OPINION

トランプ氏が犯したとされる法律について歴史が教えてくれること

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米国の歴史を遡れば、トランプ氏に対する起訴の持つ重みを理解することが出来る/Tasos Katopodis/Reuters/File

米国の歴史を遡れば、トランプ氏に対する起訴の持つ重みを理解することが出来る/Tasos Katopodis/Reuters/File

(CNN) トランプ前米大統領による悪事を証明する最新の起訴については、政治レースの視点から眺めようとする傾向がみられる。2024年大統領選に向けた共和党の予備選で、起訴は同氏にとって吉と出るか凶と出るか、といった問いがそうだ。

ジョン・アブロン氏
ジョン・アブロン氏

これは間違っている。多少なりとも歴史的観点を踏まえて考えるなら、罪状の持つ重みから目をそらす態度に他ならない。トランプ氏が訴えられた犯罪は、建国者たちにとってこれ以上ない悪夢だ。現職の大統領が、選挙結果を自分勝手な虚言に基づいて覆そうとした。その結果、我が国の連邦議会議事堂が、だまされた支持者の群れによって攻撃された(当の前大統領は一切の違法行為を否定している)。

だからこそ、見出しの裏にある歴史を理解することは役に立つ。それがトランプ氏の犯したとされる特定の犯罪に関係がある時はなおさらだ。

表面上、これらの罪状は扇動的な共謀といった明らかな違反行為を意図的に避けている。扇動的な共謀は、極右組織の「オースキーパーズ」と「プラウドボーイズ」に対して首尾良く適用された。

四つの罪状のうち二つは、1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件以降最も目にする機会の多い内容だ。公的手続きの妨害の共謀という無味乾燥な用語がもたらす道徳的重みは、せいぜい茶封筒1枚分しかない。それは議事堂襲撃で起きたことの最小限の説明でしかない。

しかし、トランプ氏が起訴された二つのより特異な違反行為は、どちらも重い歴史を背負っている。

「米国をあざむく共謀」は表向き、選挙結果を覆す試みとは関係がないように聞こえる。歴史上、この罪状は政府から金銭を詐取することに科されていた。しかし、元大統領で最高裁長官も務めたウィリアム・ハワード・タフトが1924年の画期的な見解で述べたように、その規定の完全に意味するところは我々が今経験している現実離れしたシナリオをほとんど予見している。タフトによれば、「それは国の合法的な政府機能の一つに対する介入もしくは妨害をも意味する。そのような行為を詐欺や悪知恵、策略、あるいは少なくとも不誠実な手段を通じて果たすことを指す」。

トランプ氏の選挙にまつわる虚言は、間違いなく合法的な政府機能の妨害を計算に入れているように見える。大統領選という機能を、詐欺と不誠実な手段によって妨げる行為だ。起訴状が入念に訴訟内容を説明したところでは、トランプ氏は自分が虚偽の発言をしていることを知っていた。なぜなら再三にわたり、正当な理由での選挙戦の敗北をスタッフや顧問、閣僚のメンバーから告げられていたからだ。そうした虚言は、権力にしがみつこうとする同氏の必死の試みに他ならなかった。取り巻きでさえも大半がそれらを「母船から放出されるくだらない陰謀」だと理解していた。これは2020年大統領選でトランプ氏の顧問を務めたジェーソン・ミラー氏による忘れられない言葉だ。

トランプ氏の真の信奉者たちは、当時衆愚として利用される存在だった。今でもそうだ。しかしトランプ氏の虚言は、自国の選挙が誠実に実施されているという米国人の信頼に影響を及ぼした。それこそが合衆国をあざむく行為に当たる。

「権利に反する共謀」の罪状には、さらに驚きの声が上がったかもしれない。これを規定した法律(合衆国法典第18編第241条)の歴史を理解することは、不可解な点を明らかにする助けになる。

その起源となる法律はユリシーズ・S・グラント大統領の下、1870年に議会で可決したもので、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」による取り組みへの対抗を念頭に置いていた。KKKは南北戦争後の南部再建の時期、黒人の市民から憲法上の権利を完全に行使する機会を奪おうとした。中でも当該の法律の修正第15条は、黒人に投票権を与える内容だった。

当時の南部において、こうした権利を後退させる試みの中核を占めたのは、有権者に対する威嚇と弾圧、そして選挙結果の転覆だった。やがて上記の法律は、人々の投票権の妨害につながるあらゆる試みに適用されるようになった。投票だけでなく、票を公平に数えることも盛り込まれた。

トランプ氏による選挙結果を覆そうとする試みには、偽の選挙人の計画を含め、七つの激戦州の有権者から選挙権を奪う意図があった。選挙結果転覆の試みがもたらす根本的な影響として、自らの投じた票が公平に数えられる権利は否定されることになる。

これらの法律の歴史的な背景は、我々が当該の犯罪の重大さを認識する一助になる。トランプ氏への起訴は、そうした罪を我が国の民主主義に対して犯そうとしたことに由来する。我々が市民権を巡ってこれほどのストレス試験を経験したことはかつてなかったが、主要な罪状が政府の中核的機能の妨害という不誠実な試みに関連するとされている事実、あるいは南北戦争後の投票権の抑圧という暴力的な試みに起源を持つという事実は警鐘とするべきだろう。我々は皆、共和制国家という貴重な遺産の管理者だが、それはあくまでもその制度を維持できると仮定した場合に過ぎない。

今回の訴訟の教訓は、エゴと党派的な利己心がより深遠な原則である我が国の民主主義を上回った時に何が起きるのかということだ。そこで生じる危機が、結果に対する責任を問わないまま終結することはないだろう。

ジョン・アブロン氏はCNNの政治担当シニアアナリストであり司会者。著書に南北戦争後のリンカーン大統領を扱った「Lincoln and the Fight for Peace」。記事の内容は同氏個人の見解です。

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