日本の滑走路での衝突事故、米国で浮上する緊急避難の新たな疑問

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日本航空機、羽田空港に着陸後に炎上

(CNN) 飛行機の衝突事故に巻き込まれた乗客は、暗闇の中で赤の他人と肘(ひじ)がぶつかるほど接近した状況に置かれ、座席と残骸をかき分けながら出口を探すという生死を分ける事態に直面する。

今月2日、日本航空516便に乗っていた400人近い乗客はそうした状況から避難し、緊急脱出スライドを滑り降りて生還したが、それ以前から米政府内では航空機の避難手順の見直しを求める圧力が高まっていた。

死者を出した今回の事故では、東京羽田国際空港の滑走路に着陸した日本航空の機体が海上保安庁の航空機と衝突し、大炎上した。

ジェット旅客機の狭く薄暗い客室で、煙が充満して混乱した中、米国人は2日夜の搭乗客379人のように速やかに脱出できるだろうか。問題はそれだけではない。コンパクトになった座席や客室内の新たな危険要素が、安全な脱出の妨げになるのではないか。

乗務員12人と子ども8人を含む搭乗者は全員、機体が全焼する前に無事脱出した。滑走路上での衝突事故で、被災地に向かっていた海上保安庁機の乗組員5人が死亡した。

「これが米国で起きていたら、手荷物やノートパソコン、携帯電話などを持ち出したいという執着心から、全く違う状況になっていただろう」。米連邦航空局(FAA)の元職員で、現在はCNNの航空アナリストを務めるデービッド・スーシー氏はこう語った。「そのせいで全員を避難させることができないのではと時々心配になる」

炎上する機体からの避難に実際どのぐらいの時間を要したのかはわかっていない。日本の放送局NHKの報道によると、機長が最後に避難した際には着陸から18分が経過しており、FAAが基準として設定する90秒の避難時間をはるかに超えていた。機長が乗客の避難を見届けた後、緊急手順を完了するまでどのぐらい機内に留まっていたのか定かではない。

現在、国際チームが衝突事故の調査を行っている。ここまでわかっている情報によると、日本航空のエアバス社製広胴型ジェット機が着陸を許可された滑走路に、海上保安庁の航空機が誤って進入したようだ。

乗客いわく、避難時間は約5分

大きな爆発音の後、機体が停止し、乗務員はどの緊急脱出口が安全かを確認した。幼い乗客がフライトアテンダントに、早く降ろしてくださいと丁寧に頼む声が聞こえる。乗客の1人は、「ほぼ全員が落ち着いて」避難ドアの開くのを待っていたと報道陣に語った。別の乗客によると避難の所要時間は5分程度で、「パニック状態の乗客は見られなかった」そうだ。

CNN航空アナリストのマイルズ・オブライエン氏は、「結局のところ、乗客自身が自らの命を救った。手荷物を取ろうとせず、比較的整然と席を立ち、脱出スライドを滑り降りた。その結果、全員が無事脱出できたのだ」

衝突事故を受けて今後何らかの対策を講じるのかというCNNの質問に対し、FAAは「教訓として学べることはないか」つねに海外の調査を注視していると答えた。

FAAの客室基準では、出口の半分が使えなくなった状態でも90秒以内に脱出できなくてはならない――大惨事が起きた後の混乱状態では、決してたやすい作業ではない。連邦規定でも、新型モデルや設定変更をした航空機は必ず避難試験を受けなければならないと定められている。試験では「健康な状態の乗客の代わりとなる搭乗者」として、女性や50歳以上の乗客の他、2歳未満の児童の代用としてダミー人形を一定数搭乗させることが義務付けられている。

2018年、米議会はFAAにさらなる対策として、座席のサイズや足元のスペース、通路幅の他「乗客の年齢分布などに変化が生じた場合」、旅客機の避難手順に問題がないか調査するよう命じた。

FAAは22年に報告書を公表し、「今回の調査で使用した座席とほぼ同じ、または小さい座席の場合、現行の座席幅で99%の米国人を避難させることが可能で、支障はない」と報告した。

だが報告書では、FAAの最新の試験が今日の客室の状況とは似ても似つかないことも判明した。通路が1列の旅客機では搭乗客が100人を超えるのが常だが、試験では60人しか搭乗せず、子どもや高齢者、車いすや介助動物を必要とする乗客はいなかった。この件についてFAAが一般から意見を求めたところ、2万6000件ものコメントが寄せられた。

新たな試験を求める声

イリノイ州選出のタミー・ダックワース上院議員は、試験が実情を反映していないことが知れれば国民は衝撃を受けるだろうと語った。同議員は新たな試験と座席サイズの基準を義務付ける法案を繰り返し提議しているが、議会は他の航空政策問題をめぐって膠着(こうちゃく)状態にあり、今のところ進展はない。

ダックワース議員はCNNに宛てた声明の中で、日本航空で明らかになったように、FAAは「可能な限り安全な空の旅の実現に向け、手荷物や子ども、高齢者、障害者の乗客の存在といった実情を踏まえた上で、今こそ緊急避難基準を定める」べきだと述べた。

FAAは報告書について、「繰り返し実施した避難訓練の結果と各種勧告が盛り込まれている」とCNNに語った。

かつてFAAで検査官と調査員を務めたスーシー氏いわく、FAAは徹底した避難試験を行っているという。時には試験に参加した生身のボランティアが負傷することもあるそうだ。だが、現実に起きた避難事例の検証に勝るものはない――かつてないほど安全な空の旅が約束された時代においては貴重な機会だ。

今回の調査で収集される情報は「非常に役立つ」と同氏は語る。調査員は今回日本で発生した事故を精査し、「避難に関するこれまでの想定が正しかったかどうか」判断する。

調査が進められる一方で、航空業界では乗務員の対応に対する称賛の声が広がっている。

米国の労働組合「客室乗務員協会」のサラ・ネルソン会長は、「我々はあらゆる業務を任され、適性を認められている」と語る。また「客室乗務員の人数は、航空機の避難認証と直接関わってくる。客室乗務員が機体に搭乗する根本的な理由もそこにある」と付け加えた。

ネルソン氏は、この70年航空機の避難手順が十分に改訂されていないことにも懸念を抱いている。離陸前の緊急時対策の説明で、命に係わる情報に注意を払う乗客は多くない。

516便から脱出した乗客のイワマ・アルトさんは、飛行機に乗ると緊急脱出についてのビデオが流れると報道陣に語った。今回の一件で、あのビデオをしっかり見て頭に入れておかなくてはと実感したという。

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