OPINION

ロバート・ケネディ・ジュニア氏、自らに大統領の資格ありと考える信じられない理由

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9月15日、LAで開催された中南米系米国人向けの集会で演説するR・F・ケネディ氏/Mario Tama/Getty Images

9月15日、LAで開催された中南米系米国人向けの集会で演説するR・F・ケネディ氏/Mario Tama/Getty Images

(CNN) ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、現状に異議を唱えることでキャリアを築いてきた。その仕事の中には、長い期間を費やしてハドソン川の水質浄化に取り組んだ環境弁護士としての活動など、広く称賛を受けるものもある。

ピーター・バーゲン氏/CNN
ピーター・バーゲン氏/CNN

しかしこの数年、同氏はますます異端的な立ち位置を占め、信頼に足る証拠が何もない陰謀論を広めている。たとえば以下のような内容だ。学校で銃撃事件が起きるのは、抗うつ剤のせいかもしれない。ワクチンは自閉症の原因になる。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)はエイズの原因ではない可能性がある。そしてWi―Fiは脳漏れ症候群(リーキーブレイン、訳注:脳にある血液脳関門が正常に働かず、容易に有害物質が脳に到達してしまう状態)とがんを引き起こす。

ケネディ氏は新型コロナワクチンの有効性についての科学的な合意もほとんど受け入れず、2022年1月にワシントンで開かれた集会での言動は広く世間を驚かせた。この場で同氏は、パンデミック(世界的大流行)に対する安全手順をナチスがドイツで実権を握っていた時代に施行した複数の対策になぞらえたとみられる。そうした発言には大きな非難の声が上がった。自身の妻で俳優のシェリル・ハインズ氏でさえ非難に加わり、ケネディ氏は謝罪するに至った。

数カ月後、同氏は単純に誤解があったと説明。実際にはより広い議論を展開していたのであり、今日の監視技術の過剰な進展によって、どんな政府も市民を前例のない水準で監視できるという点を指摘したのだと述べた。4月に出演したCNNの番組で、司会のマイケル・スマーコニッシュ氏にそう告げた。その上で「将来、全体主義の体制が我々を監視し、我々の生活に入り込んでコントロールできるようになるだろう。過去には絶対に起こらなかった手法で」と語った。当然、我々の世界に存在する監視の水準は、誰であれプライバシーを気に掛ける者にとって心配な事柄なのは間違いない。

現在、ケネディ氏はバイデン大統領に対抗して民主党の予備選に臨んでいる。今月公表されたCNNの世論調査の結果は、バイデン氏にとって厳しい知らせとなった。民主党に投票する公算の大きい有権者の3分の2が、本選に向けた党の指名候補をバイデン氏以外にするべきだと回答したのだ。またおよそ半数が、バイデン氏の年齢を最も懸念していると答えた。

ケネディ氏のような候補には、ちょっとしたチャンスが生まれたことになる。69歳の同氏はバイデン氏より丸々10歳若い。陣営は先ごろ、本人が腕立て伏せをする動画をソーシャルメディアに公開した。ただCNNによるニューハンプシャー州での先週の世論調査では、予備選で民主党に投票する公算の大きい有権者のうち、78%がバイデン氏を支持するとの結果が出た。同州は早い時期に予備選を開催する州として知られる。 ケネディ氏の支持率は9%だった。

筆者は先月末、マンハッタンでケネディ氏に対面でのインタビューを行った。筆者自身のポッドキャスト番組のための取材だ。

インタビュールームに入ってきたケネディ氏は、威厳に満ちた存在感を漂わせていた。長身に日焼けした肌。射るような鋭い視線を放つ青い瞳。複数のボディーガードが目立たないようにそばに控える。

インタビュー中、同氏が発したいくつかの主張は、本人に大統領となる資格がないことを明確に示すものだった。具体的には、新型コロナワクチンが多くの人命を救ったことに異議を唱え、9・11米同時多発テロの原因を巡る公式の説明に疑念を示した。自分ならウクライナでの戦争を終わらせることができるとも断言した。方法はロシアのプーチン大統領との交渉によってのみだという。さらに、メディアは製薬業界のために働いているとの考えも明らかにした。

