異形の巨大機「スーパーグッピー」、宇宙船の運搬用に開発

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貨物を積んでケネディ宇宙センターに到着したスーパーグッピー/NASA

貨物を積んでケネディ宇宙センターに到着したスーパーグッピー/NASA

(CNN) 欧州エアバスの「ベルーガ」に米ボーイングの「ドリームリフター」、ウクライナ・アントノフの「AN225」――。ここに名前を挙げた世界最大級の航空機はいずれも、他機の部品のような巨大貨物を運ぶ目的で開発されたものだ。

その珍しさと異形の外観から、3機は航空の世界でもひときわ目を引く。愛好家にとっては機体を一目見るのが夢になっている。

しかし、これらの航空機は、比較的知名度の低いある航空機シリーズなくしては存在していない。1960年代に初めて空を飛び、宇宙競争での米国の勝利に貢献した「グッピー」だ。

航空史の研究者グラム・シモンズ氏はグッピー開発の経緯について「当時のNASA(米航空宇宙局)は非常に軽く大型の物体、つまりロケットの部品を米国の端から端まで運ぶ方法を模索していた」と振り返る。

「NASAは巨大な直径の胴体を持つ機体を必要としていた。カリフォルニア州をはじめとする製造拠点から、主にフロリダ州の使用拠点まで部品を運べるようにするためだ」(シモンズ氏)

試験飛行に向けた準備をするプレグナントグッピー=1962年/NASA
試験飛行に向けた準備をするプレグナントグッピー=1962年/NASA

米国の宇宙開発では当初、フロリダ州ケープケネディーに向かうロケット部品はパナマ運河かメキシコ湾を艀(はしけ)で通過しなくてはならず、ただでさえ過密なスケジュールに加え数週間が余計にかかっていた。

しかし62年、1機の新型機がこの問題を解決する。史上最大となる直径6メートル近い貨物室を備えた同機が登場したことで、宇宙船の主要部品をフロリダ州に運ぶのにかかる時間は18日から18時間に短縮された。

この機体は「プレグナントグッピー」と呼ばれ、計8機製造されるグッピーシリーズの初代機となった。シリーズのうち1機は1940年代にさかのぼる技術を用いているものの、NASAによって今なお現役で運航されている。

ユニークな航空機

プレグナントグッピーはボーイング最初期の機体「377ストラトクルーザー」から派生した/Photo by R. Gates/Frederic Lewis/Archive Photos/Getty Images
プレグナントグッピーはボーイング最初期の機体「377ストラトクルーザー」から派生した/Photo by R. Gates/Frederic Lewis/Archive Photos/Getty Images

旅客機を改造して胴体部分を大きく膨らませた現代のベルーガやドリームリフターと同様、プレグナントグッピーも旅客機から派生したもので、ボーイングの最初期の旅客機「377ストラトクルーザー」がベースになった。

ボーイング377自体は第2次世界大戦期の爆撃機「B29スーパーフォートレス」を基にした機体だ。

プレグナントグッピーの開発では、米空軍の元操縦士ジャック・コンロイ氏の構想に従い、他の複数の航空機の部品を転用した。

NASAでスーパーグッピーの運用責任者を務めるジョン・バカリャー氏によると、コンロイ氏がNASA上層部に機体の構想図を見せたところ、「まるで妊娠した(プレグナント)グッピーだな」という反応が帰ってきて、そのままこの名称が定着したという。

その後、コンロイ氏は同機の製造と運用を担う企業「エアロ・スペースライン」を設立。完成した機体はボーイング377よりも約4.8メートル長く、アポロ計画のためにサターンロケットの上段を輸送できる世界唯一の航空機となった。

アポロ11号のコマンドモジュールがスーパーグッピーに積み込まれる様子/NASA
アポロ11号のコマンドモジュールがスーパーグッピーに積み込まれる様子/NASA

胴体の膨らんだ同機が高い利便性を発揮したことから、65年にはコンロイ氏は後継機の開発に着手し、これを「スーパーグッピー」と名付けた。

バカリャー氏は「両機の最大の違いは、プレグナントグッピーでは貨物を積み込むために尾部を切り離したのに対し、スーパーグッピーでは機首が開くようにしたことだ」と説明。これによって運用が簡単になったと指摘する。

グッピーがNASAの次世代宇宙船「オリオン」を運ぶ様子/NASA/Bridget Caswell
グッピーがNASAの次世代宇宙船「オリオン」を運ぶ様子/NASA/Bridget Caswell

機体もスーパーグッピーの方が大きく、全長は約4.2メートル延長され、貨物室の直径は約7.5メートルに達した。エンジンもより強力で軽量なものにアップグレードされた。

