米原潜、光届かない太平洋の深海を巡回 視線は中国に釘付け

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米太平洋艦隊の攻撃型原潜、CNN記者が内部を独占取材

ハワイ・ホノルル(CNN) 太平洋の海面下数百フィート、米海軍で最も先進的な技術を駆使した設備の一つに守られて、ジェフ・ジャブロン海軍少将の目には自身のチームが直面する2つの極めて大きな課題がはっきりと見えている。

「今日の世界で、我が国は共に核を保有する2つの敵国と対峙(たいじ)している。そんな状況はこれまでなかった」。米太平洋艦隊所属の攻撃型原子力潜水艦「USSミシシッピ」の艦内で、ジャブロン氏はそう説明する。

「旧ソ連、つまり現在のロシアは、核能力に関して我が国と同等の敵国だった。現在対峙する中国は、自らの核能力を拡大、最新化している」(ジャブロン氏)

その日、バージニア級の原潜ミシシッピはハワイ・真珠湾の基地を後にし、通常任務のため世界最大の海洋の波の下へと滑り込んだ。

艦内では130人余りの水兵がそれぞれの持ち場につき、練り上げられた数々の任務をこなしている。

USSミシシッピのコントロールルームの様子/John Mees/CNN
USSミシシッピのコントロールルームの様子/John Mees/CNN

コントロールルームでは10人以上の水兵が任務に就いていた。ソナーで障害物を探る者もいれば、暗い深海での潜航を担う者もいる。

魚雷の格納庫へ下りると、技術者らが装填(そうてん)の訓練を行っていた。いかなる時も作戦即応性を確保することが狙いだ。さらに下層のフロアでは、機関兵らが油圧系統の適正な機能を確認していた。

作業は窮屈で、閉所恐怖症になりそうだと乗組員らは説明する。海で長い期間を過ごすうち、お互いが強い関係で結ばれ、ほとんど家族のようになるという。

マサチューセッツ州出身の22歳の機械工、ジャック・オブライエン氏は同僚らについて、「毎日顔を合わせ、毎日共に働き、隣同士で眠る」と語る。

「港にいるときでさえ、日の出から日没まで艦内で働いている」

AUKUSの潜水艦協定

アジアにおける核兵器開発競争への懸念が高まる中、CNNの記者に対し、USSミシシッピへの独占的なアクセスが認められた。ジャブロン氏によれば同艦は、米艦隊に所属する攻撃型潜水艦49隻の一つ。取材の目的は、米政府がどのように準備を進め、地域の潜在的な紛争を抑止しようとしているのかを見極めることにある。

潜水艦は見つけにくく、破壊されにくく、途方もない距離を移動することが可能だ。そうした潜水艦の果たす役割が原動力となり今月、米国と英国、オーストラリアは原子力潜水艦協定の詳細を発表した。これにより3カ国は協力関係を一段と高め、中国の急速な軍拡に対抗するとみられる。

いわゆる「AUKUS(オーカス)協定」の下、オーストラリアはバージニア級原潜3隻を米国から2030年代前半に購入する予定。これには議会の承認が必要になる。

中国は協定に強く反発。3カ国は「冷戦的な精神構造」を有しているとし、世界の安全性を損なうことになると非難した。

国家安全保障戦略の概要によると、米国にとって中国はゆっくりと迫る脅威、ロシアは緊急の脅威だという。米太平洋艦隊で潜水艦部隊の司令官を務めるジャブロン氏が明らかにした。

現在潜水艦部隊のおよそ6割が太平洋に配備されている背景には、そうした厳しい状況があると、同氏は付け加えた。

中国軍の進歩を目の当たりにしつつも、専門家らは海中での戦闘にかけてなら、まだ米国に相当の強みがあるとみている。

米海軍の元大佐で、米太平洋軍統合情報センターの作戦責任者を務めたこともあるカール・シュスター氏は「潜水艦は、米国が依然として確固たる優位性を中国に対して保っている領域だ」と指摘。ステルス性と攻撃力を併せ持つプラットフォームであり、中国海軍の攻撃を生き延びるだけの能力を有するとの見解を示した。

