(CNN) オーストラリア・シドニー郊外のアナンデールにある古物店。ショーウィンドーに張り出された張り紙は、政府の新型コロナウイルス対策に対する国民の苛立ちを物語っている。
「当分の間休業します。スコット・モリソン(首相)が役立たずの愚か者で、パンデミックが始まってから18カ月たつのに人口の4%分のワクチンしか注文しなかったからです」
シドニーと周辺地域は再度のロックダウン(都市封鎖)に入り、今回は2週間にわたって完全封鎖される。シドニーのボンダイ地域では新型コロナウイルスのインドで確認された変異株(デルタ株)のクラスター(感染者集団)が発生、症例数は27日までに110例に増えた。
オーストラリアは当初、感染拡大の封じ込めに成功して経済活動が平常に戻り始めていた。
しかし連邦政府が十分な量のワクチンを確保できない中で、数例の症例が浮上するたびにロックダウンが繰り返される状況が続いた。シドニーの規制はさらに長期間におよび、国境は1年以上も実質的に閉鎖されている。
店の貼り紙で不満をぶつけたアーティストのジェームズ・ポウディッチ氏は言う。「国民はとてつもなく困難な状況の中でこれを受け入れてきた。しかしほかの国が開放されるのを目の当たりにして、ワクチンの接種状況などに対し怒りをぶつけるようになった」
27日は外出禁止令が出されていたにもかかわらず、ボンダイビーチは大勢の人出でにぎわった。屋外での運動は認められているが、ボンダイに繰り出した人たちは日光浴をしたりベンチに座って飲んだりしていた。
北部準州も州都ダーウィンを含む一部地域で48時間のロックダウンに入っている。金鉱山の作業員1人に関連して新型コロナウイルスの症例4例が確認されたことを受けた措置。作業員はクイーンズランド州ブリスベンの隔離ホテルに1泊した際に感染したと思われる。現在は、この鉱山を離れてオーストラリア各地の都市に向かった900人の作業員全員をたどる作業が行われている。
オーストラリアのこれまでの死者は人口2500万人中910人。人口当たりの比率は世界の中でも極めて低く、症例数も少ない状況が続いている。
世界に先駆けて経済活動を再開し、観光業も盛況だが、大学は留学生からの収入が確保できない中で苦戦し、海外旅行に行きたいという国民の願望も強まっている。
オーストラリアとの往来が認められている唯一の国、ニュージーランドさえも、今回の流行を理由に、隔離なしの渡航を26日から3日間中断すると発表した。
デジタルデータベースの「Our World in Data」によると、オーストラリアでワクチンを完全接種した人は人口のわずか4%にとどまり、途上国のインドネシアやインドに近い。これに対して米国は46%、英国は47%に上る。
加えてオーストラリアでは新型コロナウイルスワクチンに対する抵抗感が強い。シドニー・モーニング・ヘラルド紙とエイジ紙の世論調査によれば、今後数カ月のうちにワクチンを接種する可能性が「全くない」は成人の15%、「あまりない」は14%だった。これに先立つ4月の判決では、英オックスフォード大学とアストラゼネカが共同開発したワクチンについて、血栓を伴う非常にまれな副反応との関係を認めていた。
オーストラリア政府は、人口の約80%がワクチン接種を済ませて集団免疫を獲得した後に国境封鎖を解除したい意向だ。モリソン首相は先に、その見通しを2022年半ば以降としていたが、最近になって、22年クリスマスの再開も約束できないとの見通しを示した。