催涙ガス、ドローン、囚人軍団:ウクライナ兵が前線で見たロシアの猛攻
ガス攻撃から生還した2人の兵士がCNNに提示した医療診断書には、ガスの毒に冒されると記されていた。「まず煙が見えた」と兵士の1人はCNNに語った。「塹壕から走って逃げると、突然ガスが火を噴いた。塹壕は炎に包まれた。このガスは皮膚を焼き、視界を奪い、呼吸不全に陥らせる。すぐに喉の奥まで入り込む。1秒とかからなかった」
もう1人の兵士が付け加えた。「ガスを2回吸うと息ができなくなる」
兵士は顔面にやけどやみみずばれを負い、口の中や喉の中まで負傷したそうだ。けがの面影をたたえるかのように、2人の顔には今も赤みが残っている。
科学薬品が戦場で使用されているとの疑惑は、失った領地の奪還を目指して新たに戦闘を仕掛けるロシアの残忍さと、度重なる嘘(うそ)をあらためて物語っている。ウクライナはこの夏アゾフ海に向けて大きく前進を試みたが、現在はわずかに奪った領地を守るのに精いっぱいだ。
「とてつもない大きな変化が起きている」と司令官のイーホリは語った。「(ロシア軍は)自前のドローンを製造し始め、数の上で優勢だ。だが使い方ときたら、まるで子どものおもちゃのようにお粗末だ」
前線に配備されるロシア兵の数自体も悩ましい問題だとウクライナ兵は口をそろえる。「ふつうは肉を増やせばミンチの量も増える」とイーホリ。ロシア軍の将校が人命そっちのけで前線の「肉挽(ひ)き機」に兵士を送り込んでいることをほのめかしている。「だが時として機械がものを言うこともある。その点では向こうも成功している」
CNNは前線近くの小さな掩蔽壕(えんぺいごう)で、イーホリの指揮下にあるウクライナ軍ドローン部隊が付近の交差点でロシア軍を捕えようとする様子を取材した。2人のロシア兵が、食糧を積んでいると思しき担架をかついで塹壕から出てきた。ドローンが見つからないよう、操縦士は機体を呼び戻して迫撃砲の攻撃を要請したが、時すでに遅かったようだ。ロシアの電波妨害のせいか、ドローンとの通信が途絶えた。厳しい寒さと電波妨害で、ドローンのバッテリーの寿命が短くなることもあると兵士が教えてくれた。
イーホリは山のような問題を抱えている。負傷兵を撤退させるにしても、数少ない車両をロシアのドローン攻撃の危険にさらすことになる。前線の兵士にとって一番の懸念は、米国と欧州のウクライナ支援が危ぶまれている点だ。粒子の粗い一連のドローン映像には、裸になった並木と、砲弾の跡に横たわるロシアの負傷兵が映っている。人間が存在すること自体が信じられないほど、あまりにも凄惨な光景だ。
「支援なしでは、我々も持ちこたえられない」とイーホリは語った。