まるで「ビックリ箱」、ウクライナで戦うロシア軍の戦車が抱える設計上の欠陥とは

車体から砲塔が吹き飛んだ状態でウクライナ首都近郊の路上に放置されるロシア軍の戦車/Maxym Marusenko/NurPhoto/Getty Images

2022.04.29 Fri posted at 20:30 JST

(CNN) 砲塔部分が吹き飛ばされたロシア軍の戦車の残骸は、同国のウクライナへの侵攻が計画通りに進んでいないことを示す最新の兆候だ。

ウクライナ侵攻の開始以降、これまで破壊されたロシア軍の戦車は数百台に上ると考えられている。ウォレス英国防相は25日、その数を推計で最大580台と発表した。

しかしロシアにとっての問題は単に台数のみにとどまらない。専門家らは戦場を写した画像から、ロシア軍の戦車がある不具合を抱えていることが分かると指摘する。それは西側諸国の軍隊が数十年間にわたり認識している欠陥で、「ビックリ箱」効果と呼ばれている。ロシア側もこの問題については把握していたはずだと、専門家らはみている。


車体から砲塔が吹き飛んだ状態でウクライナ首都近郊の路上に放置されるロシア軍の戦車/Maxym Marusenko/NurPhoto/Getty Images

問題は戦車の弾薬の搭載方法に関連する。最新の西側の戦車と異なり、ロシア軍の戦車は回転式砲塔の内部に多数の弾薬を搭載している。被弾の際の危険は極めて大きく、直撃ではない場合でさえもそこから連鎖反応が始まり、搭載する最大40発の砲弾がすべて爆発する恐れがある。

その結果生じる衝撃波の威力で、砲塔は2階建ての建物ほどの高さにまで吹き飛ぶこともある。最近ソーシャルメディアに投稿された動画に映っている通りだ。


ウクライナ首都の西約40キロの地点で、破壊されたロシア軍の戦車を調べる男性/Sergei Chuzavkov/SOPA Images/LightRocket/Getty Images

米シンクタンク、海軍分析センターでロシア研究プログラムの顧問を務めるサム・ベンデット氏は、上記のような問題を「設計上の欠陥」と説明。「とにかく弾が当たりさえすれば、たちまち搭載した弾薬に引火し、大爆発を引き起こす。砲塔は文字通り吹き飛ぶ」と述べた。同氏はセンター・フォー・ニュー・アメリカン・セキュリティー(CNAS)の非常勤シニアフェローも務める。

こうした欠陥に対し戦車の搭乗員はなす術がないと、英国陸軍の元将校で現在は防衛産業アナリストのニコラス・ドラモンド氏は指摘する。戦車には通常、砲塔に2人、運転席に1人の兵士が乗り込んでいるが、被弾から「1秒以内に脱出しなければトースト状態」だという。

東部ドネツク州の村の路上に佇むロシア軍の戦車の残骸

「ビックリ箱」効果

ドラモンド氏によると、弾薬の爆発はロシアが現在ウクライナで使用するほぼすべての装甲車両で問題を引き起こしている。特に搭乗員3人に加えて兵士5人を輸送する歩兵戦闘車「BМD4」は、同氏に言わせると「動く棺桶(かんおけ)」であり、ロケット弾が命中すれば「全滅する」。

こうした欠陥について、西側の軍隊は1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争を通じて察知していた。当時イラク軍が配備したロシア製の「T72」戦車の多くは前述のような末路をたどった。対戦車ミサイルが命中すると、砲塔は車体から吹き飛んだ。

ロシアがT72の後継型として1992年に投入した「T90」は、装甲こそアップグレードされたものの、砲弾の装填(そうてん)システムは従来型を踏襲したため、弱点はそのまま残ったという。同じくロシア軍がウクライナ侵攻に使用する「T80」戦車も、同様の装填システムを採用している。


キーウ州の村の路上で破壊されたロシア軍の戦車を見つめるウクライナ軍の兵士/Genya Savilov/AFP/Getty Images

CNASのベンデット氏によると、上記のシステムにもスペースを節約し、戦車の車高を低くできるという利点はあった。

それでも西側の軍隊は、イラクでのT72の惨状を見てすぐに行動に移した。ドラモンド氏によると、弾薬を区分しておく重要性を学んだという。

湾岸戦争後に開発された米軍のストライカー歩兵戦闘車は、砲塔部分に乗員室がない。同氏によると、砲塔は車両の一番上に載り、すべての弾薬がその内部にあるが、もし砲塔が被弾し吹き飛んでも下部の乗員は安全という「とても賢い設計」になっているという。

米国および一部の同盟国の軍隊が使用する戦車「М1エイブラムス」はより大型で、カルーセル式の装塡を採用していない。4人目の搭乗員が壁で隔てられた弾薬庫から砲弾を取り出し、主砲へ装填する。弾薬庫にはドアが設置され、搭乗員はそのドアを開閉しながら個々の砲弾を発射していく。つまりたとえ戦車が被弾しても、砲塔内でむき出しになっている砲弾は1発のみとなる公算が大きい。

「敵弾が正確に命中すれば戦車は損傷するが、必然的に搭乗員まで死亡するわけではない」(ベンデット氏)

また打ち込まれるミサイルから生じる高温で砲弾が燃えることはあっても、爆発はしないという。

ハルキウでの戦闘の後、砲塔と車体が分かれた状態で横たわるロシア軍の戦車

補充は困難

ここまで何台のロシア軍戦車がウクライナで破壊されたのかを把握するのは簡単ではない。オープンソースインテリジェンスのモニタリングウェブサイト、オリックスは28日、少なくとも300台のロシア軍戦車が破壊され、さらに279台が損傷もしくは放棄、鹵獲(ろかく)されているとの見方を示した。

しかし同サイトが集計しているのは、目に見える証拠がある場合のみ。従ってロシア軍の実際の損失はこれをはるかに上回る可能性がある。

しかもこうした損失は装備だけの問題ではない。ウォレス英国防相は冒頭の戦車の損失に関する推計のほか、1万5000人を超えるロシア軍要員が侵攻中に死亡したとも述べている。

このうち戦車の搭乗員が何人いるのか突き止めるのは困難だが、疑いなく言えるのは搭乗員らの補充は容易ではないということだ。


ウクライナ侵攻で何台のロシア軍戦車が破壊されたのか、正確な数は判然としない/Genya Savilov/AFP/Getty Images

戦車の搭乗員の訓練には最短でも数カ月かかり、1年でも早いとみなされることがある。フィンランド国防軍の元戦車搭乗員、アレクシ・ロイニラ氏はそう語る。

そのためロシアが戦争の続くこの時点で数百人の搭乗員を補充するのは無理な注文だろう。使用するつもりの戦車に重大な欠陥があるならなおさらだ。

まるで「ビックリ箱」、ロシア軍の戦車が抱える設計上の欠陥とは

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