ニューヨーク(CNN) トランプ前米大統領による政権への返り咲きは、米国のメディアにとって一つの転換点となる。その変化が大きいのか小さいのかは、まだ定かではない。トランプ氏が大統領選でハリス副大統領を破ったことで、メディアの信頼性や影響力及びその視聴者を巡る疑問が浮上している。中には数年経たなければ答えられないような疑問もある。
それでもジャーナリストたちは互いに問いかけている。今回の選挙で起きた「レッドウェーブ(赤い波=共和党の圧勝)」は、米国における情報環境について何を伝えているのかと。
トランプ氏が5日投開票の大統領選を制して以降、忠実な支持者の一部は、トランプ氏の勝利によりニュースメディアが完全否定されたと断言した。6日午前のある時間帯、ウェブマガジン「フェデラリスト」の主要見出しはトランプ氏に関するものではなく、「大手メディア産業複合体」こそが「2024年の最大の敗者」だと主張する内容だった。
旧来のメディアは「公式に死んだ」。右派ニュースサイト、デイリー・ワイヤーのポッドキャスター、マット・ウォルシュ氏は、夜間のX(旧ツイッター)への投稿でそう言い切った。「論調を設定する彼らの能力は破壊された。トランプ氏は16年にメディアに宣戦布告した。今夜、彼は相手を完膚なきまでに打ち負かした。彼らが重要な存在になることは金輪際ないだろう」
これはあくまでもウォルシュ氏の立場からの希望的観測だ。5日の長時間にわたる大統領選報道が、メディアの重要性を証明している。しかし問題は、トランプ氏に投票した多くの有権者がウォルシュ氏の希望を共有していることにある。彼らは全国規模のニュースメディアが米国を悩ませる問題の大部分を占めていると考える。単に記事の内容を信用しないだけではなく、そもそも記事自体を読まないことも多い。これで状況を変えることなど出来るだろうか?
ニューヨーク誌に最近掲載されたコラムからの引用が、この疑問につながる。引用は匿名のテレビ局幹部の言葉で、6日午前にソーシャルメディアで拡散した。この幹部は「トランプ氏が大統領にふさわしいと国の半分が判断したとすれば、それは彼らがこちらのメディアの記事を一切読んでいないことを意味する。我々はこれらの視聴者を完全に失ったということだ」と発言。「トランプ氏の勝利が意味するように、現行の形態での主流メディアは既に死んでいる。問題は今後メディアがどのような姿になるのかだ」と指摘する。
当然「死んでいる」というのは全くの誇張だが、このコメントは多くのメディア人が抱える本当の懸念を反映したものだ。トランプ氏の支持基盤の間で、大手メディア機関に対する信頼は激烈なまでに失われている。トランプ陣営のある側近はテキストメッセージで、メディアはもっと謙虚になるべきだと提言していた。
そこで別の疑問が浮上する。果たして大手テレビ局や出版社には、トランプ支持者の大多数の見方を反映するコラムニストやコメンテーターが十分存在しているのだろうか?
主流メディアの影響力は「4年ごとに弱まっている」と、米ニュースメディア「セマフォー」のデーブ・ウィーゲル氏は6日の午前に書いている。「ハリス氏寄りのケーブルニュースでは、元共和党員たちがトランプ氏という人物やその行動に対する自分たちの恐怖を伝えている。新しいソーシャルメディアや共和党員が好むポッドキャストにしてみればそれらは全て泣き言であり、有権者が本当に関心のある事柄とはかけ離れていた」
CNNの政治担当コメンテーター、スコット・ジェニングス氏は、選挙特番の午前3時台にその点を強調。トランプ氏の勝利は、「政治情報を扱う企業体に対する告発のようなもの」だと述べた。
「我々は過去数週間、ただ座って時間を過ごしてきた。その間描かれていた物語は事実ではなかった」とジェニングス氏。トランプ氏側の失言など些末(さまつ)な話を選挙の情勢変化の要因として取り沙汰する一方、インフレの影響といった選挙の根本的な争点を無視していたと振り返った。
その上で、「選挙報道に連日携わり、選挙について論じてきた我々全員が、国民の半分に対してどのように伝え、その声を聞けばいいのか理解する必要があると思う。彼らは今夜立ち上がり、『もうたくさんだ』と訴えた」との見解を示した。
リベラル派のコメンテーター、アシュリー・アリソン氏はこれに反応し、「あらゆる人の声を聞かなくてはならないというのが本当のところだろう」「カマラ・ハリスに投票した人々も苦しんでいる。彼らもまた、無視されたと感じている。共和党員の痛みと民主党員の痛みに大小の違いは存在しない」と述べた。
メディアを待ち受けるもの
過去の事例が何らかの指針になるとすれば、トランプ氏がニュース報道に満足することは絶対にない。同氏が求めるのはより融通の利く、プロパガンダ向きのメディアであり、圧倒的に自身を支持するFOXニュースに対してさえ日頃から不平を漏らしている。先月、トランプ氏はFOXに君臨するメディア王ルパート・マードック氏に向け、同局が民主党の選挙広告を放送していると苦情を述べていた。
従って、トランプ氏の再選が予見するのは、主要メディアとの新たな敵対の時代に他ならない。公平な報道に努めるメディアのみならず、党派的なメディアであっても同氏に異議を唱えれば敵とみなされるだろう。ここからさらに一連の疑問がわき起こる。
トランプ政権は、メディアに否定的な同氏の発言を実際の行動に移すのか? 今年に入って何度となく示唆している通り、テレビ局の放送免許を剥奪(はくだつ)する措置に踏み切るのか? ホワイトハウスへのメディアのアクセスを制限し、気に入らない記者は出入り禁止とするのか?
もっと言えば、やがてはメディアも自己検閲に走り、トランプ氏に譲歩することになるのか? その場合、トランプ氏に反対する読者や視聴者はどう反応するだろうか?
6日午前、メディアの幹部やオーナーたちは社員らを安心させるべく、自分たちが後ろ盾となって今後の不透明な月日に備える意向を表明している。「今やかつてないほど、我々の意志は強固なものとなっている。自分たちの使命として、独立したジャーナリズムという原則を守っていく」。コンデナストを率いるロジャー・リンチ氏はスタッフ向けのメモにそう記した。「合衆国憲法で保護されているように、独立したメディアが活況を呈することは民主主義と我々全員の共有する未来にとって極めて重要だ」
◇
本稿はCNNのブライアン・ステルター記者の分析記事です。