英、攻撃型原潜を最大12隻建造へ ロシアにらみ「戦闘準備態勢」入り
ロンドン(CNN) 英国は今後、新たな攻撃型原潜を建造し、核弾頭に投資して、「戦闘準備態勢」に入る方針を示している。スターマー首相が2日、スコットランドでの演説で明らかにした。
スターマー氏が示した計画によると、米豪との安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の一環として原潜を「最大」12隻建造し、2030年代末以降は現行の7隻と入れ替える。
また核弾頭に150億ポンド(2兆9000億円)を投資し、核抑止態勢の「歴史的刷新」を図る方針だ。
この日、演説の直後に発表された英国の「戦略的防衛見直し(SDR)」には、ロシアの侵攻を受けたウクライナの経験に基づき、自律化技術や人工知能(AI)の活用強化へ「ただちに」かじを取る方針が明記された。
スターマー氏は2日、「先進的な軍を持つ国家からの脅威に直接さらされた時、最も効果的な抑止の方法は準備態勢をとること。率直に言えば、こちらには力による和平実現の用意があると、相手に示すことだ」と述べた。
ただし、国防費増額の目標に向けた具体的なスケジュールは示そうとしなかった。この目標は「経済状況が許せば、次期議会の任期が終わる34年までに国防費の国内総生産(GDP)比を3%に引き上げる」という内容で、同氏が今年初めに打ち出していた。
スターマー氏はまた、新たな軍備の財源も明示しなかった。同氏はこれまでに、対外援助の予算を削減して国防予算の増額に充てると表明していた。2日の演説でも同様の動きに出る可能性を否定しなかった。
144ページに及ぶSDRの文書によれば、将来の部隊編成は有人車両がわずか2割で、残り8割のうち半分はドローン(無人機)のように再利用可能な装備、もう半分がロケットや攻撃型ドローンのような使い捨ての装備となる。
英海軍は「より強力ながら、より低予算でむだのない」艦隊を目指し、2隻の空母は英国だけでなく、欧州全体の航空機やドローンの基地に使われるという。
そして北大西洋の海の中では、無人潜水艇やセンサーがロシア軍の動きを監視する。
だが英シンクタンク、王立国際問題研究所のアナリスト、マリオン・メスマー氏によると、こうした戦力の一部は10年にもわたる投資、開発を必要とする。
一部の欧州諸国の予想によれば、ロシアはウクライナでの戦争終結後、6カ月から2~3年のうちに欧州との国境を脅かす態勢に入る可能性がある。10年はそれをはるかに超える年月だ。
とはいえ、SDRが示すように英国が核戦力への投資を強化し、欧州の抑止態勢に組み込まれる可能性も出てくれば、ロシアは神経を逆なでされることだろう。
英国が掲げる国防費増額の目標は、北大西洋条約機構(NATO)の一部加盟国を下回っている。
先月、NATOのルッテ事務総長は、今月の首脳会談で各国の国防費のGDP比を2%から5%に引き上げる合意が成立するとの見通しを示した。
NATOの昨年のデータによると、国防費のGDP比が4%を上回っていたのはポーランドだけだが、今後はラトビアとエストニアが5%まで、イタリアも3.5~5%に増やすと表明している。米国はGDP比3.38%で、NATO全体の合計額の約64%を占めていた。
メスマー氏は、数週間後にNATOが高い目標で合意しそうなのに、このタイミングで英国が事実上、GDP比2.5%までにとどめる方針を示したのは「少々危険に思える」と、CNNに語った。
NATOのリーダーでありたい英国の野心と、加盟国のうち中くらいにとどまる支出はつり合わないと、メスマー氏は指摘する。
スターマー氏は、英国を「戦闘態勢が整った装甲国家」にすることを目指すという/Andy Buchanan/PA/AP via CNN Newsource
ロシアの脅威に対抗
スターマー氏は2日、英BBCとのインタビューで「英国がロシアからの脅威を無視することはできない」と語った。
同氏が目指すのは、英国を「今後数十年にわたって、最強の同盟国と最も先進的な戦力を備え、戦闘態勢が整った装甲国家」にすることだという。
英下院国防特別委員会のフレッド・トーマス氏はCNNとのインタビューで、SDRを「大胆な計画」と評価し、軍の縮小でなく増強を主張した計画は1980年代以降で初めてだと述べた。
ただし英軍の現在の戦力は、東西冷戦が終わった89年当時の約半分。同年の国防費のGDP比は4.1%だった。
計画立案者らは、今後は機械が兵力を補うだろうと期待している。
SDRは軍が保有するあらゆるセンサーや兵器を並行して稼働させ、脅威の予告や意思決定の迅速化にAIを活用するよう提言した。
10倍の殺傷能力?
SDRは、通常の装甲部隊とAI、陸上ドローンを組み合わせ、軍の殺傷能力を現在の10倍にすると表明した。
だがメスマー氏によると、SDRの内容の一部については注意が必要だという。
「10倍の殺傷能力と言えば聞こえはいいが、もっと根拠を見せてほしい。私にとっては宣伝文句以外の何物でもない」と、メスマー氏は批判する。
英軍への投資はこれまで何十年も縮小を続け、通常兵器と核兵器による抑止力も疑問視されてきた。英国は過去8年の間に2回、核ミサイル実験の失敗を発表している。1発は米フロリダ州沖に落下した。