向や嗜好(しこう)の多くは、パンデミック後も続いている。その例として、自然や野外活動、レンタカーを借りて自ら運転する車の旅、団体旅行から個人旅行への移行などが挙げられる」とパルリスクック氏は言う。

またパルリスクック氏は、コロナ時代に中国で人気が急上昇した活動としてグランピング(豪華な設備やサービスを利用しながら自然の中で快適に過ごすキャンプ)を挙げる。

「グランピングやキャンピングは、パンデミックの間もその地域を旅したり、自然の中で過ごしたりする新しい方法で、中国のソーシャルメディアでも大きな話題になった」とパルリスクック氏は言う。

また中国でのグランピング人気を考えると、中国人旅行者が日本やタイなどでグランピングをしても不思議ではないという。

実際、中国のソーシャルメディアでは日本やタイの業者が中国のネット民向けにグランピングの宣伝を行っている。

またアルト氏によると、海外での生活、学習、キャリアの追求といった、より長期の旅行に対する需要もあるという。

「シンガポール、ロンドン、トロント、シドニーの中から移住先を選ぶためにさまざまな場所に出かける人は多い。(真っ先に旅行を再開する人々の中に)これらの人たちも含まれるだろう」(アルト氏)

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