恐るべき威力

米海軍の全ての潜水艦と同様、ミシシッピは原子力を動力とするため、原則として空間的、時間的制限を受けることなく配備できる。唯一必要なのは、寄港して乗組員のための物資を供給することだ。

ジャブロン氏が指摘するように、「乗組員の食料さえあればいい。食料が十分なら、世界中を再補給なしで移動できる」。

核を搭載したミサイルの発射は、米海軍が保有する14隻の弾道ミサイル潜水艦のための任務だ。これらの潜水艦はより大型で、しばしば「ブーマー」と呼ばれる。

ただミシシッピが搭載する兵器も、やはり恐るべき威力を誇る。同艦の運ぶトマホーク巡航ミサイルは、最大1600キロ先の標的に撃ち込める。また魚雷は、海上と海中の両方で敵を攻撃可能だ。

全ての装備を施すと、魚雷「Mk48」を最大25基搭載できると、ミシシッピのエドワード・バリー艦長は述べた。

ジャブロン氏によると、米国の潜水艦部隊は冷戦時代には密かに作戦に従事していたが、現在は他の米軍部隊や同盟国と大々的に活動している。「そのため敵国は、我々が世界中のどの国際水域でも活動できることを理解する」(同氏)

中国は、原潜で米国に著しく後れを取る現状を変えたいと強く望んでいる。

中国の保有する弾道ミサイル潜水艦と攻撃型原潜の数はそれぞれ6隻ずつだが、20~40年の間にこれを2倍以上に増やす考えだ。中国海軍の最新化に関する米議会調査局(CRS)の22年版の調査が明らかにした。

一方米軍によると、中国海軍はディーゼル推進または非大気依存推進の攻撃型潜水艦を維持するとみられる。

ジャブロン氏は潜水艦部隊の潜水艦49隻中25隻が太平洋に配備されているとしたが、その中にはメンテナンスなどの理由から使用できない潜水艦もあるという。

当然中国の艦隊も同様にメンテナンスの必要に迫られる公算が大きいものの、同国は太平洋とインド洋の2つの海洋をカバーするだけでいい。従ってインド太平洋地域での潜水艦の総数では、中国海軍に軍配が上がる。

米議会予算局(CBO)が出した数字によると、米軍の攻撃型潜水艦の数は28年までに46隻に縮小した後、新たな建造計画が本格始動すれば、最大で69隻を52年までに保有できる見通し。

愛する人から離れて

潜水艦の乗組員としての生活は、軍の他部門では味わえないものかもしれない。

グループで会話やゲームを楽しむ乗組員ら/John Mees/CNN
グループで会話やゲームを楽しむ乗組員ら/John Mees/CNN

潜水艦は深海に潜って長期間過ごすこともあるため、ミシシッピの乗組員は狭い閉鎖空間での暮らしを余儀なくされる。そこに外の世界とのやり取りはほとんど存在しない。

要員を24時間確実に配置するため、乗組員は通常3交代制で任務に就くと、バリー艦長は説明する。

艦内ですることはおおむね標準化されている。毎日8時間の勤務の後は学習と掃除、グループ活動で8時間過ごす。それが終わると就寝時間になる。

「乗組員はよく訓練されている。教育水準が高く、経験豊富だ。愛国心もある。だから潜水艦で海へ出るとき、彼らと同じように任務をこなせる人はほとんどいないと思う」(バリー艦長)

カリフォルニア州出身で26歳の電気技師、スティーブン・ウォン氏は初入隊時、原潜内の空間の狭さに多少面食らったという。

「最も驚いたのは、お互いの距離の近さだ。このような形で苦難を共にすれば、最後には本当に強い絆(きずな)で結ばれる」。そう話すウォン氏は、艦の動力と電力を供給する原子炉の稼働に責任を負う。

深海では信号を受信するのが困難になるため、愛する人たちと連絡を取り続けるのも容易ではない。潜航すると実質的に使用できる通信手段は電子メールのみになると、ウォン氏は説明する。同氏にはハワイに住む妻がいる。

「毎日、機密扱いされていない自分のコンピューターでメールチェックを行う。未読のメッセージを見つけたときは、いつもものすごく興奮する」(ウォン氏)

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