お尻たたきの効果は? 子供の態度が悪化、発育に有害の可能性 研究結果

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旧約聖書の一書「箴言」にも子どもへの体罰の記述があるが、仏作家のオリビエ・モーレル氏によればお尻叩きの習慣は古代メソポタミアやエジプト、中国、インドの各文明のほか、アメリカ先住民、ギリシャ・ローマの人々の間でもみられるものだったという/SuperStock/Getty Images
写真特集:お尻たたきの歴史

旧約聖書の一書「箴言」にも子どもへの体罰の記述があるが、仏作家のオリビエ・モーレル氏によればお尻叩きの習慣は古代メソポタミアやエジプト、中国、インドの各文明のほか、アメリカ先住民、ギリシャ・ローマの人々の間でもみられるものだったという/SuperStock/Getty Images

(CNN) 子どもに体罰を与えても、子どもの態度や社会的能力が時間の経過とともに改善されることはなさそうだとの見解が、英医学誌『ランセット』に掲載されたレビュー論文で示された。

論文には、米国、カナダ、中国、コロンビア、ギリシャ、日本、スイス、トルコ、英国で行われた69件の研究結果がまとめられている。著者の一人である米テキサス大学オースティン校のエリザベス・ガーショフ教授は「お尻を叩(たた)くといった体罰は、子どもの発育と幸福にとって有害である」と述べている。

ガーショフ氏によると、親は子どもの態度が改善されると思い、子どもを叩くという。だが、同氏は「今回の研究によって、体罰は子どもの態度の改善につながるどころか、むしろ悪化させるという明確で説得力のある証拠が見つかった」と話す。

体罰を受けた後、子どもの態度はさらに悪化

今回の論文では、お尻叩きを含め親がしつけの一環で一般的に行っている可能性のある体罰の影響を調べるため、言葉による罰や児童虐待とみなされるような深刻な体罰は除外された。

そうした体罰の種類としては、子どもを物で殴る、顔や頭、耳を叩く、子どもに向かって物を投げる、拳で殴る、蹴る、子どもの口をせっけんで洗う、投げ倒す、窒息させる、やけどさせる、ナイフや銃で脅すなどの行為が含まれる。

体罰にはプラスとマイナスの影響が混在するといった研究結果もみられた。だが大半の研究では、体罰が多くの面において悪影響を及ぼすことが明らかになっている。

ガーショフ氏によると、お尻叩きを含む体罰を子どもに与えた場合、時間の経過とともに子どもの「攻撃性の増加」「反社会的行動の増加」「学校での破壊的行動の増加」などの問題行動を引き起こすことが、19件の研究のうち13件で最も一貫して裏付けられたという。こうした問題行動は、子どもの性別、人種、民族に関係なく起こっていたことも分かった。

南米コロンビアで行われた研究では、体罰を受けた幼児は、体罰を受けなかった幼児に比べて、「認知能力が低い」という結果が出ている。また、体罰の頻度と子どもの態度悪化の関連性を調査した7件の研究のうち5件で、「用量反応関係」が見られたという。「要するに、体罰の頻度が高くなるにつれ、さらに悪い結果となる可能性が高くなっていた」とガーショフ氏は指摘した。

いくつかの研究では、子どもに体罰を与えることで、かんしゃく、理屈っぽく反抗的な態度、挑戦的で規則に従わない、意地悪い、執念深いなどといった行動が特徴となる反抗挑戦性障害の兆候が増加することが明らかになった。体罰によって子どもが児童保護サービスの関与が必要となるような深刻な暴力やネグレクトを経験するリスクが高まったとする研究結果もあった。

また今回の調査では、体罰がもたらすいかなる悪影響も子育てのスタイルによって和らげることができないことが分かった。5件の研究のうち4件で、全体的に温かく前向きな子育てスタイルでも、「体罰による問題行動の増加への影響を抑えることはできなかった 」としている。

いまだにお尻叩きが認められている国がある

国連児童基金(ユニセフ)によると、2017年時点で2歳から4歳の子どもの約63%(約2億5000万人)が、お尻叩きが認められている国に住み、保護者から定期的に体罰を受けている。

