バイデン氏当選を後押ししたイスラム系有権者、ガザ対応で支持に迷い 米ミシガン州

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米ミシガン州のイスラム系有権者、ガザ危機受けバイデン氏支持に陰り

ミシガン州ディアボーン(CNN) 2020年、米ミシガン州に住むエマン・ハムードさんはバイデン大統領(当時候補)に一票を投じ、トランプ前大統領に対する勝利を後押しした。パレスチナ系移民の弁護士であるハムードさんは1カ月前の時点では、24年大統領選で再びバイデン氏を支持することに何の迷いも持っていなかった。

しかしハムードさんはここ数週間、イスラム組織ハマスによる10月7日の襲撃を受けて宣戦布告したイスラエルに対し、バイデン政権が揺るぎない支持を表明する様子を目の当たりにしてきた。ガザ地区で大勢の民間人が犠牲となっている状況にもかかわらず、バイデン政権はイスラエルにレッドライン(越えてはならない一線)を示すことも、停戦を呼び掛けることもしていない。いま、ハムードさんは自分がどうすればいいのか分からなくなっている。

ハムードさんはCNNの取材に、「バイデン氏の対応により我々は非常に難しい状況に置かれている」「ここ数週間のバイデン氏のような立場を取る人物に投票することは道義上、不可能に近い」と語った。

アラブ系やイスラム教徒の米国人は人口に占める割合こそ少ないものの、ミシガン州のような激戦州では大きな影響力を持つ。ハムードさんのように、バイデン政権に裏切られ傷ついたと感じている有権者から拒絶されれば、バイデン氏は同州での勝利も再選も危うくなる。

イスラム系米国人の政治力確立をめざす団体「エムゲージ」の分析によると、ミシガン州に住むイスラム系有権者の数は20万人あまりで、20年大統領選ではそのうち14万6000人が投票した。バイデン氏はこの年、16年にトランプ氏が僅差(きんさ)で押さえたミシガン州を15万5000票差で制した。

エムゲージのミシガン州責任者、ナダ・ハヌーチ氏は「これはバイデン政権の勝利にイスラム票が必要なことを証明している」との見方を示す。

住民の過半数が中東や北アフリカにルーツを持つデトロイト近郊ディアボーンでは、イスラム票の重要性がとりわけ大きい。

バイデン陣営に投票したり、選挙活動の支援や献金を行ったりした経験を持つ地元の民主党支持者はインタビューに対し、いまバイデン氏に投票することは想像できないと口をそろえた。たとえバイデン氏が、住民の要望の筆頭に上がるガザ即時停戦を支持したとしてもだ。

選挙は往々にして二者択一の選択になる。イスラム・アラブ系の有権者はCNNに取材に対し、ガザ支援の拒否やトランプ氏のイスラム圏入国禁止令の復活など、パレスチナや中東の人々の状況を一層悪化させる政策を共和党の予備選候補者が掲げていることは認識していると語った。それでも一部の有権者は恐怖感を口にする。具体例として挙がるのはイスラム恐怖症の高まりや、ヘイトクライム(憎悪犯罪)の疑いで捜査が続く先月のパレスチナ系少年(6)刺殺事件だ。

バイデン陣営の広報担当者アマル・ムーサ氏は声明で、「大統領と政権の立場ははっきりしている。イスラム恐怖症や外国人嫌悪、あるいは我々が最近目にしているような卑劣な人種主義のための場所は存在しない」と指摘。「MAGA(米国を再び偉大に=トランプ氏のスローガン)を奉じる共和党候補はあからさまなイスラム恐怖症政策を掲げて選挙活動を続けており、その中にはトランプ氏のイスラム禁止令を改めて支持することも含まれる。来年の選挙はこれ以上ないほど重要になる可能性がある」と述べた。

ただ、バイデン氏を支持したイスラム教徒やアラブ系米国人の多くは、再選を支持したり、友人や家族にバイデン氏支持を呼び掛けたりすることは想像できないと話す。

「間違いなくバイデン氏はミシガン州で問題を抱えている」。そう語るのは民主党のストラテジスト、アッバス・アラウィー氏だ。同氏はディアボーンを地盤とするラシダ・タリーブ下院議員の議会事務所で働いた経歴を持つ。「この問題の政治的な影響は、人々が受けている傷と同じくらい根深い。それこそ骨に到達するほど深い傷だ」と語った。

ミシガン州におけるイスラム系有権者の政治力は地方レベルで見て取ることができる。18年にパレスチナ系米国人として初めて連邦議会議員に当選したタリーブ氏は今や、イスラエルや米政権のガザ紛争への対応を最も声高に批判する人物の一人だ。