ついでに言うと、仮に同氏が大統領に就任すれば、公職に就いたことがなく、軍隊経験も一切ない大統領が誕生するわずか2人目のケースとなる(1人目はドナルド・トランプ氏だ)。

ケネディ氏とメディア

インタビュー中、ケネディ氏は見境のない言い方で物事を強く疑う態度の必要性を説いた。「人々は今や政府を信用するべきではない。信ずるには値しない」。そしてこうも主張した。「メディアは常々うそをつく。(中略)主義や主張の宣伝に従事する気のない人間が、主流メディアで生き残れるとは思えない」

筆者は思わず、CNNのキャスターを務めるアンダーソン・クーパー氏について質問した。ケネディ氏はクーパー氏に対し、巨大製薬企業のファイザーから給料を支払われているとする誤った、かつ奇妙な非難を展開していた。

筆者への回答の中で、ケネディ氏はこの告発の範囲を拡大。「厳密には、ニュース業界全体が製薬会社のために仕事をしている」と語った。

筆者は一定の形式、形態でニュース業界に携わってきてほぼ40年になるが、そんな話は全く初耳だ。自分はその主張を裏付ける証拠を一切目にしていないとケネディ氏に告げたところ、こう尋ねられた。「つまり私とのこうした会話を、CNNで流せるということだろうか?」

筆者は質問した。「彼らの番組に出演したことは?」

「ない。あるわけがない」とケネディ氏。

実際には出演したことがあると指摘した。4月に流れたスマーコニッシュ氏とのインタビューがそれだ。ケネディ氏はその通りだと認めたが、「あれは例外だ」と言い添えた。

ケネディ氏によれば主流メディアは製薬会社お抱えの宣伝要員ということになるが、このような描写は馬鹿げている。それは同氏の全体的な衝動の一部であり、ある種の大掛かりな陰謀論の実態を描き出したいとの強い欲求がそこにある。陰謀の目的は同氏を黙らせることだとされるが、実際のところ同氏を取材対象として大々的に扱うメディアは数多く存在する。

9・11

ケネディ氏は9・11の背後に誰がいたのか疑問を呈しているが、これ以上に徹底的な検証がなされた事件というのはまずない。連邦捜査局(FBI)は史上最大規模の捜査を実施し、50万件を超える手掛かりを追跡。16万7000人以上の目撃者から話を聞いた。超党派の専門委員会も、2年の調査を経て正式な報告書を作成している。結論は、オサマ・ビンラディン容疑者率いる国際テロ組織アルカイダが9・11の攻撃を実行したというもので、圧倒的な証拠がこれを裏付けている。

それでもケネディ氏は筆者にこう言った。「9・11で何が起きたのかは分からない。公式の説明がどのようなものかは理解している。意見の相違があることも理解している。それを検証してみたことはない」。その上で、いくつか「奇妙なことが起きた」と付け加えた。たとえばワールド・トレード・センター(WTC)の敷地内にあるビルの1つ、第7ビルは、航空機が直接激突していないにもかかわらず崩壊したという。

政府の公式報告書によれば、第7ビルの崩壊は巨大なWTCの北タワーから落下した残骸の直撃を受けたのが原因だった。これより前、北タワーにはハイジャックされた旅客機の1機が突っ込み、巨大な火の玉を作り出していた。北タワーからの残骸は第7ビルに落下し、火災を引き起こした。それが同ビルの崩壊につながった。「奇妙なこと」は何もない。

ウクライナでの戦争

ケネディ氏は自身をバイデン氏に代わる選択肢と位置づけている。その部分的な根拠として、現大統領が米国をロシアとの核戦争に近づけているという危惧を挙げる。

ケネディ氏によると、バイデン政権もまたウクライナの現状に対して大きな責任を負っている。具体的には「国務省とホワイトハウスの中にいるネオコン(訳注:新保守主義<ネオコンサバティズム>に同意する保守派)たち」に言及し、「彼らがロシアとの対立を望んでいる」と指摘した。

