水に浮かぶ近未来的なエコ住宅、現在建設中
(CNN) 水上住宅、優雅な暮らし、スマートホーム・テクノロジー。これらは必ずしもうまく調和するようなものではない。
だがパナマを拠点とする最新海洋テクノロジー専門企業「オーシャンビルダーズ」は、この3つをすべて兼ね備えた「革命的ポッドハウス」を先ごろ発表した。
「世界初の環境再生住宅」を謳(うた)うポッドハウスの価格は29万5000~150万ドル(約3950万~2億円強)。パナマ沖の北、リントン・ベイ・マリーナで現在建設中だ。
オランダの建築家クーン・オルタス氏とウォーターストゥディオのチームは合わせて3つのモデルを設計。代表モデルの水上生活用「シーポッド」、陸上用の「グリーンポッド」、そして環境にもお財布にも優しい「エコポッド」だ。
シーポッドのコンセプトは、オーシャンビルダーズのエンジニア部門主任リュディガー・コッホ氏と最高経営責任者(CEO)のグラント・ロマント氏が、旅行先として人気の高い海岸部の土地不足を解消するために考案した。
高床式の構造物は833平方フィート(73平方メートル)の住空間を備え、3.5階分の高さに主寝室、リビング、キッチン、浴室が広がる。
「オーシャンビルダーズ」が手掛ける3つのモデルのうちの一つ「シーポッド」の完成予定図/Ocean Builders
2人暮らしには十分な広さで、1688立方フィート(47.8立方メートル)以上の空気を満たした鉄製パイプを用いることで水面から7.5フィート(2.2メートル)の高さに浮かんでいる。575平方フィート(53.4平方メートル)のパノラマウインドーから見渡す360度オーシャンビューがうりだ。
ロマント氏は、このデザインで住居や旅行の考え方が変わり、「現代生活の優雅さ」を犠牲にせずとも水上生活が送れるようになるだろうと期待を寄せる。
「普通は水上生活というと船の上だ。ほとんどの人にとって、そこでの生活環境は受け入れがたい」とロマント氏はCNN Travelに語った。
「そこで我々は、陸上と同じ、あるいはそれ以上の生活が体験できる水上住宅をデザインした」(ロマント氏)
ポッドには最新テクノロジーの他、カスタマイズ可能なアプリも搭載し、住人に合わせて設計や機能を調整できるようになっている。
未来の家
設計を担当したのはオランダの建築家クーン・オルタス氏とウォーターストゥディオのチームだ/Ocean Builders
一方で、特注の「スマートリング」を着用すれば、手をふるだけでドアを施錠したり音楽をかけたりすることもできる。
「もし(IT企業の)アップルが家を建てたら、シーポッドやグリーンポッド、エコポッドに行きついていただろう」とロマント氏。「この家にはたくさんのテクノロジーが盛り込まれている」
「携帯電話をデジタルアシスタントにするのではなく、家がアシスタントになるというのが私の考えだ。家を活用すれば生活を最適化することができる」
当初はリントン・ベイ・マリーナ周辺に建設される予定。だがオーシャンビルダーズのチームは、他の地域でも技術的に対応可能だと確信できれば全世界に展開できると考えている。
海辺での暮らしを長年推奨してきたロマント氏も、かつてトロントで水上生活を送っていたことがある。他とは比べものにならないような生活だそうだ。
「朝起きて階段を下りてゆき、パドルボートに飛び乗ってパドリングに行く。とにかく魔法のような気分だ」(ロマント氏)
配達はドローン
ポッドは周辺エリアと調和するよう建造、維持される/Ocean Builders
「とても穏やかで美しい。大半の人々は常夏の島でのんびりリラックスし、エネルギーを回復してリフレッシュするといった2週間の休暇を夢見ながら1年を過ごしている」
「ならば1年中そんな暮らしをしたらどうだろう? 今はリモート勤務も簡単にできるのだし」
このような一風変わった家に住む人は、水際が好きなことに加えて、冒険心も必要になるだろう。だがロマント氏いわく、チームは必ずしも特定の顧客像を念頭に置いていないという。
実際シーポッドでほんの数分過ごせば、大多数の人々が1棟購入するチャンスに飛びつくだろうとロマント氏は確信している。
「トロントで水上生活をしていた時、家を訪れた人は1人残らず夢中になった」とロマント氏。
「必要なのはシーポッドを5分間体験してもらうことだけ。度肝を抜かれる経験になるだろう。本当にびっくりする体験だ」
だが食料品の買い出しや、本土とポッドの往復交通などの実用面は?
ロマント氏によれば、食料や医薬品、「日常のこまごまとしたもの」などの配送にはカスタマイズされた空中デリバリードローンが使われるという。
大型配送には自動運転ボートが別途用意されている。これは海上リサイクルボートとしての機能も備えており、ごみや漂流物を回収して周辺海域をきれいに保つことができる。
「環境再生住宅」
833平方フィート(73平方メートル)の住空間が、3.5階分の高さに位置する構造となっている/Ocean Builders
住人や訪問者は小型ボートやジェットスキー、水上タクシー、あるいは自前の船艇でシーポッドを行き来することも可能だ。
確かに、シーポッドはどちらかというとミニマリスト向けの仕様のようだが、住居内には1250平方フィート(約116平方メートル)の収納スペースもある。
サステナビリティーにも力を入れ、「周辺環境に恩恵をもたらし」「海洋生物が生息・繁栄できる自然生息地」を提供するべく工夫が凝らされている。
「我々が建築・設計しようとしているのは、環境にも良い家、環境に害を与えない家だ」とロマント氏は説明する。
「常に技術革新を進め、より良い形で実現する方法を模索している。今はまだ完璧ではないが、常にもっと上を目指して努力している」
9月下旬には完成したポッド第1号をインターネットで公開する。その後まもなく購入希望者に向けた現地視察が行われる予定だ。
「みな何年も購入したがっていた」とロマント氏は言い、顧客が完成したポッドを実際に視察するまでは前金を受け取らないというオーシャンビルダーズの意思を説明した。
「これはかなり新しい。不動産業界では、着工すらしていない物件に金を払うことが非常に多い。顧客が実際にポッドに足を踏み入れるまでは、我々も前金を受け取りたくなかった。ようやくここまでこぎつけて感激だ。これは大がかりな事業だ。2年前には完成していたかったが、たった3年半で成し遂げることができただけでもかなり上出来だ」
シーポッドの他にも、新たな水上住宅のコンセプトのお披露目が今後数年のうちに予定されている。例えばクラインディースト・グループでは、ドバイ沖に浮かぶ人工の島「ザ・ワールド」に50億ドル(約6700億円)を投じて建設されるメガリゾート「The Heart of Europe」の一環として、131棟の水上ビラを開発中だ。
万事計画通りに進めば、オーシャンビルダーズが最初に売り出すシーポッド100棟の購入者は、2023年末までに入居することができる。
24年までにさらに1000棟の完成を目指し、増産もスタートする予定だ。