21年には、元州議会議員のアブドゥラ・ハムード氏がアラブ・イスラム系の米国人として初めて、ディアボーン市長に選出された。ハムード氏もバイデン政権の対応には批判的で、イスラム・アラブ系米国人は24年大統領選で誰に投票するのかという問いの前提そのものを拒絶する。

「人間であることを認めてもらうために自分たちを安売りする考えはない」「私の考えでは、問いはむしろ選挙で選ばれた当局者や、出馬した候補者に向けられるべきだ。あなた方は選挙の行方を決めるために何をしてくれるのか、と」(ハムード氏)

多くのアラブ系米国人にとって、バイデン氏がイスラエルを強力に支持していることは経歴を考えれば意外ではない。しかし、深い思いやりの心を持つ「最高共感責任者」というバイデン氏のイメージはここ数週間で損なわれた。バイデン氏は最初の妻と幼い娘を交通事故で失い、15年には長男ボー氏を脳腫瘍(しゅよう)で亡くしている。そうした私生活の悲劇が他者の苦しみに寄り添う助けになっているとのイメージがあった。

「子どもを亡くしているバイデン氏なら、中東で起きていることに共感できると思っていた。明らかに間違いだった」。20年にミシガン州バイデン陣営の現場責任者を務めた経験を持つパレスチナ系米国人、アダム・アブサラフ氏はそう語る。

ガザ地区やヨルダン川西岸地区に暮らす親戚のことを思うと、いまはバイデン陣営の支援に携わったことにいくぶん罪悪感を感じるという。

「私はこの男への支持を訴えるために戸別訪問した」「罪悪感を感じるし、バイデン陣営での活動を心から後悔している」(アブサラフ氏)

CNNの取材に応じたイスラム教徒やアラブ系の米国人は、先月の衝突発生以降、バイデン政権の失策が相次いでいると指摘する。米国は先月18日、「人道的休止」を呼び掛ける国連安保理の決議案に拒否権を行使。米国家安全保障会議のカービー報道官は、イスラエルの「越えてはならない一線は引かない」と表明した。バイデン氏自身、ガザの民間人を保護するイスラエルの取り組みは十分かと聞かれ、ハマス支配下のガザ保健省が報告するパレスチナ人の死傷者数に公然と疑問を投げかけた。その後イスラム系米国人の指導者と行った非公開会合では、死者数に関する発言はハマスとパレスチナ人を区別するためだったと説明した。

ホワイトハウスのパターソン報道官は声明で「大統領執務室からの演説で述べたように、バイデン氏はパレスチナの人命の痛ましい喪失に心を痛めている」「我々は引き続きこうした重要コミュニティーとの対話を行い、彼らに対するヘイトや差別を明確に非難していく。大統領の発言にある通り、我々は二国家解決に向けた取り組みを続ける必要がある」としている。

ホワイトハウスはこのところ、政府内外のイスラム・アラブ系米国人の声に耳を傾ける姿勢を示している。ハマスによる10月7日の襲撃後、ザイエンツ大統領首席補佐官とダン上級顧問はイスラム・アラブ系の上級当局者と会合を持ち、アラブ系コミュニティーから聞こえてくる声について協議して改めて支援を表明した。会合に参加したホワイトハウス当局者が明らかにした。

ただ、会合は必ずしもうまくいっていない。ガザへの人道支援について話し合う目的でホワイトハウス公共関与局が3日午前に開催したズーム会合の参加者2人によると、バイデン政権の当局者はこの席で、一部のアラブ系米国人の票を失ったとはっきり告げられたという。

ホワイトハウス西棟で2日に行われたバイデン氏とイスラム系有力者の別の会合では、エムゲージのアルザヤト最高経営責任者(CEO)が大統領に対し、最近の発言にはパレスチナ人への共感を欠いたものが見受けられると直言した。

ここにきて米政権は人道目的の戦闘休止を呼び掛け始めている。ブリンケン国務長官は先週の国連安保理会合で、ガザ地区への支援搬入を目的とした「人道的休止を検討する必要がある」と表明。3日にテルアビブでイスラエルの指導者と会合した後も、重ねて戦闘休止を要請した。米ミネアポリスで1日夜に開催された資金集め集会では、停戦を求める抗議者によってバイデン氏の発言が遮られる場面があった。バイデン氏は、ガザで拘束中の人質の解放を念頭に人道的休止を支持するとしている。

ただ、「休止」は停戦ではないと、ミシガン州ウェイン郡のサム・ベイドゥン郡政委員は指摘する。

「人道的休止とは一体、何を意味するのか」。15歳でレバノンから米国に移住したベイドゥン氏はそう問いかけ、「なぜ無条件停戦と言わないのか」と疑問を投げかけた。

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