(CNN) 新型コロナウイルスのデルタ株については、毎週新たに警戒すべき事態が展開しているように思える。先週にはワクチン接種済みの数百人の間で集団感染が起きたとの知らせが、マサチューセッツ州プロビンスタウンから届いた。とりわけ懸念すべきは、ワクチン接種者のサンプルから大量のウイルスが検出された点だ。それは彼らが実際のところ他者に感染させ得ることを示唆する。
ケント・セプコウィッツ氏
新たな情報に合わせて、米疾病対策センター(CDC)は関連する指針を見直し、再び特定の状況でのマスク着用を推奨するとした。直近の集団感染が伝える真のメッセージはワクチンがいかに効果的にコロナ死を防ぐかというものだが、マスクの再導入は正しい判断といえる。デルタ株による感染が全国的に急増する現状にあって、こうした施策は感染の抑止に寄与するとみられるからだ。
CDCの改訂に対しては、例によって反ワクチン派、反マスク派がトマトを投げつけんばかりの非難の声を浴びせている。科学や論理に異を唱え、不確かな言説を振りまくこれらの人々にいわせれば、CDCは完全に進むべき道を見失った。その対策は非科学的でどっちつかずだというわけだ。
しかし1年半にわたりコロナ禍が続いた後で、CDCの施策とそれに対する世間の反応が驚くべきものだなどと誰がいえるだろうか? 政府の組織が決断を下す際には、CDCがまさにそうであるように、反政府派や何であれ熱心に反対する人たちの格好の標的になるのが常だ。
普段は冷静なジャーナリストや新聞社が途端にうろたえて金切り声を上げる事態さえも予想の範囲内といえる。彼らはデルタ株が水痘(水ぼうそう)に匹敵する感染力を持つ(以前から知られた事実だ)と声高に叫び、釣り記事ととられかねない勢いでワクチン接種者の感染率を強調する。ウイルスは恐ろしい。現在も抑え込めていない。全国民の半分はワクチン接種を完了していない。すべてトップの見出しに値する内容だが、それらは性質上、過度に刺激的なものとなりがちだ。
プロビンスタウンの集団感染に対する注目の仕方が奇妙なのは、それが今週の段階で重要なデルタ株に関する話ではない点にある。内容自体は、新型コロナの物語におけるちょっとした付け足しにすぎない。
本当のニュースとはこうだ。多くの証拠が示す通り、何らかの理由(より大きなウイルス量、未成熟の免疫システムでウイルスに対処することに伴う違い、あるいはそれ以外の何か)によって、デルタ株に感染した子どもたちはその他のウイルスが引き起こす場合よりも重い症状を患う可能性がある。
最近の米公共ラジオ(NPR)とのインタビューで、アーカンソー子ども病院の責任者を務めるリック・バー医師は、「デルタ株は子どもに関して非常に異なった働きをする。7月だけで当院に入院した子どもの数は40人を超え、その多くは集中治療室(ICU)に入った」と述べた。
このうち半数は12歳未満でワクチン接種の資格がなかった。残りは12歳以上だったが、接種は完了していなかった。
アーカンソー以外でも米国南部の州では子どもの入院の増加が報告されている。
こういったことのすべてが示唆するように、今後の本当の論点は、現行のワクチンがデルタ株に対して十分有効なのかどうか(圧倒的に有効だ)や、マスクをして互いに距離を取るべきかどうか(当然そうするべきだ)といった話ではなく、子どもたちについて何をするべきかだ。これらの子どもたちはまだ、米食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可(EUA)を出したワクチンを接種することができないが、あと1カ月かそれより早い期間で学校へと戻る。より重症化するかもしれない変異株の感染が広がる中で。
今、それこそが真に議論しなくてはならない問題だ。政治的パフォーマンスではなく、賛否双方の立場から慎重に検討したうえで、大胆な措置を講じる必要がある。その目的に照らせば、ただ目立ちたいがために非難という名のトマトを延々と放り続ける行為にも、ひょっとしたら一定の利点があるかもしれない。事実上の正念場が訪れるころ、CDCはすでに分厚くなったその面の皮のおかげで批判をものともせず、最良の判断を下して公衆衛生を守ることができるだろう。ぜひそうあってほしいものだ。
CDC並びに他の誰も尋ねてはいないが、筆者の提案は以下の通りだ。もしさらなる証拠によってデルタ株に感染した子どもの一段の重症化が示唆されたなら、ワクチン未接種の子どもたちを登校させてはならない。残念ながら、デルタ株は昨年の決定の前提を変えてしまった。小学生の年齢の子ども向けにEUAが出された場合は、彼らにワクチンを接種させ、スクールバスに乗せればよい。
ただその際も、どうかバスの窓は開けておいてもらいたい。
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ケント・セプコウィッツ氏はCNNの医療アナリスト。米ニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターに在籍する医師であり、感染対策の専門家でもある。記事の内容は同氏個人の見解です。