最終進化

エアロ・スペースライン社の塗装を施されたスーパーグッピー/NASA
エアロ・スペースライン社の塗装を施されたスーパーグッピー/NASA

1967年、コンロイ氏はグッピーシリーズを拡充して、貨物室の直径を約5.4メートルに小型化した「ミニバージョン」の機種を導入した。ミニは2機製造されたものの、うち1機は試験飛行中に墜落して乗組員4人が死亡した。

その3年後の70年、グッピーシリーズで最後となる機体が初めて空を舞う。

「スーパーグッピー・タービン」と呼ばれる同機は、大きさこそスーパーグッピーとほぼ同じだが、胴体中央部には旧式となったボーイング377のものではなく、オリジナル仕様の胴体が使われた。

スーパーグッピーに国際宇宙ステーションの部品を積み込む様子/NASA
スーパーグッピーに国際宇宙ステーションの部品を積み込む様子/NASA

ただ、機体がつぎはぎであることに変わりはなく、コックピットや主翼、尾部は依然としてボーイング377のもの、前輪はボーイング707のものを使用した。エンジンはロッキードの対潜哨戒機「P3オライオン」、プロペラは軍用輸送機「C130ハーキュリーズ」から採用した。

この新型機には米国の外から大きな関心が寄せられた。米国外では当時、ボーイングの主な競合相手であるエアバスが、同社初の双発ワイドボディー旅客機「A300」の投入を控えていたためだ。

エアバスはA300の部品を輸送する目的で、1970年代にスーパーグッピー・タービンを2機購入した/AFP via Getty Images
エアバスはA300の部品を輸送する目的で、1970年代にスーパーグッピー・タービンを2機購入した/AFP via Getty Images

シモンズ氏は「エアバスはNASAと同様の物流上の必要性を抱えていた。A300は欧州各地で製造されたため、大型部品をあちこちに運ぶ必要があった」と指摘する。

エアバスが70年代にスーパーグッピー・タービン2機を購入すると、両機は同社の事業に欠かせない機体となった。

「最終的に、エアバスはエアロ・スペースラインからスーパーグッピーの製造権を取得した。そして自社でもう2機を製造し、長年使用してきた」(シモンズ氏)

グッピーシリーズ最後の機体

エアバスはスーパーグッピーの後継機として超大型輸送機ベルーガを開発した/REMY GABALDA/AFP via Getty Images
エアバスはスーパーグッピーの後継機として超大型輸送機ベルーガを開発した/REMY GABALDA/AFP via Getty Images

1990年代半ばまでには、エアバスはスーパーグッピーの後継機が必要になり、自前の超巨大輸送機ベルーガを開発する。ベルーガのベースとなったのはグッピーシリーズのおかげで誕生したA300で、その設計はスーパーグッピー・タービンの組み立てからエアバスが得た経験に色濃く影響されていた。

一方、NASAは当時、65年から飛び続け老朽化しつつあった初代スーパーグッピーの代替機を必要としていた。そこで購入したのがエアバスの保有機で最も機齢が若いスーパーグッピーだ。

このグッピーは極めてユニークといえる。70年代末に製造された際にはもう、解体再利用に使うボーイング377の機体は残っていなかった。そのため、エアバスは初代プレグナントグッピーの部品を使用して組み立てを行った。

つまり、現存する最後のグッピーは、一番最初のグッピーの部品のおかげで存在していることになる。

この結果、同機には非常に古い技術が使われていて、一部の部品は1940年代後半にさかのぼる最初期のボーイング377から取り出されたものだ。従って、機体の維持管理は複雑化する場合がある。

未来への飛行

国際宇宙ステーションの部品を運ぶグッピー/NASA/Getty Images
国際宇宙ステーションの部品を運ぶグッピー/NASA/Getty Images

バカリャー氏によると、これほど古い機体を良い状態に保つうえでは、システムの老朽化に伴う問題に対処することが大きな課題になる。

「何かの部品が故障したとしても、50~60年間誰もつくっていない機体なので、代わりの部品を注文するのは無理だ」

そのため、NASAでは故障が起きる前にあらかじめ、一部の古いシステムを現代のものに更新している。

オリオンのコマンドモジュールがグッピーに積み込まれる様子/NASA/ Bridget Caswell
オリオンのコマンドモジュールがグッピーに積み込まれる様子/NASA/ Bridget Caswell

同機は2000年代後半から、将来的にNASAが月や火星への有人飛行に使う予定の宇宙船「オリオン」の部品輸送に使用されてきた。今でも現役ばりばりだ。

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