ANALYSIS

経済規模世界5位の英国、ジョンソン氏によって危機的状況に

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辞任を表明後、官邸内に戻ろうとする英国のジョンソン首相/Daniel Leal/AFP/Getty Images

辞任を表明後、官邸内に戻ろうとする英国のジョンソン首相/Daniel Leal/AFP/Getty Images

ロンドン(CNN Business) 英国のジョンソン首相が最終的に辞任表明に追い込まれたのは、自ら率いる保守党議員数十人が倫理上のスキャンダルの連発を理由に政府の役職から退いたのがきっかけだった。

しかし議会外での同氏の人気もまた、ここへ来て大きく損なわれている。英国経済は物価高騰と景気低迷に見舞われ、家計の危機から今冬には数百万人が新たに貧困化する恐れがある。欧州連合(EU)との貿易戦争で痛手を被るリスクも存在する。

ジョンソン氏の辞意をめぐる報道を受け、英国株は上昇。通貨ポンドも今週記録した2年ぶりの安値からわずかに持ち直した。

それでも株式仲介会社XTBの市場アナリストによればポンドは依然として非常に弱く、それは英国経済の悲惨な状態を反映している。他国と比べ低調な同経済はリセッション(景気後退)に入る公算が大きいという。

保守党と英国の新たなリーダーとして誰が浮上してくるにせよ、そこに待ち受けているのは並外れた経済的、財政的課題の連続にほかならない。

G7中最高のインフレ率

主要経済国はいずれも新型コロナのパンデミック(世界的大流行)によるサプライチェーン(供給網)への悪影響やロシアのウクライナ侵攻がもたらしたエネルギー・食料価格の高騰に悩まされている。

しかし英国の状況は大半の国々よりも深刻だ。5月のインフレ率は過去40年で最高の9.1%と、主要7カ国(G7)のいずれの国も上回った。一連の利上げにもかかわらず、年内には11%を超えるとも予測されている。

食料と燃料の価格高騰により、低所得世帯では「暖房か食か」の選択を迫られる事態にもなっている。政府は各世帯への補助金給付を約束しているが、英中央銀行のイングランド銀行によれば、国民の可処分所得は記録を取り始めた1964年以降2番目の規模で減少しつつあるという。

国内のエネルギー価格の上限が秋に改定されるのを受け、各世帯が支払う年間のエネルギー料金の平均は今冬約50%増の3000ポンド(約49万円)に跳ね上がる可能性がある。規制当局はすでに4月の時点で価格の上限を54%引き上げていた。

そして記録的な低成長へ

世界第5位の規模を持つ英国経済は2月に成長が止まり、3月に縮小を開始。4月にはそのペースが加速した。国家統計局によると同月の国内総生産(GDP)は前月比0.3%減。サービス業、製造業、建設業の主要な3部門で軒並み後退した。小売業は4~5月と立て続けに落ち込みを記録した。

経済協力開発機構(OECD)は先月、英国経済が低迷に向かうと予測。来年はGDPがゼロ成長を記録するとした。実現すればG7中で最低のパフォーマンスとなる。

また英予算責任局(OBR)はこのほど、英国の公的債務残高について「持続不可能な道筋をたどっており、長期的には対GDP比250%を超える見通し」だと予測した。

これは次期首相に大型の減税や財政支出を行う余地がほとんど残されていないことを意味する。

EU離脱の効果は見えず

ジョンソン氏は前任のメイ前首相が果たせなかった「EU離脱の完遂」に成功した。しかし離脱によって貿易が勢いづく状況は生まれておらず、ジョンソン氏及び離脱を支持した人々の約束は実現していない。

OBRは3月、英国について、世界貿易がパンデミック以降の回復から得たチャンスの大半を逃したと結論した。

多くの企業にとって、ジョンソン氏が約2年前にEU首脳と結んだ関税ゼロの貿易協定は、税関の文書業務を膨大な量に増やす結果となった。これにより最大の輸出市場への輸出は一段と困難になり、輸入コストはかさんでいる。EU外の国々と結んだ貿易協定も目立った変化を生み出してはいない。

OBRは、新たな国々との貿易がEUとの貿易の減少分を一部相殺する可能性はあるとしながらも、これまで成立したいかなる合意も実質的な影響を及ぼす規模には達していないと指摘する。

先週発表された公的なデータによれば、今年の第1四半期で英国の国際収支の赤字額はGDP比8.3%となった。輸入が輸出を大幅に上回る中、英国は従来以上に外国からの投資への依存度を高めざるを得ない状況に置かれている。

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