米国では全50州で親による子どもへの体罰は合法とされている。そのうち19の州では、法律で学校内での体罰が認められているが、これらの州の学区では体罰を禁止しているところもある。

変わりつつある点もある。4月に発表された研究によると、米国では子どものお尻を叩く親の割合が1993年には約50%だったが、2017年には35%に減少した。ミレニアル世代(1980~90年代生まれ)やX世代(1960~70年代生まれ)の親たちの間でお尻叩きへの意識が変化したことが背景にあるという。だが、児童虐待の研究を専門とするロバート・セージ博士は、この数値が米国小児科学会(AAP)の18年の基準値を大幅に上回っていると指摘している。

AAPは、子どもを世話する大人は、お尻を叩く、殴る、平手打ちをする、脅す、侮辱する、屈辱を与える、恥をかかせるなどの行為をせずに、子どもに対し望ましい行いを取るよう積極的に促す、制限を設ける、期待を抱かせるなどの「健全なしつけ」を行うよう勧めている。セージ氏は「親は子どもを叩いたり、辱めるような言葉で侮辱したりしてはならない」と警鐘を鳴らしている。

「子どもに対する暴力撲滅のためのグローバル・パートナーシップ(GPeVAC)」によると、世界の62カ国で子どもへの体罰が全面的に禁止されており、さらに27カ国が体罰の禁止を約束している。こうした進歩にもかかわらず、GPeVACは「法律によって体罰から完全に守られている子どもたちは世界で13%しかいない」と指摘。なお現在、青少年が犯した犯罪に対する刑罰としてむち打ちを認めている国は31カ国ある。

子どもたちは、2006年に国連子どもの権利条約の監視機関である子どもの権利委員会で一般的意見として採択された「体罰およびその他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰」から保護される権利を有しており、国連総会では、あらゆる暴力から子どもたちを保護することを 「持続可能な開発目標」に掲げている。

ガーショフ氏らは「世界中で体罰が蔓延(まんえん)していることを考えると、時間を無駄にはできない。すべての国は体罰を全面的に禁止することで、子どもの人権を守り子どもの幸福を促すという国連の呼びかけに従うべきだ」と指摘している。

お尻叩きがいけないなら、何をすべきなのか?

AAPはお尻叩きに代わるしつけ方法として、おもちゃやごほうびを取り上げることや、子どもを一時的に別室などに隔離し1人にさせる時間を設ける昔ながらのタイムアウト法などを推奨している。

セージ氏は、子どもの年齢に応じてしつけ方法が変わってくると説明。同氏によると、乳児が最初の1年間で学ぶべきものは愛情である。乳児は泣いたり、散らかしたりするといった能力を身につけていくが、親はこれに対して、子どもに他のことをさせたり、抱き上げて別の場所に移動させたりして、子どもの気を紛らわせる必要があるという。

一方、幼児になると子どもは親の関心を集めようとするので、「注目されたいという気持ちをうまく利用すべきだ」と同氏は話す。また、子どもが良いことをしたら注目して褒めてあげるが、何か悪さをしたらタイムアウト法を使い、親から注目される機会を奪ってしまうことが効果的だとしている。

子どもがさらに成長してきたら、今度は自分が取った行動の結果について学ばせることを同氏は勧めている。危険な状況でない限り、子どもたちを守る代わりに教訓を学ばせるのが望ましく、例えば、子どもがおもちゃを片付けずに別の遊びをしようとしていたら、「遊ぶ前に片付けよう」と促すのが良いという。

10代の子どもたちも、自分の行動に責任を持つことを学ぶ必要がある。それには大人が子どもの起こした行動と結果について指摘し、その結果の解決方法を理解するのを助けることが求められるという。

セージ氏は「少なくとも初めのうちは、自分が親として何をしているのかについて考え、意識する必要があるため大変だ」とコメント。そのうえで、「子育ては簡単なことではない。だが良いことに、子どもたちは私たちが犯した過ちを許してくれる」と話している。

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