新型肺炎、アジアで流行も北朝鮮は「感染者なし」

中国本土で猛威を振るう新型ウイルスの感染者が北朝鮮では確認されていない/Cancan Chu/Getty Images AsiaPac/Getty Images

中国本土で猛威を振るう新型ウイルスの感染者が北朝鮮では確認されていない/Cancan Chu/Getty Images AsiaPac/Getty Images

韓国ソウル(CNN) 中国湖北省で新型コロナウイルスが発生してからおよそ2カ月。流行が拡大し、今や東アジアのほぼすべての国と地域で感染者が確認される事態となっている。しかし、そこに北朝鮮は含まれていない。

中国本土と国境を接し、世界で最も貧しい国のひとつであるにもかかわらず、公式の声明によれば北朝鮮はウイルスの侵入を食い止めることに成功している。中国国外では300人以上に陽性反応が出ており、この中には北朝鮮の隣国であるロシアと韓国も含まれる。

実際のところ、北朝鮮の半径2400キロ余りで感染者が確認されていない国は、人口の少ないモンゴルのみだ。

韓国・高麗大学教授で同国の国家安保戦略研究所所長を務めた南成旭(ナムソンウク)氏は、人口2500万人の北朝鮮国内にすでに感染者がいる公算が大きいとの見方を示す。北朝鮮国境に近い複数の中国の都市で感染者が確認されているほか、北朝鮮が感染拡大防止の措置をとる以前から両国をまたいで多くの人や車両、鉄道列車が行き来していたことが知られているためだ。北朝鮮の貿易のおよそ90%は中国相手のものとなっている。

平壌に滞在する外国人の体温を調べる北朝鮮の医療従事者 Yevgeny Agoshkov/TASS/Getty Images
平壌に滞在する外国人の体温を調べる北朝鮮の医療従事者 Yevgeny Agoshkov/TASS/Getty Images

北朝鮮国内のツアーを運営する旅行代理店によると、同国は予防的措置としてすべての外国人旅行者に対し国境を封鎖した。これらの旅行者の大半は中国人が占める。北朝鮮政府はエボラ出血熱の感染が広がった2014年にも同様の措置に踏み切っていた。

国営の朝鮮中央通信(KCNA)は1月30日、当局が「緊急事態」を宣言したと報道。国内各地に感染拡大防止のための対策本部が設置されると伝えた。今月3日には1月13日以降入国したすべての人が「医学的監視」下に置かれると報じた。さらに保健当局者らが「全国的な検査試料の流通システム」をすでに確立し、感染が疑われるケースについて直ちに診断できる態勢を整えているとした。

しかし、CNNの取材に答えた複数の専門家が、北朝鮮指導部の検査能力に対して懐疑的な見方を示した。また同国の秘密主義的性格の強さから、世界各国が北朝鮮の取った対策の実効性について把握するのは難しいとみられる。

防護服を着用し、平壌国際空港で検疫を行う作業員 Kyodo News/Getty Images
防護服を着用し、平壌国際空港で検疫を行う作業員 Kyodo News/Getty Images

北朝鮮は1990年代に起きた飢饉(ききん)の死者数も公表したことがない。専門家らはこの飢饉により最大200万人が死亡したと推計している。

米シンクタンク、ウッドロー・ウィルソン・センターのジャン・リー氏は「北朝鮮では基礎的な医薬品の供給も非常に限られており、保健当局者らは予防医学に注力しなくてはならない。設備も十分ではなく、いかなる種類の伝染病にも対応できないだろう」と述べた。

近近年脱北した複数の医師がしばしば証言したところによると、医師にとって北朝鮮の労働環境は劣悪で、医薬品から基本的なヘルスケア製品に至るまであらゆるものが不足している。2011年に脱北した元医師は、北朝鮮には感染症が疑われるケースについて医師向けのマニュアルがあるとしながらも、病院への搬送や施設に隔離したうえでの監視といった指示が守られることはないと説明。「病院や隔離施設に十分な食料がなく、人々は食べ物を求めて脱走してしまう」という。

一方、独裁体制による過酷な規制の下で市民社会が営まれていることが、公衆衛生の観点からはメリットになっているとの見方もある。北朝鮮国民の大半には移動の自由がなく、海外への渡航が許されている人はほとんどいない。移動が許可される場合でも、未発達の交通インフラが原因で国内旅行すら困難を伴うのが実情だ。

中朝国境を流れる鴨緑江で船を操る北朝鮮の人たち Tao Zhang/Getty Images
中朝国境を流れる鴨緑江で船を操る北朝鮮の人たち Tao Zhang/Getty Images

社会的な接触と地域間の移動に対する厳しい制限が常態化した現行の体制は、「あらゆるウイルスに対し、大規模な感染を食い止める助けになるだろう」と前出の元医師は指摘する。

国際社会からの制裁に苦しむ北朝鮮経済にとって、今回の国境封鎖は致命的な打撃となる可能性がある。

しかし、政治的には、新型ウイルスの脅威を口実に各国から距離を置きたいという金正恩(キムジョンウン)政権の思惑も透けて見える。ウッドロー・ウィルソン・センターのリー氏は、非核化をめぐる米国との交渉が暗礁に乗り上げるなか、「金氏はどうにかして時間を稼ぎ、国内外に向けた戦略を検討する必要があった。それによって交渉についてのメッセージも打ち出すことができるようになる」と分析。新型ウイルスの感染拡大が政権の政治的意図の達成に寄与しているともいえるとの認識を示した。

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