その上で「プーチン氏はウクライナを乗っ取りたかったわけではない。我々を交渉のテーブルへと戻したかったのだ。ところが我々はそれに協力しなかった。平和を望んでいないからだ」と付け加えた。

実際には広く知られているように、プーチン氏が自ら戦争を起こした。本人は一方的な侵攻により、すぐに勝利を収められると踏んだが、目算に反してウクライナ人は1年半にわたり抵抗を続けている。米国及び他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国の支援を受けながら。

ケネディ氏は次のような懸念を示す。「我々はプーチン氏を追い詰めてしまった。彼は既に明言している。国の存亡がかかる場合には核兵器を使用すると。向こうが使えば、我々も自分たちのものを全て使う。そういうことだ」

その上で、自分にはウクライナでの戦争を終わらせる計画があると付け加えた。プーチン氏との核の応酬に陥る可能性にもそれで終止符を打てるという。「仮に私が最高司令官(=大統領)なら、彼はそのような行動に出ないだろう。相手がこの戦争を解決しようとしている人間だと悟るはずだから」

プーチン氏が真に交渉を望んでいるとする主張に関しては、希望的観測に思える。このロシアの指導者は長年にわたって各地への侵攻を繰り返してきたからだ。たとえば1999年にはチェチェン、2008年にはジョージア、14年にはウクライナ東部へのロシア軍の侵攻をそれぞれ命じた。また15年には相当数の空軍兵力をシリアに送り、アサド大統領の独裁体制を支えている。ウクライナの民間人を狙った過去1年半の無差別攻撃については言うまでもない。

新型コロナ

ケネディ氏はかねて米国政府による新型コロナのパンデミックへの対応を批判してきた。それが追い風となり、普通なら成り立ちそうもない連合体のリーダーに上り詰めた。同氏の支持者は政治的な党派を超えて集まってくる。彼らは共通の特徴として、企業と政府機関に対し根深い不信感を抱いているように見える。

パンデミックが最も猛威を振るった21年、ケネディ氏は “The Real Anthony Fauci: Bill Gates, Big Pharma, and the Global War on Democracy and Public Health(仮訳:「アンソニー・ファウチの真相:ビル・ゲイツ、大手製薬会社、そして民主主義と公衆衛生に対する地球規模の戦争」)”と題された書籍を出版した。米紙ニューヨーク・タイムズによると、同書はこれまで100万部以上を売り上げている。

オーディオブック版は出版から2年が過ぎた現在も、同紙のノンフィクション部門でベストセラーにリストアップされている。

著書の評判に驚いているかどうか尋ねると、ケネディ氏はこう答えた。「相当厳しい検閲を受けた事実を踏まえるなら、驚いている」

「100万部売れた書籍が、どうやって検閲されたというのか?」

「書評を載せた主要紙が一紙もなかった。黙殺された」

将来のパンデミックを防ぐ自身の解決策として、ケネディ氏は次のように述べた。「手始めに最も有力な疫病の原因を取り除くだろう。それが第一だ。世界中で行われている『機能獲得』の研究がそれだ」

「機能獲得」研究はウイルスの人為的な操作に関わるもので、実施すればある病原体が人類にとってより危険になる結果をもたらす恐れがある。一方、プラスの面としては、ワクチンの開発もこの研究によって可能になる。

ファウチ博士についての自著の中で、ケネディ氏は同博士が「機能獲得」研究に「惜しみなく投資」したと主張。結果的に「世界的な疫病蔓延(まんえん)の引き金を引く役割を果たした可能性がある」と指摘している。ファウチ博士は米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の前所長。トランプ、バイデン両政権下における新型コロナ禍対応で重要な役割を演じた。

