「アミーゴ! 私たちの教皇」 ペルーで親しまれた米国出身の司教、レオ14世就任に沸く「地元」

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1986年、ペルーのピウラで子どもたちと食事するロバート・プレボスト氏(左)/Courtesy Nicanor Palacios

1986年、ペルーのピウラで子どもたちと食事するロバート・プレボスト氏(左)/Courtesy Nicanor Palacios

ペルー・チクラヨ(CNN) チクラヨ中心部の広場にハンマー音と音楽が鳴り響く。大聖堂の前に巨大なデジタルスクリーンを設置する足場が組まれ、大勢の人が集まってくる。ローマ教皇レオ14世の就任を祝う土曜の野外ミサは特別だった。新教皇は米国生まれだが、ペルー北部のここチクラヨでは、世界初のチクラヤーノ教皇ロベルトとして親しまれている。

開かれた大聖堂の扉の向こうでは、一大イベントに備えて女性たちがざんげ室の前に行列を作っていた。広場を囲む横断幕に描かれたレオ14世がほほ笑む。食堂前の看板によると、ここに住んでいた当時、レオ14世の昼食のお気に入りはヤギのシチューだった。

アマリア・クルサードさん(52)は大聖堂の中で涙に暮れていた。「今日は奇跡の日。チクラヨは祝福されている」。祈りを終えると夕べのミサに参列するため、家族を迎えに自宅へ向かった。がんを患う高齢の父親は、奇跡を必要としていた。

米国で生まれたレオ14世の本名はロバート・プレボスト。しかし2015年に市民権を獲得したペルーでは、チクラヨの息子としてチクラヤーノと呼ばれ、地方で司祭に就任した後、チクラヨで長年にわたって司教を務めた。

ここでは誰もが教皇について語りたがる。

ニカノール・パラシオスさんは1980年代、レオ14世が近郊のピウラで司祭になって間もない頃、祭壇係として一緒に働き、礼拝のため地域を巡回していた。

「彼は私たちをジープに乗せて昼食に連れて行ってくれた」とパラシオスさんは回想する。「小さな村へ行って干し肉や揚げバナナを食べさせてくれた。彼はそういうものを好み、田舎へ行くのが好きだった。ペルー北部の農家と同じように、ユッカや魚のフライ、時には揚げ肉を少し食べていた」

地元のエマーソン・リサナ神父(30)によると、何年もたってチクラヨの司教になっても、レオ14世のアメリカなまりは抜けなかった。それでも住民に親しまれる存在だった。

「彼はラテンアメリカの心を持っていた」とリサナ神父は語る。当時司教だったレオ14世はチクラヨの日常生活の一部となって貧困地区を訪問し、コロナ禍では人通りが途絶えた通りを十字架を背負って歩いていたという。

フランシスコ前教皇の思想的後継者とされるレオ14世は、チクラヨで最も助けを必要としている人たちに寄り添い、2010年代後半には地元のNGOや教会と連携して、母国の政治的混乱や経済崩壊から逃れてきたベネズエラ人の支援に尽力した。

それでも批判がなかったわけではない。地元の司祭から暴行を受けたと訴える女性3人は昨年9月、司教だった当時のレオ14世が自分たちの訴えを徹底調査してくれなかったとして非難した。プレボスト名のXアカウントで生殖に関する権利と「ジェンダーイデオロギー」を批判する記事を共有したこともあり、LGBTQ+団体からは、レオ14世の就任によってペルーの宗教保守主義に火が付くかもしれないと危惧する声もある。

一方で、それ以外の分野に関するレオ14世の社会進歩主義については全般的に評価する声も多く、女性の権利団体代表は「教皇が突然女性の権利を守ってくれるようになるとは思わない。しかしもう少し人間的で、妊娠中絶する女性に対する偏見の少ない立場を取ってくれるだろう」と期待する。

黒い修道服に身を包んだ修道士ピペことルイス・フェルナンド・オブリタス神父/David von Blohn/CNN
黒い修道服に身を包んだ修道士ピペことルイス・フェルナンド・オブリタス神父/David von Blohn/CNN

チクラヨの郊外にあるアウグスティノ修道会の学校で教師をしている修道士のピペさん(30)は、2023年にレオ14世から聖職者に任命され、伝統にのっとってレオ14世に祝福を授けた。バチカンのコンクラーベでレオ14世が選ばれたのは、この祝福のおかげもあったかもしれないと冗談交じりに話す。

コンクラーベの様子を伝えるローマからの中継はユーチューブで見守った。レオ14世の名が告げられると、修道会の仲間たちから歓喜の声が上がった。

チクラヤノ教皇がいてくれるから、今は何だってできるとピペさんは言う。「ベネディクト16世が教皇の時はドイツがワールドカップで優勝して、フランシスコ教皇の時はアルゼンチンが優勝した。今度はロベルトが教皇だから、ペルーか米国のどちらかが優勝するだろう」

しかし、信仰以外にほとんど何も持たないアマリア・クルサードさんのような信者にとって、チクラヨの祝福は冗談ごとではない。

クルサードさんが住む地区ではお腹をすかせた子どもたちも多く、靴を買ってもらえない子どももいる。タクシーが未舗装路を走ると土埃(つちぼこり)が舞い上がった。リアウィンドウには「神の祝福」のステッカー。

夕べのミサの時刻になった。

9カ月の孫から79歳の父親まで、着替えて身だしなみを整えたクルサードさんの一家8人は広場に到着した。

クルサードさんは片腕に孫を抱えて父親を案内し、ライトアップされた教皇の肖像の前で写真を撮る人々の前を通り過ぎた。間もなく祈りが始まり、いつものように聖書の一説が朗読されて、チクラヨの新司教による説教が続く。

「パパ! アミーゴ!(教皇、友よ)、みんなが付いています」。信者たちが声をそろえる。

「教皇には2つの心がある。1つは出生地の心、もう1つはここ、私たちチクラヨの人たちのための心」とクルサードさんは言う。「彼は私たちの教皇です」

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