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中南米旅した女性写真家、少数民族の超ロングヘアを作品に

長い三つ編みを背中に垂らしたエクアドルのオタバロに住むケチュア族の男性

長い三つ編みを背中に垂らしたエクアドルのオタバロに住むケチュア族の男性/Irina Werning

(CNN) アルゼンチンの写真家イリナ・ウェルニング氏は、過去20年間にわたり、中南米中を旅した。ウェルニング氏には、「世界で最も髪の長い女性たち(そして、いずれは男性たちも)」を見つけるという特別な目的があった。

「ラス・ペリラルガス(長髪の人々)」と題された、ウェルニング氏の一連の作品は、小さな先住民コミュニティーから都市部まで、ラテンアメリカ全体に広がる長い髪への文化的敬意を称(たた)えている。

ウェルニング氏は、旅の途中で出会い、写真を撮った人々から、なぜ髪をかなりの長さに伸ばし、その長い髪を維持し続けるのかについて個人的な理由を数多く聞いたが、多くに共通していたのは、文化的アイデンティティーや先祖代々の伝統における長髪の役割だった。

ウェルニング氏は自身のウェブサイト上で「真の理由は見えないものの、何世代にもわたり受け継がれている」と述べ、さらに次のように続けた。

「これは中南米の文化だ。我々の祖先は、髪を切ることは命を絶つのと同じであり、髪は我々の思考や魂、土地とのつながりを具現化したものだと信じていた」

ウェルニング氏は、髪の長い人々を探して20年近くにわたり中南米中を旅した/Irina Werning
ウェルニング氏は、髪の長い人々を探して20年近くにわたり中南米中を旅した/Irina Werning

3月にミラノで開催されたフォトヴォーグ・フェスティバルで、ウェルニング氏は、主にエクアドルのオタバロに住む先住民族、ケチュア族のポートレート写真を収めた同シリーズの最終章「ラ・レシステンシア」を発表した。

「長年、女性たちを撮り続けてきたので、男性たちを撮るのはどんな感じなのか大変興味がわいた」

ウェルニング氏はCNNとの電話インタビューでそう語った。

ウェルニング氏がそう感じたのは、特に長い髪は、女性らしさを連想させることが多いためだ。

このウェルニング氏の大がかりな作品作りは、アンデス山脈で始まった。アルゼンチン北西部にある先住民族、コジャ族のコミュニティーの学校を撮影していた時、ウェルニング氏は旅の途中で、ひときわ髪の長い女性たちと出会い、その姿を写真に収めた。

髪を伸ばす伝統の保存を念頭に開かれている長髪コンテストに出場した10代の少年/Irina Werning
髪を伸ばす伝統の保存を念頭に開かれている長髪コンテストに出場した10代の少年/Irina Werning

ウェルニング氏は「ブエノスアイレスに戻った後も、その時に撮った写真が頭から離れなかった」とし、「そこで、その小さな町に戻ることを決意した」と付け加えた。

2006年当時は、広く利用されているソーシャルメディアプラットフォームが存在しなかったため、ウェルニング氏は、芸術目的のために長い髪の女性を探している、との張り紙をした。また、訪れた多くの場所で長髪コンテストを開催し、より多くの女性たちを募った。

「少しずつだが、このプロジェクトは広がり始めた」とウェルニング氏は言う。

そして2024年2月、「ラ・レシステンシア」に収めた写真をもって、このプロジェクトを完成させた。

オタバロに住む9歳の少年。本人も母親も、長く伸びたこの髪に誇りを持っている/Irina Werning
オタバロに住む9歳の少年。本人も母親も、長く伸びたこの髪に誇りを持っている/Irina Werning

アイデンティティーのシンボル

三つ編みの髪は、世界のさまざまな地域で、アイデンティティーの象徴であると同時に、植民地主義や体系的な人種差別への抵抗のシンボルにもなっている。

ケチュア族のコミュニティーでは南米、北米の他の先住民族と同様に、男性や少年たちが三つ編みを編んでいるとウェルニング氏は言う。これは、スペイン植民地時代に強制的に髪を切られたり、同化圧力を受けた歴史を乗り越え、自分たちの伝統を取り戻す意味があるという。

「(植民地時代に)征服者たちに長髪を切られたことから、先住民コミュニティーでは、三つ編みの髪はある意味、一種の抵抗なのだ」とウェルニング氏は述べ、さらに次のように続けた。

「三つ編みは、アイデンティティと団結の象徴だった。言語を奪うのは容易ではないが、髪を切ることは非常に簡単にできてしまう上に、極めて象徴的な行為だ」

娘たちの見守る中、息子の髪を編むルミナウィ・カチムエルさん(右)/Irina Werning
娘たちの見守る中、息子の髪を編むルミナウィ・カチムエルさん(右)/Irina Werning

「ラ・レシステンシア」に収められている一枚の写真の中で、伝統的な白いブラウスを着た姉妹たちがテーブルに集まり、父親が兄の髪を編む様子を眺めている。

ウェルニング氏によると、この父親、ルミナウィ・カチムエルさんは、若い頃、学校で差別を受けないようにと家族に三つ編みを切られてしまったという。

しかし、自分が父親となった今、カチムエルさんは、服装や音楽から髪型に至るまで、ケチュア族の伝統を守ることの大切さを子どもたちに伝えようとしている、とウェルニング氏は説明する。

「我々は自分たちの三つ編みを守るために必死に闘ってきた。長い闘いの末に堂々と三つ編みを見せられるようになった」と、カチムエルさんはウェルニング氏とのインタビューで述べた。

「我々は大きな困難を乗り越えてきた。今、私は、子どもたちに、先祖から学び、ケチュアであることの意味を未来の世代に伝えていかなくてはならないと説いている」

父親と共に髪を編む14歳と13歳の子どもたち/Irina Werning
父親と共に髪を編む14歳と13歳の子どもたち/Irina Werning

また別の写真では、父親と二人の息子が一列に並び、互いの髪を編んでいる。ウェルニング氏によると、これができるのは直接の親族同士に限られるという。

「ラス・ペリラルガス」は、年内に書籍として出版される予定だ。シリーズが完結に近づく中、ウェルニング氏は、同プロジェクトを始めて間もない頃に訪れた場所を再訪したという。それらの場所が、ソーシャルメディアプラットフォームの台頭といった大きな文化的変化の影響を受けていないか気になったためだ。

「我々は写真家として、どこか悲観的なところがあって、つい『これは消えつつあるものだから、自分が記録しなければ』と考えてしまう。しかし、それはある意味で正しい。コミュニティーは、グローバリゼーションによって確実に変化しているからだ」とウェルニング氏は言う。

しかし、ウェルニング氏がプロジェクトを始めた北アルゼンチンの小さな町々では、逆に今でもラ・ペリラルガス(長髪の人々)を至る所で見ることができ、うれしく思ったという。

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