21年、ファウチ氏はヤフー・ニュースの取材に答え、ケネディ氏の著書に言及。同書が自身のキャリアを攻撃し、米国の公衆衛生システムへの信頼を失わせているのは「恥辱だ」との認識を示した。「大変に遺憾なことだ。なぜなら彼は本質的には悪意のある人物ではないから」「ただ非常に混乱した状態にあるのだと思う」(ファウチ氏)

米諜報(ちょうほう)機関が最近機密解除した新型コロナの起源にまつわる評価文書が6月に公表された。それによれば米諜報機関の「ほぼ全て」が、新型コロナの原因となるウイルスについて、遺伝的に操作されたものではないとの評価を下している。

同じ報告書はこうも結論付ける。ウイルスの起源は「感染した動物への自然暴露」もしくは「研究所が関連した」偶発的な漏洩(ろうえい)のどちらかだと。つまり端的に言って、新型コロナの起源に関する決定的な答えは存在しないということだ。

筆者はケネディ氏に対し、新型コロナワクチンで死亡した人の数はそれによって命を救われた人の数を上回ると思うかどうか尋ねた。同氏はこう答えた。「私が扱おうとしているのは実際の科学であって臆測ではない。あなたに言いたいのは、我々にその判定は下せないということだ」

しかしブラウン、ハーバード両大学はその判定を下している。それによると、新型コロナワクチンを利用していれば21年1月から22年4月の間に少なくとも31万8000人の米国人の死亡を防げた可能性があるという。

そして新型コロナワクチンが人命を救ったかどうかを巡り、何か本質的な議論が存在すると考えるのも不合理な話だ。独立系団体のコビッド・クライシス・グループが今年発表した正式な報告書は、21年のデルタ株及び22年のオミクロン株の流行期について、「当時病院搬送された患者の大多数がワクチン未接種だった」と明らかにしている。

最高司令官になる準備は万全?

筆者はケネディ氏にこう告げた。「あなたは公職に就いたことがなく、軍隊経験も一切ない。そうした人物が米国の大統領になるのは2人目で、1人目はドナルド・トランプ氏だ。では何をもって、最高司令官(大統領)になる準備ができていると言えるのか?」

ケネディ氏の説明はこうだ。自分は外交政策と国家安全保障の問題に関し、執筆活動を通じて50年以上にわたり深く携わってきた。1974年、アトランティック誌に発表した記事を皮切りに、直近ではシリア内戦について政治専門紙ポリティコに寄稿したという。

いくらか外交関係の記事を書いた経験があるというだけでは、次期最高司令官の地位に就く論拠として薄弱に思える。

そうは言ってもインタビューの間、ケネディ氏からは高い教養を身に着けた人物という印象を受けた。米国の歴史に造詣(ぞうけい)が深く、気候変動のような話題にも詳しい。本人の家庭環境やハーバード大学で学んだ実績を考えれば、これは驚く話ではない。環境弁護士としてのキャリアもある。

理解に苦しむのは、9・11のような十分に捜査された事件に関する正式な説明に対して疑念を抱く点だ。米国のメディアを製薬業界の使い走りと捉えているのもいただけない。

当然ながらジャーナリストも他の人間と同様、間違いを犯すことはある。しかしだからと言って、大手製薬企業を支える巨大な陰謀が存在することにはならない。こうした陰謀論は、同氏の掲げる主要なテーマの一つとなっている。

名高い米国の政治一家に生まれついた者として、同氏は自らを体制に立ち向かうアウトサイダーと位置付けている。自身の力でその体制を主導できるとも考えている。

大統領になる資格について、ケネディ氏が示したい要点は次のことであるらしい。「歴史上のこの時点でこそ言っておきたい。そうした体制の一部にならないことが、実際には美徳である可能性が高いのだと」

ピーター・バーゲン氏はCNNの国家安全保障担当アナリスト。米シンクタンク「ニューアメリカ」の幹部で、アリゾナ州立大学の実務教授、ポッドキャスト番組の司会者も務める。記事の内容は同氏個人の見解です。

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